失ったもの、手に入れたもの
ケツァールテイルを失った俺たちは、作戦を中止して本拠点に戻っていた。拠点前の広場に集まったメンバーは、それぞれケツァールテイルを失ったことについて話している。
「……ケツァールテイル死んじゃったね」
「まじかぁ、そんなあいつらの強かったん?」
「すみません、私のミスです」
マルボロは心底申し訳無さそうに肩を落としていた。みんなはマルボロが誰よりもケツァールテイルを大事にしていたことを知っているせいか、優しく接してくれている。
一時はマルボロからキツく当たられていた†刹那†も慰めるように言った。
「ま、しゃあないやん。おっちゃんのケツァールテイルと違って、相手のケツァールテイルは変な建築しとったんやろ?」
「ええ、しかし戦闘を仕掛ける判断をしたのは私です。万全を期すならFOBでみなさんと迎え撃つ選択肢もあったんです」
たしかにFOBに敵を誘い込んで戦うというのはあり得た選択だった。でも、相手もわざわざFOBに突っ込んでくるようなことはしなかったと思う。こちらのケツァールテイルとドッグファイトできる状態だったからこそ、勝負に乗ってきてくれたのだ。
「でもまさかって感じだよね~。あたしたちのケツァールテイルって相当強かったと思うけど、建築一つでそんなに変わるなんて」
かなこ♪は腑に落ちないといった表情で首を傾げた。マルボロはそんなかなこ♪に同調するように頷いた。
「私自身も未だに信じられません。しかし、彼らのケツァールテイルは建築の力で異常なまでの硬さを実現していました。マシンタレットは反応していましたが、そのほとんどが建築物に弾かれていたんですから」
現場で音だけ聞いていた俺にもそれはわかった。こちらが銃弾をほぼすべて生身で受けていたのに対して、敵は銃弾の半数以上を建築物でガードしていた。
あれではいくらステータス面で勝っていても被弾数の差で押し切られてしまう。
「建築物でダメージを防ぐって反則くさいな~。バグ修正されないのかな?」
「どうでしょう……レポートを送れば修正の検討はしてくれるかもしれませんが」
そう言ってマルボロは重いため息を吐いた。やはり相当メンタルに来ているようだった。それもそうだ。あれほど管理を徹底していたケツァールテイルが、自分の判断で死んでしまったのだから。
もちろん、その責任の一端は俺にもある。あの状況では残っていた持久力量の問題で戦う以外に択がなかったとはいえ、最終的に戦闘の判断を承認したのは俺だった。
内心でそのことに責任を感じつつ、俺は一歩踏み出した。
「コスニアのバグ修正アップデートが一定周期で行われる以上は、レポート内容が反映されるのは最速でも来週末です。それまで待ってはいられないし、いまはケツァールテイルを装甲で覆うことができる『仕様』を上手く利用する方向で考えませんか?」
「仕様……ですか」
俺たちはロンが編み出した技術に何度も驚かされてきた。
miyabiが彼らのイカダからニードルタレットの種を盗み出したのに始まり、Quartet拠点防衛戦では棍棒の強さを見せつけられた。そして今回のケツァールテイルの背部建築を悪用した装甲化だ。
「俺たちはロンが発見したアイテムや技術にこれまで何度も苦しめられてきました。でも、それらの技術は仕組みさえわかってしまえばこちら側も利用できるもの。ケツァールテイルの背部建築が装甲として使えるなら、俺たちもその仕様を使い倒してやりましょうよ」
「あー、目には目を、ってやつだね!」
「そのとおり」
おそらく俺たちはギルドメンバーの人数ではロンに勝っている。根拠は昨日と今日の襲撃で流れたギルドログだ。プレイヤー同士が殺し殺されれば、ギルドログには該当する行動を取ったプレイヤーの名前が残る。そこに書かれた名前の種類を見るに、ロンは十人にも満たない小規模ギルド。
一方で、俺たちはQuartetと合併してギルドメンバーの総数が十六人にまで増えている。全員が協力して立ち向かえば、たとえ相手が歴戦のサバイバル系MMO集団だとしても勝てない道理はない。
マルボロは話を聞いて再び闘志を蘇らせたのか、深く息を吸って鼻を鳴らした。
「……そうですね、やりましょう! これからケツァールテイルにどう建築を施せば装甲化ができるのか考えてみます。ケツァールテイルもまたテイムしないといけないですね。今夜はまだまだ長いですよ、みなさん!」
「おう、反撃開始や!」
「あはは、大変なことになってきたな~」
「僕と先輩も頑張りますよ」
「勝手に代弁するな」
他のメンバーも気合十分でやる気に満ち溢れている。俺もテストが終わったし、今週からはいくらでも夜ふかしOKだ。
戦争は佳境に入っている。今夜、十分な資材を集め直して明日こそリベンジ戦をしよう。
そして、この戦争に終止符を打つ。
勝利を信じて、俺は十分なファームをした後にコスニアをログアウトした。
――だが、この『明日でケリをつけよう』という判断は甘すぎた。その甘さに気づいたのは、意外にもすぐのこと。それからおよそ七時間後のことだった。




