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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
アイランド・ウォー
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ログアウト -8-


「いきなり来いって、どこ行こうってんだよ?」

「リオンとは積もる話もいろいろあるからね」

「……え、リアルでの呼び方もリオンで統一する気なのか?」


 学校終わり、夕焼けに照らされた秋葉原の街中を俺は篠原と共に歩いていた。


 休日の秋葉原は観光目的の外国人や地方民で通りが溢れかえるのだけど、平日の夕方はどの通りも人通りがまばらで歩きやすい。


 のんびり通りを進みながら横に視線を向けると、古めかしい蛍光看板を掲げたホログラム機器専門店やVR機器専門店といった店が目に映る。ほかにも、VRカフェやVR結婚相談所といった怪しげな店が路地の影に並んでいた。


 あちこちに軒を連ねている二次元関連の店は、ほとんどが十年前の技術的特異点(シンギュラリティ)――つまり、AI技術の進歩とそれに付随したホログラム技術やVR技術の広まりを受けて、雨後の筍のようにポコポコ建てられたものだ。


 ホログラム技術を流用したゲームで有名なのものには、俺が愛してやまないSoul Linksシリーズも含まれている。ちなみに、Soul Linksをはじめとしたホログラムマットをテーブルに敷き、マットから浮かび上がる立体映像を見ながらプレイするゲーム群は、総じてテーブルアクションゲームと呼ばれている。


 実のところ、VRゲームに比べるとテーブルアクションゲームは古めかしいゲームであると世間的な評価がなされている。どちらも同時期に出現したゲームなのに、どうしてこんな言われようなのかと言うと、それはたぶんホログラム技術が最初から完成されすぎていたせいだと俺は思っている。


 ホログラム技術は登場から一・二年で技術として完成されきっていた。これは技術発展速度がかなり緩やかだったVRとは酷く対照的だった。そのせいで、脚光を浴びるタイミングがホログラム技術のほうが三年は早かったのだ。


 加えて、ゲーム評論家はテーブルアクションゲームの対面プレイでこそ輝くゲーム性を古いと言い、マット上に指を滑らせて操作するテーブルアクションゲームの操作を骨董品とまでこき下ろした。


 こういった一部の人間の理不尽かつ偏見に満ち溢れた評価が、一般人にテーブルアクションゲームは『古い』と認識させたのだろう。これは悲劇だ。テーブルアクションゲームは神!至高なのに!


 ……ただまあ、技術として完成するのが早かった分、既にホログラム技術はゲームに留まらず広く世間に浸透している。街中の広告映像はほとんどがホログラムだし、会社の会議では出張中の人がホログラムで参加するらしい。


 秋葉原にはテーブルアクションゲームで遊ぶためのプレイスペースがあちこちに点在していて、大規模オフライン大会用のスタジアムまである。


 スタジアムがある……んだけど、あれ?篠原が向かっている先って……。


「今日はここで久しぶりにソルリンをやろうと思って」


 到着したのは、秋葉原駅から徒歩三分のところにある秋葉原e-stadiumだった。


 野球場のような円形ドーム型の建物の周りには、各eスポーツチームの旗がはためいている。ドームの壁には応援チームのファンアートが描かれ、さらに外周にはホログラムで流行りのゲームタイトルのキャラクターが映し出されている。


 俺は「あのー……」と言いづらそうに言葉を濁しながら言った。


「テスト前日なのに遊んじゃう気ですか……?」

「え?普段余裕ぶって寝てる癖に、いまさらテスト勉強するつもりだったの?」

「それはまあ……」


 完璧な状態でテストに臨もうとかは考えていない。しかし、最低限赤点を取らない程度の詰め込みはしようと思っていた。


 俺がどう言ったものかと思っていると、篠原はふっと頬を緩めた。


「冗談。昨日は私が赤沢くんに泣かされたから、やり返そうと思っただけ」

「う、そういうアレか……昨日のはほんと悪かったよ。っていうか、結局赤沢くん呼び?」

「さっきのは試しに呼んでみただけ。まあ……リアルだとちょっと恥ずかしいかな」


 篠原は腕を組んで唸った。俺はほっと息を吐いて言った。


「そりゃそうだ。というか、リアルでリオンって言われるの正直むず痒いんだよな。赤沢くん呼びのほうが慣れてるからそっちでいい。あ、でもゲーム内では間違っても赤沢くんって呼ばないでくれよ」

「わかってる。ネットリテラシーうんぬんかんぬんでしょ?」

「そういうこと」


 名前だけならまだしも、フルネームが割れるのはさすがにマズい。本名特定からの職業・住所・家族構成バレはネトゲの様式美だ。ギルドメンバーに特定班がいるとは思わないけれど、今後敵対した相手に執念深い奴がいたらどうなるかわからないからな。


 PvPゲームをやる以上、そこは徹底しておきたい。


「じゃあ、このあとどうするんだ?」

「近くのファミレスで勉強しましょ。ギルドマスターが補修でログインできないとかメンバーとしては困るから、みっちり詰め込み手伝ってあげる」

「そういう流れかぁ……」


 俺は目を瞑って天を仰いだ。篠原はそんな俺の反応が面白かったのか、鼻で笑いながら言った。


「ふふ、試験が終わったら四年ぶりのソルリンやるからね」

「ああ……そうだな。でもスタジアムでやるのは緊張するから、そこらへんの一時間百円とかで遊べるプレイスペースでやろうぜ」


 こういう会話をしていると、小学生の頃に戻ったような気分になる。


 懐かしい気持ちに駆られながら、俺は篠原と放課後の勉強会に精を出すことにした。



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