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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
ギルド結成
8/102

不運な来訪者


「見て!」

「ん……って、なんだありゃ!?」


 指し示された方向には、砂浜を駆ける必死の形相をした男性アバターがいた。レベル1のプレイヤーで名前は「マルボロ」。まだレベルが1なところを見ると、サービス開始時間からやや遅れてスタートした後発組のプレイヤーのようだ。


 だが、俺が驚いたのはプレイヤーについてじゃない。彼を背後から追いかけるサイのようなモンスターの存在だった。そいつの白い角はドラゴンの牙のように鋭く、遠く離れたこの位置から見ても人間一人分程度の大きさがあることがわかった。しかも、モンスターの全身を覆う皮膚が角質化しているのか鎧のような堅殻と化している。モンスターは殺意に満ちた目でマルボロを追っていた。


「とんでもないの来たけど!?」


 マルボロは突撃を躱すためにジグザクに移動しているが、モンスターは障害物を破壊するたびに物凄い加速ですぐに追いついている。速度が違い過ぎる。あの調子じゃいずれは追いつかれてやられてしまうだろう。


「助けてくれぇぇっ!!!」


 助けを求める声を聞いて、反射的に声が出た。


「おじさんこっちだ!」


 こちらからの呼びかけが届いたのか、マルボロはすぐに進路を変えた。


「あ、家の扉閉めたまま!開けてくる!」

「頼んだ!」


 フューネスはハシゴを降りていく。サイ型のモンスター「アングリーライノ」は、もうマルボロの背中を掠めようかという勢いだ。


 フューネスが扉を開けるのとほぼ同時。


「くああああっっ!?」


 と叫びながら、マルボロは串刺しを食らう間一髪のところで拠点に滑り込んだ。直後、ドンッ!と家全体がぐらりと揺れた。


「うお!?おいおいヤバイって。こんなん家が壊れるぞ」


 俺はよろけて膝をついた。態勢を立て直してハシゴを降りると、フューネスは開けっ放しだった扉をなんとか閉めたところで、マルボロは仰向けになって息を切らしていた。


「はぁ……はぁ……た、助かった……。スタミナ切れでもう走れなくなるとこだったんです」


 スタミナってのはステータスの「持久力」のことだろうな。俺も採取作業中に石斧を連続で振り回し過ぎたときは息切れ状態になった。


 マルボロは息を整えると、よろよろとした足取りで立ち上がった。遠目には白パンツ一枚の変態にしか見えなかったが、アバターの容姿はかなり落ち着いた雰囲気だった。英国の執事が身に付けていそうな片眼鏡を掛けていて、黒髪はオールバックにまとめてある。声の様子からすると俺たちよりもだいぶ年上……おそらく三十代くらいだろうか。


