同盟支援
拠点のベッドで起き上がると、†刹那†が慌てた様子で目の前を横切って行った。キキョウは壁際に並んでいるアイテムボックスの前であたふたとしていて、アイテムボックスの間を行ったり来たりしている。
「なんだ……?」
明日から中間試験とはいえ、ギルドマスターが一切顔を見せずに寝るのもどうだろうと思ってログインしたんだけど、どうにも様子がおかしい。
かなこ♪がキッチンのほうから槍を持ってやってきたので、俺はこれ幸いと声を掛けた。
「ちわーっす。カナ何してんだ?イベントでもあった?」
「あ、リオン!?大変だよ!襲撃来た!襲撃!ヤバイ奴だよこれ!どうしよー!?」
「は?」
カナは見るからにパニクった様子で落ち着きなく言葉を捲し立てた。
「Quartetがどっかのギルドに襲われてるの!」
「マジか!?」
俺は慌てて同盟のグループチャットを開いた。するとそこには、impactからの「help!」という救援要請の一言が書かれていて、Quartetが現在進行形で敵対ギルドの襲撃に遭っていることがわかった。
軽い気持ちでログインしたのにいきなりこれかよ!だぁぁ!落ち着け、ギルドマスターとして俺がいますべきことは――
状況を把握して、俺はすぐさま頭を切り替えた。
「えっと……カナ、みんなはもう助けに行く準備は出来てるのか?」
「まだだよ!ついさっきカルテットのチャットを見て、急いで装備着なきゃってところだから」
「なる。じゃあ相手がどんな連中かもわかってない感じか」
「そゆこと!」
今回はジャパン島のときのような勘違いによる襲撃ってことはなさそうだ。もしかしたら敵は先日俺たちの旧拠点を空き巣した外国人ギルドかもしれない。
おそらく事は一刻を争う。向こうの戦況がわからない以上、とにもかくにもQuartetの拠点にプレイヤーを送ることが先決だ。
「向こうの拠点にベッドって置いてたっけ?」
「ううん、まだだよ。さっきタカさんたちが置きに行ったばっかでさ……カルテットの拠点の場所すらあたしたち知らなかったから。座標もグループチャットでいま教えてもらったばかりで」
俺もQuartetの拠点の位置については大体でしか聞いていなかった。こんなことになるなら、事前に許可を貰ってQuartetの拠点近くにリスポーン拠点を設置しておくべきだった。
そうすれば緊急時の援軍もよりスムーズに送れたはずだし、防衛用のニードルタレットの情報も共有できていれば同盟の強化にも努めれたはずだった。
考えてみると、襲撃が起こる前にやれたことは多い……だが、いくら悔やんでも全てが手遅れ。いま出来ることは少しでも早くQuartetに合流を果たすことだ。
「コンドルは余ってる?」
「まだ一羽だけなら。もう一羽はタカさんと姉御が使ってるよ」
「そっか。んじゃ残りのコンドルはカナと誰か……キキョウが乗ってくれ!」
「え、ウチ!?」
キキョウは自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、自分を指差して驚いたようなリアクションをしている。
「うん、キキョウには運搬を任せたい。悪いけど、俺はタカさんたちが設置予定のベッドで湧きたいからさ。いまはなによりもカルテットとの通訳役がいるだろうし」
Quartetはメンバー全員が英語話者だ。日本語も少しは話せるみたいだけど、細かいニュアンスを含んだやり取りはできない。impactたちがやって欲しいことなどを聞き取るには俺が行ったほうがいい。
キキョウは申し訳なさそうに言った。
「あ、そっか。ウチとか弟とかは英語なんて全然やもんね……」
「別に気にすんなって。それよりも弟たちにはアングリーライノを連れて装備を運んでくれるように言っておいてくれ」
「ライノで?」
「ああ、ライノはコンドルよりも積める重量が大きいし、移動速度にステータスを振っていない人よりも足が早い。武器・防具を運ぶ荷物持ちとして適任だと思う。対人戦は試してないからなんとも言えないけど、きっと心強い戦力になる」
装備についてはQuartetから借りて現地調達できれば手っ取り早いけれど、彼らは四人で運営しているギルドだ。予備の装備もあまり準備出来ていないかもしれない。むしろ、襲撃を受けている最中で装備が足りず困っている可能性すらある。
そうなると、ただ現地に駆けつけるだけでなく、補給の算段も付けておかないとマズい。いま俺たちは後手に回っているが、これ以上敵に後れを取るわけにはいかない。
「ケツァールテイルはどないする?」
「ん-……まだ背中のプラットフォームに建築も何も出来てないから今回の出撃は見送ろう。今回出すのはコンドルとライノだけでいい」
「了解!」
俺たちが話していると、外からフューネスがやってきた。どうやら彼女も状況は飲み込み済みのようで、きびきびとした動きでアイテムボックスの前で集まっている俺たちのところに来た。
「フューネス!」
かなこ♪が呼びかけると、フューネスは俺のほうに目を向けた。
「リオン、話は聞いてるよね?」
「聞いた。それでこれからどうするか話し合ってたところだよ。俺はベッドで移動するけど、フューネスはどうするんだ?」
「私は走ったほうが早いからこのまま出発する」
「ああそっか、了解だ」
フューネスには移動速度特化の恩恵がある。おそらくマウンテンコンドルよりも早くあちらに到着できるだろう。
にしても、テスト前だってのに俺もフューネスも考えることは同じだったらしい。ちょっとだけログインするつもりが、まさかの防衛戦に駆り出されるとは。
俺はやるべきことが決まったところで手を叩いていった。
「じゃ、作戦開始だ!カルテットを敵の襲撃から守り切るぞ!」




