時間との戦い
チャットを送ってからすぐに、身体を揺すられるような微かな感触がした。
『フューネスにキルされました。リスポーンしますか?リスポーンしない場合はキャラクターを初期化して降下からやり直すことができます』
来た……!
どうやらフューネスがグループチャットに気付いてくれたらしい。いますぐリスポーンしたいけど、俺はTakaが設置したベッドでリスポーンするために既に一度死んでいる。今日二度目のリスポーンとなる今回は一分のクールタイムを待たなければいけない。
焦る気持ちを抑えながら一分間のクールタイムを待ち、クールタイム解消後に即リスポーンする。
「みんなは……」
リスポーン拠点を出るとすぐ近くにフューネスがいた。
「やっとリスポーンしたのね」
「ああ。グループチャットを見てキルしてくれたんだろ?ほんとに助かった」
礼を言われたフューネスは「やるべきことをやっただけ」とクールに応じ、俺が殺された方向を指して言った。
「リオンの装備はインパクトさんが回収してくれたから大丈夫」
「了解。みんなは?」
「インパクトさんも含めて全員リスポーン済み。いまはカルテットの拠点で装備を修理してるとこ」
「え、全員リスポーン済みって?」
「みんなは最初に敵を全滅させた数分後に再攻撃を受けたんだって。で、返り討ちにはできたものの全員昏倒しちゃってたから」
フューネスが俺のチャットを見てキルしたわけか。ギリギリの戦い過ぎる……。フューネスが駆けつけていなかったら、俺たちは全員昏倒させられていた。
状況を把握して人心地が付くと、改めて敵が怖くなってきた。
「いやー、あいつらガチ勢すぎるわ……」
確信出来たことがある。
――ベトナム人ギルド「ロン」は、この手のサバイバル系MMOに慣れ親しんだプレイヤー集団だ。
おそらく彼らはコスニアがサービス開始する以前から一緒にゲームをやってきた仲間同士。しかもコスニアに近いジャンルの別ゲーからやってきた歴戦のサバイバル系ゲーマーなんじゃないだろうか。
これまでの立ち回りを振り返ると、そうとしか思えない知能プレーが多すぎる。
昏睡値というコスニア特有のステータスの扱い方と言い、グレネードというPvP向け武器の使用と言い、俺たちよりもゲーム理解度が数段上だ。
対するこちらは人数こそ勝っているものの、その練度はまだまだ寄せ集めの域を出ていない素人集団。後からかなこ♪や三姉弟たちが援軍に来てくれるからと言って、侮って戦えば普通に負けかねない。
悲観的になっていた俺の顔が面白かったのか、フューネスは呆れたように笑った。
「弱気になってない?マスターがそんなんじゃ勝てる勝負も負けちゃうじゃない」
「う……こんなマスターで悪かったな。こちとら対人ゲームから逃げてきた弱小ゲーマーなんだよ」
「そうだったね。で、どうやって反撃する?敵はまたすぐ戻ってくるよ?」
「……」
無い頭を搾って作戦を考える。
フューネスの話がたしかなら、ロン側はメンバー全員が既に二回は死亡済みということになる。再攻撃に数分掛かったことを考えると、空き巣前の移動やテイムモンスターの処理で既に一度死んでいて、合計三回死んでいてもおかしくはない。
以前キキョウとした話では、デスペナルティは死ぬたびに30秒、1分、3分と伸びていき、四回目のデスでリスポーンタイマーが10分と一気に厳しくなるとのことだった。
数分ならまだしも、10分のペナルティとなると戦闘に与える影響は大きい。正確に時間は計っていないけれど、昏倒状態も10分と戦線復帰までの時間を合わせれば自然回復できてしまうんじゃないだろうか。
まあ、さすがにロンの連中もそこらへんのことは把握しているはずだし、俺たちが全員リスポーンしているのを見たら戦闘を避けて退却を判断するかもしれない。
彼らが退却を選んでくれること、それ自体は一見良いことに思える。しかし、拠点の門番たるテイムモンスターが全滅して守りが薄くなっているのに、彼らが近日中に再度襲撃を仕掛けない保証がどこにあるだろうか?
ここで彼らを逃がせば、それはQuartetの命取りになる。逃がしちゃダメだ。今日この場で徹底的にやっつけないと。
「考えがある。みんなを集めてくれ」
ロンのメンバーがリスポーンしてくるまでの時間はほんの僅か。俺はみんなを集めて、反撃のための作戦を伝えることにした。




