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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
アイランド・ウォー
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湧き潰し



 学校から家に帰宅し、すぐさまコスニアにログインして拠点のベットで起き上がる。


 今日はロンとの戦争二日目だ。昨日は早期の撤退を余儀なくされたけれど、その分、資源採取も進めることができた。


 メンバーが集まりだす夜にはもう一度攻撃して、今日こそはあの拠点を落としきりたい。決意を新たに、俺はギルドログで拠点が無事なのを確認してから、かなこ♪を誘って鉄採取に出発した。


 しかし、採取場にやってくるなりその場に起きている異変に気づいた。


「ん……?」


 最初に感じたのは小さな違和感。


 まず、いままで山裾のあちこちに点在していた鉄鉱石が、今日に限ってはどこにも見当たらなかった。それはちょっと量が減ったなとか、調子が悪いなという生易しいレベルの話ではない。本当にひと欠片も見つからないほど鉄鉱石がまるっと消え去っていたのだ。


 既にほかのメンバーが採取を済ませたとかではなさそうだった。なぜなら、いつもなら鉄鉱石が湧いているだろう位置に、鉄の土台がピンポイントで設置されていたからだ。まるで鉄資源の湧きを阻害するような土台の数々に、俺は久しぶりに背筋が凍りついた。


「うわ! 土台がめっちゃ置かれてるじゃん!?」


 ハンマーヘッドブルに乗っていたかなこ♪もその異常に声を荒げた。


「……あんなの昨日までは無かったよな?」

「ないない! 昨日見たときは設置されてる建材なんて一つも見当たらなかったし」


 かなこ♪はぶんぶんと横に首を振りながら言う。


 昨日まではたしかに鉄の土台は設置されていなかった。あれが誰によって設置されたのかは、土台に触れてみればすぐにわかる。


 俺はケツァールテイルを地上に降ろして、設置されていた鉄の土台に触れた。


【ギルド:Rồng】

【鉄の土台 30000/30000】


「ロンの仕業か。やられたなこれ……」


 しまった、と俺は額を抑えた。


 まさかこんな手に出てくるとは予想もしていなかった。


 ロンがやったのは、一定時間で復活する鉄鉱床が二度と復活しないようにするための湧き潰しだ。この湧き潰しという行為自体は、別ゲーでもたまに見かける行為でなにも珍しいものではない。


 例えば、PvEオンリーのオープンワールドゲームでは、生活拠点の中に敵モンスターが湧かないようにするため、モンスターの湧き場所にモンスターの湧きを阻害するアイテムを設置することがある。


 それを重要資源である鉄に行った。ただそれだけのこと。


 行為自体は単純ながらも湧き潰しの効果はあまりに大きい。鉄が採取できないのでは、拠点の強化もマシンタレットの増産も進めることができない。


「これ不味くない? 資材集めするにも、そもそもの鉄鉱床がないんじゃどうしようもないし……」

「うん……爆発物で鉄の土台を壊すのもコスパめちゃくちゃ悪いし、かなりファームが遅れることになるな」


 C4の作製に鉄は不要だから、鉄の土台の破壊自体は難しいことじゃない。ただ、それはあまりに時間と資材を使いすぎる。戦争中の現在、ファームが少しでも遅れてしまうのはダメージが大きい。


「とりあえず一旦拠点に戻ってC4を取ってこないとだな」

「でも、また土台を設置されたら意味なくない?」

「あ、そっか……ってそれじゃどうすりゃいいんだ?」


 そこで思考が止まってしまい、俺たちは途方に暮れてしまった。


 そう、いかに爆発物で鉄の土台を破壊しても、それは一時的な措置に過ぎない。再び鉄鉱石の湧き場所に土台を設置されたらまた爆発物を使わざるを得なくなり、いたちごっこになってしまう。


 この難題の解決策は、結局マルボロがログインしてくるまで見つけ出すことができなかった。





「なるほど、ロンは湧き潰しをやってきましたか……」


 マルボロは現場の様子を見て、さほど悲観した様子もなくなるほどと頷いた。


「どうにかできないっすかね……」


 意見を求めながら、俺は斜面に点在する無数の鉄の土台に目を向けた。


 あれから俺とかなこ♪、後からログインしてきた他のみんなは鉄の採取は後回しにして、モンスターのテイムと爆発物作りに専念する他なかった。


 ひとまず土台を破壊してしまうのもアリではあったけれど、鉄の土台を破壊するために必要なC4はかなりの数になる。ロンが土台を再設置すれば土台の排除は無駄骨になってしまう都合上、明確な対策が見つかるまでは放置するしかなかった。