「おじさ……いや、マルボロさん。どうしてあんな明らかにやばそうなモンスターに襲われてたんですか?まだレベル1ですよね?最初だからお試しで手を出してみた口?」

「いや、ポッドが落ちた先があのサイの真上でね……。せっかく仕事を早く終わらせて帰ってきたのにいきなりこんな仕打ちを受けるとは……」

「それはまた災難な……」

「開始早々運が悪すぎたよ。本当に助かった。君たちもう拠点なんて作ってるんだね」

「そっちのフューネスさんと作ったんです。まあ、いまにも更地にされそうな雰囲気だけど……」


 アングリーライノは拠点に突進を続けている。突進された箇所はミシミシと音を立てていて、ダメージを蓄積しているのがわかった。


 フューネスは壁に触れて眉間に皺を寄せた。


「壁の耐久値はいまのところ4506/5000。このまま攻撃されると破壊されるのはすぐね」


 マルボロは申し訳なさそうに頭を掻いた。


「す、すまない……。いますぐ出て行くよ。そうすりゃあいつを君たちの拠点から引き離せるはずだ」

「いやいや出て行ったらマルボロさんがやられるって。それにせっかく助かったんだし、どうにかしてみましょうよ」

「しかしあいつをどうするつもりです?」

「それは……倒すしかないですね」


 俺の言葉にすぐにフューネスが反応した。


「でもどうやって?扉を閉めるときに確認したけど、アングリーライノのレベルは55。序盤で倒せる相手には思えないけど」

「それはわかるけどさ、コスニアじゃレベルは決定的な差にならないと思うよ?フューネスさんもジャイアントクラブはレベルに関係なく倒せたよね」

「まあ……そうね」

「あいつはこの家に突撃を繰り返していて逃げる素振りがない。高所からチクチク攻撃すれば倒せなくとも追い返すくらいならできるかもしれない」


 ジャイアントクラブとの戦闘を通してこのゲームの感覚は掴めている。あとは得た知識を活用できれば、相手が大型のモンスターであっても倒せる可能性はある。


 マルボロはさきほどまでの申し訳なさそうな態度を引っ込めて、表情を引き締めて言った。


「……わかった。なら私も君たちの作戦に協力させてくれ。えっと、ギルドに入れてもらっても?」

「もちろん」


 マルボロと握手を交わしギルド招待を送る。ギルドメンバーが三人になり、まず口を開いたのはフューネスだった。


「武器はどうするの?屋上から攻撃するにも投石なんかじゃ倒しきる前に家がなくなりそうだけど」

「ちょっと待って。設計図一覧から探せば……お、良さげなのがあるな」


 設計図を探すと、投石具や弓といった遠距離から攻撃できる武器が見つかった。早速弓を習得し、アイテムボックスに保管しておいた素材を使って作成する。


「弓か。たしかにそれなら戦えそうね」

「でしょ。マルボロさんも使ってみてください」

「おお、それが作成システムというやつですか」


 まだゲームを始めたばかりなのだろうマルボロは、興味深そうに作成された弓を受け取った。


「はい、これはフューネスさんの分」

「ありがと」

「んじゃサイ討伐、行ってみよう!」


 武器を持って屋上に登る。アングリーライノは俺たちの姿を見ると、苛立ったように荒い鼻息を漏らした。


「怒ってる怒ってる」


 名前の通り怒れるサイだな。身体を覆う鎧をこの弓矢で撃ち抜けるだろうか。


「ブォォ――ッ!!」


 再びの突進。家が衝撃で揺れ、アングリーライノは家の壁にめり込むように角を突き立てた。俺は目前にまで迫ったその巨大な体躯に向けて狙いを定め、タイミングを合わせるように叫んだ。


「よし、いまだ!」


 アングリーライノの頭上に一斉に弓矢の雨が降り注ぐ。


 俺はリアルで弓に触れたことはない。それでもVRゲームに標準実装されているシステムアシストのおかげで、弓を慣れ親しんだ武器のように扱うことが――。


「うわ、外した」


 ――出来ませんでした。


 至近距離からの射撃にもかかわらず俺は初撃を外してしまった。システムアシストが付いていると言っても、射撃の命中精度はプレイヤーの当て勘に大きく左右されるのだ。その証拠に隣で弓矢を放った二人の矢はしっかりと命中していた。


「泣きてぇ……」


 少々カッコつけて掛け声を出したから恥ずかしさが数割増しだった。ただ、二人は俺の矢の当たらなさを笑っている場合ではないようだった。


「ダメね。矢が刺さらない」

「こちらもです」


 命中したはずの矢が硬い皮膚によって弾かれてしまったのだ。


 二人は二射、三射と撃ち続けるがそれでも矢は刺さらない。一方で、俺が何射かしてようやく当てた一本はアングリーライノの硬い表皮を貫いていた。


「リオンさんの撃った矢だけ刺さってない?」

「ホントだ。二人と撃ち方に違いとかあったっけ……」

「リオンさんは私たちよりも力一杯弓を引いているからじゃない?だからあんなに外してたんじゃ?」

「いや、それは俺のエイムの無さが原因だから関係ないと思うよ……」


 俺はそこまで力を込めて放っているつもりはない。なら二人との違いはなんなのか。スキルも職業もないゲームだからこそ、原因はすぐにわかった。


「そうか、撃ち方じゃない。俺だけ攻撃力にステータスを振っているからだと思う」

「え、リオンさん攻撃力振りだったの?」

「うん。放った矢に攻撃力の補正が乗ってるんだと思う。でも矢が刺さったとはいえ、攻撃力の上昇幅って1レベルあたり3%しかないからダメージ自体は大したことないと思う」


 その証拠に噴き出しているポリゴン量は微々たるもの。これじゃどう考えてもアングリーライノを倒しきるのは不可能だ。別の方法を考えないといけない。


「ああ、壁が!」


 マルボロが叫んだ。


 見ればいまの突撃で扉のすぐ横の壁が破れてしまっていた。ほかの壁ももう持たなさそうだ。屋根の耐久値を確かめてみると、こちらにもダメージが蓄積されていた。


 こいつは厄介な相手だな……。いまのところ壁一枚で被害は済んでいるが、やはりマルボロの言うように被害が拡大する前にタゲを釣って拠点から引き離したほうが賢明か?


 何か打開策がないかとヘルプ欄から攻撃力の仕様について読み直す。


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【攻撃力】

武器のダメージ量に影響を及ぼします。武器のダメージ量が高いほどフィールドオブジェクトから採取できる資源量が増加します。敵やフィールドオブジェクトに与える武器ダメージは以下の式で決定します。


武器ダメージ量(z) =攻撃値(x) - 防御値(y)

攻撃値(x)=武器の基礎攻撃力×攻撃力

防御値(y)=防御力×被害部位倍率×武器属性相性


※防御値(y)の上限値は攻撃値(x)の99%まで。

※被害部位倍率は人間とモンスターで異なります。

人間の場合、頭部0.1胸部 0.8腹部 0.7腕 1.0脚. 1.0を基本とします。

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 ダメージ式を見直してみると、一つだけ気になる部分が見つかった。



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