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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
ギルド結成
9/102

武器と相性


「……これを試してみるしかないな」


 誰に言うともなく口にしたつぶやき。しかし顔を上げると、フューネスは俺の顔を覗き込んでいた。長い髪の少女が、俺に真っ直ぐな視線を向けている。


「何か思いついた?」

「あ……うん。まず武器を変えてみよう。ダメージの計算式には武器属性相性ってのがあるらしい。属性の違う武器ならダメージが入るかもしれない」


 ヘルプ欄には相関図のようなものはなかった。だからどの武器がアングリーライノに有効なのかはわからない。可能なら作れる武器を全部作って手当たりしだいに試したいところだが、状況的にその猶予はない。


 選択肢は投石具、スリングショットの二つ。フューネスと手分けしてそれぞれ作ってみてもいいけれど、それだともう片方がハズレだったときに火力が足りずに押し切られるかもしれない。アイテムの作成には少しばかり時間が掛かるのだ。


 どちらか一方。それが当たりであることに賭ける。


「……投石具を作ろう。フューネスさん、海岸でレベリングしてたならジャイアントクラブだけじゃなくグランドバードも狩ってたよね?獣皮が必要だから分けてもらえると助かるんだけど」

「わかった。アイテム移動はまとめて渡すならトレードのほうが早いかな」

「それで」


 フューネスに触れてトレードを申し込み素早く獣皮を受け取る。その間にもアングリーライノは執拗に突撃を繰り返し、地鳴りのような衝撃を響かせた。


 作る武器を投石具に決めた理由は、単に威力面で考えると圧倒的に投石具に軍配が上がると考えたからだ。スリングショットは使い勝手や連射性能は高そうだが、大型モンスターに撃つには非力に思えた。


 家の壁がもう一枚弾け飛び、木片がポリゴンとなって消えていく。俺は焦る気持ちを抑えながら投石具を作成した。


【投石具】

・基礎攻撃力 +30

・耐久値10/10


 投石具は縄にソフトボール大の石を括り付け、遠心力で勢いをつけて石を射出する武器だ。弓矢のような取り回しの良さはないが、当たったときのダメージはおそらくかなり高い。


 準備を整えて、俺たちは全員投石具を構えた。


「ぎりぎりまで引き付けよう。外したら次の用意にまた時間が掛かる」


 壁に突撃したアングリーライノは、一旦後ずさって助走をつけているところだった。奴が再び壁にめり込んだ直後がチャンス。そこに逃がさず石を投げ込めばいい。


「ブルォォッ!」


 アングリーライノは待ち受ける俺たちを恐れる様子もなく、また直線的な突撃を仕掛けてきた。さらに壁が吹き飛び、今度は屋根の一部までもが消し飛んだ。


 これ以上は好きにさせられない。俺はアングリーライノの脳天に狙いを定めた。


「今度は当たってくれ!」


 縄がしなり石が投じられる。俺の祈りが通じたのか。投じられた3つの石塊はほぼ同時にアングリーライノの頭を打った。途端に弓矢のときとは比にならない量の赤いポリゴンが弾け飛ぶ。


「ゴ、ゴアァ……」


 さすがのアングリーライノも怯むような仕草を見せた。ふらりと脳震盪を起こしたようによろめき、なんとか踏み留まるようにして耐えている。


 やはり、矢と投石では攻撃の属性が違うということらしい。


「しゃ!」


 フューネスはグッとガッツポーズをした。


「ってフューネスさん?」

「あ、いやちょっと……」


 言いながら、彼女は恥ずかしがるように背を向けてしまった。俺は笑いながら言った。


「いや別にいいよ!この調子で行こう!」


 すぐさま次の用意をする。作成のクールタイムを待つ間、俺はアングリーライノの様子に目を向けた。脳天に食らったダメージが大きいのか、未だにアングリーライノは身体をふらつかせている。


 これはもしかして……。


 ふとしたひらめきから、ある考えが思い浮かんだ。


「フューネスさん、次はあいつの足を狙うってのはどうかな?」

「足?」

「うん、ジャイアントクラブを狩っているときと同じだよ。足を狙うのが効果的になるかもしれない」


 フューネスは一瞬きょとんとした顔をしたが、俺の言わんとしていることを理解したのかすぐに頷いた。


「たしかにいいかもしれない」

「でしょ?じゃあ次は足狙いでやってみよう」

「どういうことです?足を狙うって」

「見てればわかりますよ」


 話を飲み込めていない様子のマルボロへの説明を省いて、すぐさま第二射を試みる。さきほど頭を打たれて怯んでいたアングリーライノは、今度は前足に投石を食らって悲鳴を上げた。


