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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
アイランド・ウォー
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戦争 -1-



 マルボロたちが守りきってくれた本拠点が、鉄建築から木建築へとダウングレードされていく。鉄の壁は木の壁に置き換わり、鉄の土台は最低限必要なものを除いて全部素材に戻されていく。


「まるで金属類回収令の再現ですねー」


 と、Takaはこの有様を見て大昔の戦争で実際に公布されたという勅令を口にした。それは戦争で不足した金属資源を日本中から掻き集めるための勅令だったそうだけれど、俺たちの状況はまさしくそれだ。


 物資が足りない。その一点を解決するために、俺たちは素材に鉄が含まれるアイテムは鍋も包丁も金庫も全部解体していた。戦争で使えるもの以外は例外なく全部だ。


「ちょ、このコップも!? お気に入りだったんだけど!」

「ダメ、話してる暇があるなら解体するよ」


 フューネスは文句を垂れるかなこ♪からコップを取り上げた。そしてコップをインベントリ内で解体して、解体で得られた鉄を専用のアイテムボックスへと投入する。


「この鬼ィ~」

「いいからほかに隠しているものがあったら言って」


 二人のやり取りに苦笑しながら手を動かす。


 ……もちろんこんな非効率的なやり方は本来やりたくなかったのが本音だ。建築物やアイテムを解体した際に得られる素材は元々の七割程度に減ってしまうし、鉄建築から木建築に戻した拠点の守りは極限まで薄くなる。


 それでも無理矢理にでも鉄を掻き集めることにしたのは、今夜の最終決戦には大量の物資が必要になるからだった。もはやわざわざ採取に出かけている時間もない。また悠長に明日攻め落とせばいいさと構えていたら、ロンは容赦なく二度目のオフラインレイドを仕掛けてくる。


 そうなったとき、社会人組に今日と合わせて二日連続の休みを取ってもらい、拠点防衛に当たってもらうのは現実的じゃないし、常識的に考えてあり得ない。


 なぜなら俺たち南海同盟は、リアルを捨ててまでゲームを優先するガチギルドじゃないからだ。社会人組に明日からは安心して出社してもらうためにも、ロンとの決着は今夜一気につける必要があった。


 そういうわけでアイテムボックスに集めた鉄の量を確認していると、マウンテンコンドルに乗って壁の交換作業をしていたキキョウがやってきた。


「マスター。あっちの壁もやっちゃってええん?」

「もちろん。どの壁もじゃんじゃん置き換えていってくれ」

「でもこれいま襲われたらヤバいんやない?」

「大丈夫。今日攻めてダメなら明日の朝に俺たちの拠点はない」

「ええっ、それ大丈夫って言わんて!」


 キキョウは「もう本当にやるからね!?」と念押ししながら、鉄の壁を木の壁に置き換えに向かった。ほかの場所でも、ゲンジや工場長たちが同じように壁を置き換えている。


「よし、これなら間に合うな……」


 俺はシステム画面の時計を見ながら呟いた。


 やはり、本拠点をボロボロにした甲斐はあった。この調子で鉄を集められればマルボロに任せた『戦艦イカダ』の建造も十分可能になる。


 とにかく時間との勝負だ。社会人組は既に会社を休んで一日中ゲームをやっていたことで家族に白い目で見られているみたいだし、俺たちもそのうち眠気との戦いになってくる。


 三姉弟だって九時を回ったら親御さんに今朝の俺同様の強制ログアウトを食らうだろう。


 タイムリミットは近い。時間切れになる前に、すべてを終わらせらないと。


 ――と、仕事を任せていたマルボロから俺にメッセージが届いた。


『マルボロ:準備が終わりました』

『リオン:了解です。いま向かいます』


 メッセージを読み終えたときには、俺はもう砂浜へと歩き出していた。


 今夜の戦争の趨勢を占う最初の一撃だ。


 これから俺たちは、これまでの侵攻で最大の障壁となっていた『海』を攻略する。





 穏やかな波が打ち寄せる海岸線を鉄の塊が移動していた。その数三挺。それらはいずれもイカダに一階建ての鉄建築を載せ、発電機とマシンタレットを備えた戦闘用のイカダ――つまり、『戦艦イカダ』だ。


