成長
ケツァールテイルのテイムは前回よりも遥かにスムーズに進んだ。
それは一度テイムを成功させた経験があるおかげでもあったけれど、やはり一番はテイムにケツァールテイルを使えるのが大きかった。マウンテンコンドルでテイムしたときは不安定な状態で矢を放たなければいけなかったのが、ケツァールテイルに乗っていればたしかな足場の上で狙いを定めることができる。
さらに、四人以上の複数人で同時に弓矢を放てるから、昏睡値もすぐにマックスにすることが可能になった。おかげでケツァールテイルが遠くに逃げる前に安全な丘陵地帯に落とすことができ、昏睡値管理を少人数で行える態勢をすぐに整えられた。
いまは俺とキキョウが担当で、眠り続けているケツァールテイルの面倒を見ている。
キキョウはケツァールテイルのインベントリにアクセスしながら言った。
「マスター、ウチとの持ち回りで良かったん?」
「うん? なにが?」
「ほら、フューネスさんとじゃなくていいのかなーって」
「そういう関係じゃないって言ったろ? それにフューネスはカナと組んで先に管理に付いてもらってるし」
俺とキキョウは順番的には三番目だ。最初はフューネスとかなこ♪が担当し、次は†刹那†と針金、プラスお目付け役としてマルボロがケツァールテイルの昏睡管理をした。
ゲージの進み具合的には俺とキキョウがついている間にテイムは終わるだろうから、あとのみんなにはそれぞれの活動やファームに専念してもらっている。
俺もフューネスとかなこ♪が当番の間、自由に動ける時間でQuartetの拠点を視察しに行っていた。
Quartetの拠点は見たところだいぶ強化が進んでいた。ロンの襲撃でモンスターの被害こそあったものの、生産設備が無傷だったのが大きかったらしい。
マシンタレットやニードルタレットの配備も既に終わっているし、あとは俺たちと同様にそれらの数を増やしていく段階に入っている。
「それよりキキョウはどうなんだ? フューネスたちが番をしていた間に、マルボロさんと話してただろ?」
「あ、うん。なんかケツァールテイルの管理どうこうでめっちゃ謝られてビックリしたわ~。別にウチらが迷惑かけ気味なのはホントやし、弟たちが大事なモンスターを殺さへんようにルールを作るんは当然やのに」
「そういうわけにはいかないって。同じギルドメンバーである以上、俺たちは公平な立場なんだ。そもそもゲーム内で上下関係なんて作っても堅苦しいだけだろ?」
「あはは、まあそれもそうかな?」
キキョウは笑顔で言ってから、ふと溜息を吐いた。
「にしても弟たちには困ったわ……」
「どうしたんだ?」
「最近、コスニアにハマりすぎて学校ズル休みしようとしとんねん。あんまり押さえつけてもすぐ喧嘩になるし、どないせいっちゅうねん」
「うわぁ……やっぱお姉さんは大変だな」
「まあね、でももう慣れた。両親が共働きやさかい、ウチがしっかりせんと」
そう言うキキョウは頼りがいのある姉の顔をしていた。一人っ子で生きてきた俺にはキキョウがどういう気持ちでやってきたかはわからない。
しかし、少なくとも姉としての責任感を見せるキキョウには尊敬の念を覚えてしまうのはたしかだった。
年下なのに俺よりもよっぽどしっかりしている。でも、だからこそあんまり肩肘張らずに気楽に構えていて欲しくもある。
「ゲームの中でくらいもう少し気を抜いてもいいんじゃないか?」
「気を抜くって弟たちを好きにさせるってこと? そんなん無理無理! 絶対酷いことになるやん」
「だからってゲームでストレス溜めてたら本末転倒だろ。ゲームは楽しむためにやるもんだ。そりゃ最低限の礼儀は必要だけど、弟たちだってそろそろ学んできたんじゃないか? ギルドに所属している以上は自分たちが好き勝手したら周りに迷惑が掛かるってことくらいはさ」
俺だって別ゲーで初めてギルドに入ったときは†刹那†たちと同じだった。失敗して、ミスをして、それを繰り返して、ギルドという共同体のためにどうすればいいのかを知っていった。
キキョウはその辺りを現実社会の人間関係に当てはめて考え過ぎている節がある。だからこそあまり失敗を犯さず弟たちを押さえてくれているのだろうけど、それではゲームに入り込んで楽しむことは難しい。
マスターとして言っちゃいけないことだが、ゲームは他人に迷惑を掛けてなんぼなのだ。そりゃ何も迷惑を掛けずに過ごせればいいけど、それは何もしないということ。プレイヤーは自ら行動を起こし、それが他人にどういう影響を与えるか知ることでしか成長するができないものだと思う。
それはPvPしかり、ギルド運営しかりだ。
俺もさっき、マルボロにギルドマスターとして話をしたことで一つ成長できた自覚がある。同じようにキキョウにも一歩引いた立場で周囲を俯瞰するのではなく、一歩踏み出してもらいたい。
「あの子ら、成長しとるんかなぁ……?」
「心配いらないって。俺たちのギルドにはマルボロさんみたいな大人も多いからな」
「……どういうこと?」
首を傾げるキキョウに、俺は軽く苦笑しながら言った。
「俺たちのギルドにはマルボロさん、工場長さん、ゲンジさんと頼れる大人が揃ってるだろ? いくら†刹那†たちが生意気でも、大人組には気を遣ってるはずなんだ。小学生にとっては家族以外の大人はめちゃくちゃ大きく見えるものだし、 そんな大人たちに注意されたら中々反抗する気なんて起きない。マルボロさんたちはその辺のことを理解しているし、理解しているからこそ上手くやってくれると思う」
「そういうもん……なんかな」
「その辺はギルドの大人組を信頼しよう。高校生組もフォローするしさ」
小学生にとっては高校生も大人に近い存在だと思う。まあ、現状は兄、姉くらいの距離感で見られているけれど。
でも、親しみを持って接してくれているならそれはそれで悪い事じゃない。
「うん、わかった。もっとウチもゲームを楽しんでみるわ」
「そうしてくれ。俺もキキョウが楽しんでくれればマスターとして安心できるよ……って、ケツァールテイルのテイムもう終わったんじゃないか?」
「あ、ほんとや!」
ケツァールテイルはテイムが完了したため目を覚ましていた。
「よし、これでやっと拠点に帰れるな」
「マスターテイムお疲れ様!せや、早速鞍のせてみよ!」
キキョウは近くに設置していたアイテムボックスに走った。
それから俺とキキョウはテイム完了を喜びつつ、用意していた鞍を装備してケツァールテイルを飛び立たせた。
これで二頭目のケツァールテイルも確保できた。あとは交配を試しつつ、資材採取に努めればいい。そうすれば拠点強化が進み、腰を据えてコスニアの世界をもっと探索することができる。
 