「ブォォァッ!?」


 巨大な体躯を支える足がダメージを受け、アングリーライノの巨体が崩れ落ちる。最初の余裕そうな面も掻き消え、身体からはダメージの蓄積を示す出血描写が現れていた。


 さすがのアングリーライノも不利を悟ったのか、それまでは猪突猛進に突っ込んでいたのに急にこちらに背を向けた。


 マルボロは慌てたように言った。


「あいつ逃げる気ですよ!」

「心配いりません」


 コスニアには部位破壊のシステムが採用されている。それはジャイアントクラブと戦ったときに自分自身で確認済みだ。逃げようと背を向けたアングリーライノは立ち上がって走り出そうとするも、すぐに膝を折って地に伏した。


 フューネスは満足げな顔を見せた。


「アングリーライノにも部位破壊は有効だったね」

「ああ、これで逃がさず奴を倒しきれる」


 部位破壊はプレイヤーだけでなくモンスターにも平等に適応される。プレイヤーが足にダメージを負えば歩けなくなるように、モンスターも足にダメージを負えば逃げられなくなる。


 部位破壊の仕様について理解できたこと。これは一つの収穫だな。


 俺は拠点の屋根から降りてアングリーライノのところへと歩いて行った。そして至近距離まで近づき、絶対に外さない距離で投石具を手にした。ここまで近づけば俺でも簡単に命中させることができる。


「ブォッ!?ブォッ!?」

「いまさら後悔しても遅いぜ。家を壊された恨みを食らえやああっ!!!」


 ――憎しみを込めて放たれた石の塊は逃げ場のないアングリーライノに直撃し、奴のライフをゼロにした。


『レベルが上がりました』


【獲得アイテム】

・ライノの白角

・獣皮 x34

・アングリーライノの生肉 x56


「倒せたー!」

「やりましたねぇ」

「…………」


 俺は叫び、マルボロは拍手し、フューネスは無言で小さなガッツポーズをした。


 ファンファーレは鳴らないけれど、大型モンスターを倒せた喜びに胸が熱くなる。フューネスは拠点の上から降りてこちらに走ってきた。


「リオンさん。こっちにドロップアイテムが入らなかったから、ラストヒットを決めた人に素材が全部渡るんだと思う。何か貰えた?」

「ああ、獣皮と生肉。それとたぶんユニークドロップのライノの白角が手に入ったよ。全部アイテムボックスに入れるね」

「うん、お願い」


 俺はアイテムボックスに取得アイテムを突っ込んで効果をみんなと確認することにした。


【ライノの白角】

・ライノ系モンスターから手に入る白角。料理や装飾アイテムの作成に必要。


 うーん?具体的な用途の説明がないから、実際どう役立つのかわからないな。


 料理にも使えるということは豚骨スープのように良い出汁が取れるのか?あるいは鰹節みたいに削るのか?


 腕を組んで首を傾げていると、マルボロが推理するように言った。


「何かレシピのようなものが必要なのかもしれませんね」

「あー、そうかもしれないっすね」

「とりあえずアイテムボックスの肥やしでいいんじゃない?」

「そうだな」


 フューネスの言葉に頷き、アイテムボックスを閉じる。ふう、一件落着だ。けどまあ……うん、拠点の風通しが良くなっちゃったな……。


 アングリーライノに壁も屋根も破壊され、拠点は完全に野外同然のオープンスペースと化している。アイテムボックスを守るためにも修繕しないと。


「サイも撃退できたし、とりあえず直しますか」

「私が一人でやりますよ。元はと言えば私のせいで壊れたんですし……」


 マルボロは気まずそうに残っている壁の耐久値を確認し始めた。


「気にしないで良いっすよ。みんなでやりましょう」


 土台が無事だったから、壁と屋根を何枚か直せば修繕は終わる。アイテムボックスに貯めておいた資材を使えば手間も掛からないだろう。


「あ、ごめん。私明日学校早いからそろそろ落ちないと……」


 作業に取り掛かろうとすると、フューネスは用事を思い出したように言った。


「ああ、いいよいいよ。このくらいならすぐ終わるし、おつかれー」

「お疲れ様です」

「あの……それと、明日は私の友達も連れてきていい?」

「友達?もちろん構わないけど、合流ってどうするの?」


 事前情報にその辺りの話ってあったっけ。俺はフレンドと一緒に始める気がまるでなかったからな……。シナリオ周りは読み込んだけど、コミュニティ機能に関する情報についてはあまり覚えていない。


