タワーディフェンス
「ヒュー……ヒュー……」
「ぐっすり眠っていらっしゃるな……」
俺はケツァールテイルの横に立って呟いた。
ケツァールテイルは気持ちよさそうに眠りについている。だが、こいつが落下したのは島の中央。肉食系のモンスターが蔓延る森の中。奴らに見つかれば、熟睡中のケツァールテイルは食い殺されてしまう。
テイム完了まではおそらく数時間掛かる。テイムを完了させたいのなら、それまでこの場を死守しなければいけない。
でも、どうやって守り切ればいいんだコレ……。正直、いまここにいる四人だけではかなり厳しい。一体二体のモンスターならどうにでもなるけど、戦闘音を聞きつけて他のモンスターまでやってきたらどうなることか。
これは他のみんなも呼んで大掛かりな作戦を立てないとマズそうだ。
『リオン:ケツァールテイルを寝かせることに成功しました!でも森の中でのテイムなため人手が必要です。みんな、いますぐ(1017.2135)まで武装して援軍に来てくれ!』
援軍要請の書き込みをしてグループチャットを閉じると、すぐさまキキョウがあたふたした様子で訊いてきた。
「マスター、ウチらはどうしたらいい!?」
「えっと、そうだな。二人は周辺の木を伐採してくれ。周りの視界が悪すぎるから。そんで回収した木材で適当にバリケードを置きまくろう」
「わかった!」
キキョウと針金はすぐさま作業に取り掛かった。
ひとまずバリケードの設置は二人に任せておいて……と。
俺はケツァールテイルを調べていたマルボロのところに向かった。
「マルボロさん、昏睡値はどうです?」
「思ったよりも麻酔薬の消費が早いです。このままだとテイム完了までは保たないかと」「マジすか……じゃあ、追加で拠点から持ってこないとか」
「ええ。ただし、持ってきたところで果たして無事テイム出来るかどうか……」
マルボロの言う通りだ。状況はあまり良くない。既にケツァールテイルは麻酔矢を受けてボロボロだし、少しでも追加のダメージを食らえば死んでしまいそうだった。
しかし、なんとしてでもテイムしたい。昏睡させたケツァールテイルのレベルは108。レベル100越えの優良個体は他のモンスターでも滅多に見れない。
「マルボロさん、マウンテンコンドルで麻酔薬の運搬をお願いしていいっすか?徒歩で持ってくるとなると昏睡値が間に合わないかもしれないんで」
「……そうですね、誰かが運搬しないといけないですか。了解です。もう一羽はどうします?」
「追従させて連れていってください。そんで誰か連れてきてもらえると助かります。それまで耐えるんで、お願いします」
「わかりました」
マルボロは乗り手のいないマウンテンコンドルに「付いてきなさい」と指示を出し、拠点に向けて飛んでいった。
「……よし、あとはみんなが来るまでどれだけ耐えられるかだな」
「リオンさん、モンスターが!」
「もう!?」
予想はしていたが、出てくるのが早すぎる。
二人のほうを見ると、四つ手の猿に似たモンスターが制作中の囲いを抜けてケツァールテイルに襲い掛かろうとしていた。
「ウホッ!ホッ!」
「この野郎……!」
インベントリから槍を取り出し、急いでケツァールテイルと猿の間に立つ。猿は立ち塞がる俺をそのまま食い殺そうと白い牙を覗かせた。その牙を横に構えた槍で受けて、猿の勢いを押しとどめる。
押しとどめながら、猿の頭上に表示されている名前を確認する。
「フォーハンドゥスかよ!前に見た顔だな!」
鉄鉱石探しのときに見かけたモンスターだ。あのときは大人しい様子だったけど、ケツァールテイルが倒れているのを見て興奮してるのか凄い力だ。背丈はプレイヤーよりも少し大きい程度なのに、攻撃力振りの俺ですら全然力で歯が立たない。
「マスター!」
「頼む!」
キキョウと針金は後ろに回って鉄の槍をフォーハンドゥスの背に突き刺した。
「ウギャッ!?ギャ!」
赤いポリゴンが爆ぜ、フォーハンドゥスの姿が掻き消える。
「うっわ危なかった……カッコつけてマルボロさんを送り出したのに、速攻で作戦がおじゃんになるとこだった」
「マスターごめん!いきなりで対応できんかった」
キキョウは手を合わせて俺に謝る。
「しゃーない。二人だけで守れってのがまず無茶だし。それよりマルボロさんがみんなを連れてくるまでにバリケードだけでも完成させよう」
俺たちは鉄の斧を装備して、近場の木々を切り倒すことにした。以前ならもっと時間の掛かる作業だっただろうけれど、鉄製の装備が使えるようになったおかげで作業はだいぶ捗った。
鉄の斧、鉄の鎌、鉄のピッケル。それぞれを駆使すれば木、草、岩の片づけは順調すぎるくらいにスムーズだ。さっきのフォーハンドゥスのおかげで獣皮も手に入ったし、これならバリケード以外にも建材を作れるな。
……と、その前にまずは資材を置いておくためのアイテムボックスが必要か。咄嗟の場面で重量オーバーになってたら洒落にならない。
俺は手に入った素材でアイテムボックスを作成し、近場の地面に置いた。
「って、待てよ?」
置いてから気づいた。
どうせならアイテムボックスじゃなくベッドも作ったほうがいいんじゃないだろうか?トド島での狩りでそうしたように、他のメンバーには死んでこっちでリスポーンしてもらったほうが手っ取り早い。
くそ、こんな簡単なことケツァールテイルを寝かせる前に気付くべきだった!
「二人とも聞いてくれ。アイテムボックスを置いたから、採取した素材は全部ここに突っ込んで欲しい。もらった素材でリスポーン用の仮拠点を作る」
「リスポーン拠点を?」
「ああ、こっちにベッドを作れば、本拠点にいる人も死んでこっちでリスポーンできるだろ?」
「あ、たしかに!トド島のアレやね!」
「そういうこと。裸湧きになるから武器とか防具はないけどな。とにかくこれで頭数は揃う」
必要な装備はマルボロにお願いして後から持ってきてもらえばいいかな。マウンテンコンドルは二羽連れ帰ったし、人が乗っていないほうに装備を積み込めば運ぶ重量も問題にならないはずだ。
ベッドを設置して、グループチャットで呼び掛ける。すると、ほどなくしてフューネスとかなこ♪、†刹那†がリスポーンしてきた。




