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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
アイランド・ウォー
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ログアウト -12-



 英語の授業中、俺は授業とは関係ないベトナム語の参考書を開き、日常会話で使う基本的な言葉をひたすら書き取っていた。


 ベトナム語を勉強しようと思い立ったキッカケというか理由は、やはりロンとの戦争が始まってしまったことが大きい。


 戦争がどういう経過を辿ることになろうとも、相手の使う言葉が一切わからないのでは、それはゲームとして楽しくないし面白くない。現実の戦争だって、戦争相手の国と最低限のコミュニケーションぐらいは取っている。


 それすらない戦いってのは、たぶん人類史が生まれる以前の人が猿とほとんど変わらない時期のものぐらいなんじゃないだろうか。


 もちろん、コスニアで行われている戦争はある程度現代的だとは思う。テイムモンスターは大体が現代兵器に置き換えられる能力を持つ。例えば、アングリーライノは戦車のように運用可能だし、ケツァールテイルはマシンタレットを装備することで戦闘ヘリのように地上を掃討することができる。


 いま俺たちがやっている戦争はそういう意味でだいぶ歪なものになっているのだ。手持ちの武器はほぼ最新なのに、戦争の理由は「言葉が通じないから」とか、「島を自分たちのものにするため」とか。


 言葉のない戦争に落とし所なんてものはないと思う。こんなことは高校生の俺にも簡単に想像できる。俺たちの戦争は、ひたすらお互いを攻撃し合うだけで明確な終わりが存在しない。自分たちが生き残るか、消え去るか……つまり、両陣営のどちらかが全員引退するまで続いてしまう。


 その二択以外の選択肢を見つけるためには、結局のところどちらかが歩み寄らないといけない。相手の言葉を稚拙でも不完全でも理解して、コミュニケーションを取らなければ始まらない。


 ……まあ、幸い俺は既に英語と日本語という二つの言語を話すことができるバイリンガル。言語習得にかけては一日の長があるつもりだ。それにベトナムは元々漢字文化圏であったようで、日本語に似ている言葉が多い。


 日本語には「国旗」という言葉がある。これをベトナム語では「Quốc kỳ」と書き、コッキーと読む。こういう風に言葉で聞くと意味が同じ単語が本当に多いのだ。


 そりゃ当然細かい文法作法の違いとかはある。けれど、それにしたって昼休みにベトナム人留学生であるグエンに質問すれば解決できるレベルのハードルだと思う。


 時間はあまり残っていない。今夜もどうなるかはわからない。それでもやれることをやって、後悔したくない。


 そう思ってシャーペンを動かしていると、授業中ずっと俺の内職を見逃していた篠原が口を開いた。


「赤沢くん……それなんの勉強?」


 いつものような呆れ顔とは違い、篠原は興味深そうに俺のノートを見ていた。俺はノートに書いたベトナム語の挨拶を見せながら言った。


「Xin chào――ベトナム語だとこんにちはって意味だ」

「シンチャオ?」

「そう、もう一回言ってみて」

「シンチャオ」

「もう一回」

「シンチャ――」

「おいそこぉ! 点数取れてるからって遊んでるんじゃないぞー」


 と、さすがに悪ふざけが過ぎたようで、教壇に立っていた英語教師に注意されてしまった。


 ベトナム語勉強の続きは、また空いた時間に進めないといけなさそうだ。英語教師に謝りながら、俺はノートにもう一行Xin chàoと書き写したのだった。



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