 最初にマルボロにイカダを改造しようと提案されたときは、イカダなんて改造してどうするんですか? と聞き返してしまった。それは俺がイカダを単なる移動手段としか見ていなかったから出た言葉だったけれど、マルボロはそんな俺の認識を熱弁で説き伏せた。


 その内容はかなり長い話になるから省くが、実際、戦艦イカダは使い勝手が良かった。


 イカダ自体は慣れれば一人でも楽に操舵できるし、鉄建築のおかげで操舵中の身の安全を確保できる。なにより所詮はイカダだからと、失ってしまったときのショックが小さくて済むのがいい。


 ゲーム下手にはケツァールテイルのような重要モンスターの操縦は荷が重すぎるんだよな……。イカダにはそういうミスれないプレッシャーがあまりないのが良いのかもしれない。


 ちなみに、各戦艦イカダにはマシンタレットが八台積み込まれている。それらはほとんどが元々は本拠点に配備されていたもので、代わりに現在の本拠点は丸裸同然の無防備な姿を晒している。


 そんな危険を犯してまで建造した戦艦イカダがまず赴いた先は、ロンが離れ小島に拠点を建てる前に住居として使っていただろうイカダの一団だ。


 この船団の発見に関しては、鉄回収作業をしている間にimpactたち元Quartetメンバーに頼んでやってもらった。


 正直、船団を見つけられるかは運次第だと思っていたけれど、impactたちは離れ小島周辺の海域に捜索を絞ることでかなり早い段階で船団を見つけてくれた。


 工場長は海上に浮かぶイカダの群れを眺めて呟いた。


「こんなにいっぱいあったんけ……ただのイカダが二十以上も」

「俺たちが島の中を探し回っていた間、ロンの奴らはこのイカダであちこち移動し続けてたんでしょうね」


 この予想はマルボロが以前言っていたものだ。あれだけ捜索して見つからなかったロンの拠点は、空中でホバリングさせたケツァールテイルと海上に停泊させたイカダの上にあった。


 イカダにはそれぞれ木建築の簡易拠点が乗っかっている。おそらく内部にはアイテムボックス、化学作業台、薬師キットといった拠点に必要な設備が積まれているのだろう。


 また、たくさんのイカダのうちのいくつかは俺たちの戦艦イカダと同様に鉄建築で覆われていた。マシンタレットは乗っていないけれど、それは単に使わないときは載せていないというだけで、戦闘で使うときに拠点からマシンタレットを持ってくるのだと思う。


 なにせマシンタレットは起動しているだけで電力を食う。海上放置のイカダのために燃料を確保するのは効率が悪すぎるのだ。


 まあ、そのおかげで俺たちはロンのイカダを楽々破壊することができるわけだけど。


「じゃ、ちゃっちゃと爆破していきましょう」

「ほいさ」


 早速俺たちは作業を開始した。メンバーは各イカダを操舵してきた俺、工場長、ゲンジの三人。ちなみにほかのメンバーには別の仕事を任せてある。みんなとはイカダを破壊したあとで合流の予定だ。


 戦艦イカダで運んできた大量のC4を持ち、イカダから海へと飛び込む。


 そしてロンのイカダの船底に泳いでいき、C4を貼り付けては爆破する。イカダの耐久力は木建築と大差ないため、C4が二個もあれば簡単に沈んでいった。


「お、いまごろ来たな」


 一通りイカダを破壊し終わると、離れ小島の方角からロンのケツァールテイルが飛んできた。ギルドログにイカダの破壊ログが並んだからやって来たのだろうけれど、イカダをすべて破壊し終えたいまとなってはもう遅い到着だ。


「さて、それじゃ予定通りこのままロンの拠点に向かって突き進みましょう!」

「「おーう!」」


 遠巻きにこちらの様子を窺うロンのケツァールテイルを尻目に、三挺の戦艦イカダは離れ小島に向けて進路を変えた。



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