 さらに言えば、メンバー間の論調は建築についてはマルボロに助言を仰いでからというものに収まっていた。俺も建築についてはマルボロを信頼しているし、マルボロのログインを待ってから行動に移すのがベストだと判断した。


 当のマルボロは、そんな周囲の期待には無自覚なまま、問題の解決に自信を見せた。


「大丈夫です。みなさんが採取した資材を使ってずっと建築ばかりやってきましたからね、湧き潰しの仕様についても把握済みですよ」

「ああ……なら良かったです。それで、具体的にはどうするんですか?」

「実際に見たほうが早いと思います。まずは土台を破壊しましょうか」


 言いながら、マルボロはロンが設置した鉄の土台をC4で破壊した。その過程でわかった鉄の土台を破壊するためのC4の数は10個。


 痛い出費だなと思いつつ、マルボロがやることを見守る。


 マルボロが鉄の土台の破壊後に行ったのは、鉄鉱石の湧き場所付近に鉄の柱を設置することだった。


「鉄の柱を設置したら、また湧き潰しになっちゃうんじゃ?」

「鉄の柱は湧き潰しにはなりません。というのも、建築資材の持つ湧き潰し判定は範囲がそれぞれ違うんですよ。今回設置された鉄の土台は湧き潰し判定がとても広いですが、鉄の柱は接地点だけにしか湧き潰し判定を持っていません」


 建築資材によって湧き潰し判定の範囲が違うというのは初耳だ。しかし、せっかく鉄の土台を破壊したのに、自分たちで鉄の柱を設置する意味がわからない。


「なるほど……じゃあ、鉄の柱はどうして設置したんですか?」

「これはロンに土台を設置させないための湧き潰し潰しってところですかね」

「湧き潰し潰し?」

「はい。この前のカルテット拠点防衛の際、我々はカルテットの拠点のすぐ近くにFOBを建設しましたよね」

「はい。タカさんが建築してくれたんでしたっけ」


 FOB(前線基地)という言葉がマルボロの口から自然と出てきたので、FOBという呼び方はこのまま定着するのかな? などと思いつつ、マルボロの言葉に相槌を打つ。


「あれは同盟同士だから出来たことなんですよ。普通は、別ギルドの拠点の付近に建物を建てることは出来ません」

「あ、そうなんですか? じゃあ……鉄の柱を設置すれば……」

「そうです。ロンは我々の設置した鉄の柱の付近に土台を設置できなくなります」


 ややこしい仕様だけど、大雑把にまとめるとコスニアのワールドに湧く資源は土台などを設置することで湧き潰しすることができる。その湧き潰される範囲は建築資材によって違っている。同盟を組んでいないギルド同士はお互いに近くに建築物を設置することができない……ってことらしい。


 マルボロはさらにロンの設置した土台をC4で破壊しながら言った。


「にしても困りましたね。再発防止は簡単ですが、それでもこのタイミングでC4を無駄遣いさせられるのは痛い」

「先手を打てていれば良かったんですけどね……」

「いやぁ、これは仕方がないですよ。私も彼らがここまで徹底的にやるとは思っていませんでしたから」

「そうですね……」


 マルボロの意見にまったく同意だった。


 俺もロンのメンバーが資源の湧き潰しという大胆な手を使ってくるとは考えてなかった。これは若干使う場面が間違っている言葉だと思うけれど、鉄の湧き潰しはいわゆる焦土作戦ってやつにカテゴライズされる作戦だと思う。


 だって初期島内での鉄の採取を封じれば、困るのはロンのほうも同じなのだ。それでも作戦を強行してきたということは、それだけロンは俺たちへの妨害を本格化させてきたということ。


 今日のところは直接彼らからの襲撃を受けていないけれど、近いうちにロンが俺たちの拠点を襲撃する事態も起こりうる。


 というか、必ず起こると思って身構えていないといけない。


 その前に出来ることは、やはりこちらから討って出ての先制攻撃になるわけで。


 俺が攻撃作戦について考え始めていると、同盟用のグループチャットにメッセージが届いた。


『impact: Damn!!! the offline raid destroyed our base!!! (くそ!オフラインレイドで俺たちの拠点が壊滅した!)』


「なっ……!?」


 メッセージ内容を読んで俺は言葉を失った。


 認識が甘かったと言わざるを得ない。俺はロンの襲撃は明日以降のもっと先の話だろうと高をくくっていた。しかしそうじゃない。もうロンの攻撃は始まっている。目に見えないところから、着実に戦争は深度を増していた。




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