共同作業
カン、コン、カン、コン、と木を叩く斧の音が響く。
木の家を建てるため、俺たちはひたすら砂浜に生えているシャノミの木を切り倒していた。目の前の木を切り倒し、次へ。また次へと繰り返すうちに、浜辺に生えているシャノミの木はどんどん数を減らしていく。
やっぱり二人だと素材の集まりは早い。見る間にアイテムボックスは素材でいっぱいになっていき、辺りはぺんぺん草すら生えない荒野へと変貌していた。
俺は素材をアイテムボックスにしまいながら、遠くまで木を切りに行っているフューネスに目を向ける。
「頑張ってるなぁ……」
フューネスはひたすら木を切ることに夢中になっているようだった。まあ、俺も最初はあんな感じに無心に伐採に没頭していたから気持ちはわかる。素材集めってのは案外楽しいものなのだ。
それと同時に思う。結局、フューネスはなんで俺とギルドを組もうと思ったんだろうかと。なんだか裏があるような気がして、正直まだ少し気持ちが落ち着かない。
まあ、考え過ぎなのだとは思う。普通の人は普通にゲームをプレーしていれば、誰かと誘い誘われてパーティーやギルドを組むこともある。
でも、俺は普通の人じゃない。ゲーム下手な人間だ。しかもとびきりのド下手くそだ。
いままで俺は対人戦――つまりPvPが存在するゲームでは人と関わるのを極力避け、ギルドに入ることもなかった。それはPvPでは実力の無さが直接仲間の負担に繋がるからだ。
……ゲームが下手なギルドマスターっているのかな。世間を見渡せばいないことはないんだろうけど、割合は圧倒的に少なそうだよな。自然に考えるなら一番上手い人がマスターをやるべきなのでは?
「でも、引き受けた後で断るのもな……」
なんにせよ、騙してしまったような後ろめたさがある。ギルドを組んだ以上、いまさら後に引けないというのはわかるのだが。
そんなことを考えながら作業を続けていると、時間が経つのはあっという間だった。必要な数の壁と屋根が揃うと、俺たちは一旦建設予定地に集まった。
「壁だけじゃなく、ドアも作ったから使って」
「あ、スキルポイント振ってくれたんだ。ありがとう」
「気にしないで」
フューネスはなんでもないという表情だ。
スキルポイントには限りがある。そのためこうして代わりに設計図を習得してくれるのはありがたい。俺は作成してもらった建材を受け取り、早速拠点に取り付けた。直後、アナウンスが流れた。
『建物に取り付けられたドアには鍵が掛かります。ギルドメンバーは触れるだけで鍵を開けられますが、ギルドに所属していないプレイヤーは5桁のナンバーを入力しないと鍵を開けられません。また、ナンバーを指定しない場合はギルドメンバーしかドアを開けることはできません』
「フューネスさんも聞こえた?」
「うん。木製の扉でどう鍵を付けるのかと思ったけど、そこらへんはゲームらしいシステムなんだね」
「どうすっかな、ナンバーロックはとりあえず設定しなくていい?」
「それでいいと思う」
扉に触れると【ナンバーロックを設定しますか?】とポップアップが表示されたが、俺は【設定しない】にチェックを入れた。
これでドアは完成。フューネスは残りの壁を取り付けて、ほっとしたように言った。
「壁もこれで大丈夫だね。あとはリオンさんが作った屋根を乗せれば」
「完成だな……っと、そうだ。せっかくだから屋上に繋がる開閉扉も作っとくよ」
「開閉扉?」
「うん、屋上に登るためのやつ。やっぱ上から景色を観れたほうが良いじゃん?」
「たしかに」
俺は開閉扉を作成し、天井の高さに合わせたハシゴも取り付けた。
念願の初拠点。これにて完成である。
「よっしゃー!完成豆腐ハウス!」
ようやく完成した拠点を前に、俺は両手を天に突き上げた。
後ろに立っていたフューネスは少し可笑しそうに言う。
「豆腐ハウスってなに?用語?」
「ああ、真四角の殺風景な建物って豆腐っぽいじゃん?だから豆腐ハウス。もしくは柔らくて脆い建物のことも豆腐ハウスって呼ぶらしいけど。クラフト系のゲームではよく使われる言葉だよ」
「そうなんだ。私、前まではバトロワ系のゲームばかりやってたからクラフト系は疎いの」
「へー、バトロワ系出身なんだ」
それなら彼女のアバターが小柄なのも納得がいく。あっちの界隈じゃ撃ち合いにしろ索敵にしろ小柄なほうが有利らしいからな。
俺は自分だけフューネスのことを聞くのもどうかと思ったので、自分が普段やっているゲームについても話すことにした。
「ちなみに俺は特に出身ゲームとかはないよ。広く浅くだし、基本ソロゲーマーだから。さっきの豆腐ハウスってのも動画で聞きかじった用語ってだけ」
「そうなんだ」
俺の言葉に生返事をして、フューネスは拠点を見上げて考えこんでいる様子だ。
「フューネスさん?」
「ね、これだけだと味気ないし、屋上に柵でも作らない?ほかにも窓を付けたり、煙突なんかがあれば豆腐ハウスって雰囲気でもなくなるでしょ」
どうやら豆腐ハウスがお気に召さなかったらしい。フューネスがもう少し拠点をアップグレートさせたいなら、せっかくだし俺も付き合ってみるか。
「いいよ、やってみよう」
「あ、外のアイテムボックスは家の中に移動させておくね」
「なら俺は追加の素材を集めてくるよ」
荷物の移動はフューネスに任せ、俺は素材集めに向かった。重量いっぱいの素材を集め終わって拠点に戻ると、フューネスは既に荷物の移動を終えていた。
「屋上に柵設置するね」
「うん」
設置のためにハシゴへ足を掛ける。屋上に登ってみると、地上よりもだいぶ目線が高くなって景色の見え方が別物だった。
透き通った海はより青みが掛かり、空はさらに高く見える。解放感が増した景色はリゾート地の景観にも引けを取らなかった。
海から潮風が吹いている。足元は床板の感触が心地いい。改めて家を建てたんだという実感が湧いてきた。
「よいしょ……と」
俺の後に続いてフューネスも屋上に登ってきた。フューネスは屋上からの景色を見ると少し硬直して、それから小声で呟いた。
「拠点建築って案外楽しいね」
「……だな。俺もちょっとビックリしてる」
拠点作り自体もそうだけど、楽しいのはきっと誰かと協力して遊んでいるからだ。ここ最近はソロゲーばかりやっていたせいか、余計にそう思った。
「柵は設置しなくていいの?」
「おっと、忘れてた」
フューネスに言われて屋上に登った理由を思い出す。
感動に浸るのは柵を設置してからだな。柵を設置した後は椅子やテーブルを置いてみてもよさそうだ。
俺が家具の配置を考えながら柵の設置を始めていると、フューネスは動きを止めて声を潜た。
「ねえ……何か聞こえない?」
「え?」
言われて耳を澄ませてみると、たしかにどこからか声が聞こえているような……。それになんだか地響きのような揺れもある。
何事かと思っていると、フューネスは砂浜の向こうを指差した。