「ヘッドギアにフレンド登録してあればゲームスタート時にポッドの落下地点を合わせることができるのよ」

「そうなんだ、なら大丈夫か。俺は明日もログインするけど……その友達ってなんて名前でキャラ作る予定?」

「それはどうだろう……まあ私も一緒にログインするから」

「わかった」

「お願いね。じゃ、おつかれ」

「ほーいおつかれ」

「……」

「あれ?」

「……」


 ログアウトすると言って落ちたはずのフューネスはその場にごろんと横たわる。呼び掛けても返事はなく、肩を叩くと彼女のインベントリが開かれてしまった。


 そのまま困惑していると警告音が鳴った。


『ログアウト中のプレイヤーです。殺害やアイテムの強奪目的以外の過度な接触は倫理規定に基づき罰せられます』


「ログアウトしても身体だけ残るのかよ!?」

「これでは建物の外では気軽にログアウト出来ませんね」


 一応、サバイバル系のゲームについて調べたときに、そういう仕様のゲームもあるのだと知識として頭に入れていた。けれど、実際に目の当たりにするとなかなか衝撃的だ。


 ログアウト中のプレイヤーからはアイテム盗み放題だなんて、本当にハードなゲームだな。


「最初に拠点を建てといて正解だったみたいですね……。砂浜はおっかない外国人プレイヤーがうろついてるし、知らずにログアウトしたらまたキルされるところでした」

「リオンさんキルされたんですか?」

「ええ、地上に降りて一分でいきなり外国人にやられました」

「そりゃまた物騒な」

「あれで気が引き締まったんで結果オーライです」


 にしてもこのゲーム、一つ一つの仕様を身体で理解していかないと攻略できないタイプのゲームのようだ。ここまでプレイしていて、一度失敗しないと気づけないような要素がけっこうあった。武器の耐久値や部位破壊もゲーム内でようやく把握できた要素だし、事前情報にはその辺りのことはロクに書かれていなかった。


 そういえばコスニアはアーリーアクセス扱いのゲームだったんだよな……。今後も同じように想定外の仕様が判明することもあるかもしれない。


「ログアウト前はちゃんと拠点の扉閉めておかないとだね……ところで、リオンさんは落ちなくて大丈夫かい?君も学生だろう?」


 マルボロはシステム画面を開き、俺の事を気遣うように言った。


「んー、そうですね。もう少し遊びたかったけど、家の修理を終わらせたら落ちます。マルボロさんは?」

「私は帰りが遅くて朝も遅い職場だからもうしばらくはログインしているよ」

「社会人の方ですもんね」

「あ、だからって別に畏まらないでいいよ?社会人って言っても上に扱き使われているだけの社畜だからね」

「はは……わかりました」


 VRゲームはそこそこ良い値段がするため、プレイヤーの平均年齢はほかのアナログゲームよりも高いと言われている。俺のような高校生はプレイヤー全体から見れば比較的少数派なのだ。


 それから俺たちは修理に必要な素材を集め、壊れた建材を一つ一つ修理していった。


「おし、修理完了。お疲れさまでしたー」

「はい、お疲れ様―。また明日―」


 メニュー欄からログアウトを選択する。すると俺は夢から醒めるようにして現実世界に戻ってきていた。凝った身体をほぐすように軽く伸びをする。


「んー……面白かった。明日はフューネスさんの友達が来るらしいし、出来るだけ早めにログインしないとなぁ」


 にしても、初ログインでいきなりギルドまで組めるとは思わなかったな。これはいまから明日の予定を考えるのが楽しみだ。


 俺は期待に胸を膨らませつつ、ヘッドギアを充電器にセットし直し、学校に備えて眠ることにした。


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