一夜城
海岸に現れたというロンのケツァールテイルは、俺たちが現場に駆けつける頃には姿を消していた。
これにはひとまず安心という気持ちよりも、逃がしてしまったという思いのほうが大きかった。このまま放っておくわけにもいかないし、ロンがより力をつける前に叩く必要がある。
後からログインしてきた社会人組にも事の次第を報告し、俺たちはロン対策のための武器製作に取り掛かった。
「リオンさん、こういうのはどうでしょう?」
俺は本拠点裏の工房で設計図一覧をスクロールしているとマルボロに声を掛けられた。
振り返ると、マルボロの手には物騒な長物が握られていた。
「それは……?」
「ハンティングライフルです。これならマシンタレットの射程外から攻撃が可能ですから、ケツァールテイルに十分対抗できるでしょう」
マルボロの作ったそのライフルは、木目のストックが特徴的な狩猟銃だった。スコープはちょっとした望遠鏡のように大きく、銃身は狙撃銃のように長い。
「良さそうっすね。これ何本くらい作れます?」
「素材に鉄200と雑多な素材が少々必要なので、いますぐとなると五本くらいが限界ですね」
「なるほど……なら五本作って撃ち合いが得意そうな三姉弟とフューネスかなこ♪に装備してもらったほうがいいですね」
こういう武器は対戦ゲームが得意で、反射神経も良さそうなメンバーに携帯してもらうのが良いと思う。ほかのメンバーにはマウンテンコンドルやケツァールテイルなど、状況判断力が必要なモンスターに乗ってもらえばバランスも良い。
俺自身はまあ……戦闘は苦手だし、後ろで見ている感じの役割を担えばいいか。
そんなことを考えながらPvPのための準備を進めていく。
それからマルボロは俺の指示に従って、ただちにハンティングライフルを五本作って三姉弟・フューネス・かなこ♪の五人に支給した。
弾薬分の鉄も拠点用のものを転用することでなんとか捻出し、とりあえずは戦闘できる態勢が整った。
あとはロンの拠点を見つけて叩くだけ。俺は拠点に戻る途中でフューネスとした『ロンの拠点は空中にあるのでは?』という説をマルボロにぶつけてみることにした。
「なるほど、空中拠点ですか……」
話を聞いたマルボロは興味深そうに顎に手を当て、拠点の横に置いていたケツァールテイルに乗り込んだ。
「リオンさん、検証してみるので一緒に乗ってください」
「了解です」
二人でケツァールテイルに乗って空を飛ぶ。飛んですぐに、マルボロはケツァールテイルにホバリングを指示した。
「ケツァールテイルってこんなこともできるんだ」
ケツァールテイルはキツツキのように羽を器用に動かして、空中で静止状態を維持し始めた。
「これは凄い。リオンさん、ケツァールテイルの持久力を見てみてください」
「はい――って、これ全然持久力が減ってないじゃないですか!?」
ステータスに表示されたケツァールテイルの持久力は、空中で静止してからは一切の減少が止まっていた。
「なるほど。では、ケツァールテイル前方に移動しろ」
マルボロがさらに指示を出し、ケツァールテイルを移動させた。すると持久力は再び減少し始めた。
これはつまり、ケツァールテイルは移動しているときだけ持久力が減り、移動していないときは持久力が一切減らないことを示していた。
「フューネスの言ってたケツァールテイルはずっと空を飛び続けられるって話は本当だったみたいっすね」
「こうなると、やはりロンが空中に拠点を作っていたというのは事実かもしれませんね。それと……空中拠点があるなら、海上拠点というのもあると思いませんか?」
「海上拠点……? それはどうやって作るんですか?」
「イカダですよ。あれも建築をすることができるでしょう?」
「あ、言われてみればたしかに……」
イカダにはケツァールテイル同様、建築物を設置することができる。しかもイカダはコストが安い。ケツァールテイルの空中拠点は安全性こそ高いものの、積載量の関係であまり規模の大きい拠点は作れない。だが、大量のイカダを用意するのであれば俺たちの本拠点と同等の積載量を確保することもできなくはない。
いや、待てよ、それ以前に――。
「マルボロさん、ミヤビさんがこの島の海岸に乗り付けていたイカダからニードルタレットの種を盗んだって話は覚えてますか?」
「ああ、はい。あれをキッカケに我々はニードルタレットの存在を知ったんでしたっけ」
「ええ、もしかしたらですけど……そのイカダってロンのイカダだったのかもしれません」
あのとき、俺はmiyabiが種を盗んだ相手がQuartetのイカダなのではと疑い、相手ギルドの名前について確認を取っている。Takaは英語に似たよくわからない文字のギルドだと言っていたけれど、それはロンの特徴と完全に一致していた。
マルボロは俺の目を見て確信を持ったように頷いた。
「そういうことでしょう。ロンは海上拠点、空中拠点を持ち、これまで密かに準備を進めていたのだと思われます。金庫が海中にあったのもイカダからの回収が容易だからだと考えれば辻褄が合います」
「じゃあ、初期島近辺の海上を探せば連中の大船団が見つかるかもしれないっすね」
「ええ、しかし気になりますね。彼らはどうして急に我々の前に姿を現したのでしょうか。海上拠点は移動可能な利便性の高い拠点かもしれませんが、オフライン中に見つかれば通常の拠点よりも守りは薄いはずです。なのにリスクを犯してまで攻撃を開始した理由は……もしかしたら、もう準備は整ってしまったのかも……」
マルボロが気になることを言いかけたところで、マウンテンコンドルに乗った工場長がすぐ横に降りてきた。
「見つかったらしいだ! あいつらの拠点!」
慌てたように言う工場長は、グループチャットを開いているのか視線が宙を向いていた。急いでグループチャットを開くと、そこにはマルボロの予想を裏付けるようなチャットと画像が投稿されていた。
『フューネス: 離れ小島にロンが拠点を建造中! みんないますぐ来て!』
投稿された画像には、全面鉄で覆われた守りの堅そうな拠点が写っていた。しかも、その鉄拠点が建てられているのは紛れもなく、先日、俺とフューネスとかなこ♪が三人で探索した離れ小島だった。
 




