レベリング 後編
「姉ちゃんこっちこっち!」
「いくよー!」
三姉弟たちはランプシールを囲み、連携して狩りを行っている。俺も含め、みんなそれぞれがグループを組んで狩りに興じていた。
マルボロはランプシールの群れの一頭を槍で倒しながら言う。
「お、またレベルアップです。経験値が美味しいですねぇ」
「そっすね。この調子なら今日中には鞍作りまで行けるんじゃ?」
答えながら俺もランプシールを倒す。最初にTakaと共に島に来たときはなかなか苦戦させられたけど、大勢で狩れば倒すのはだいぶ楽だった。人数がいるからランプシールのターゲットが分散するし、防具を着ているから攻撃を受けても体力が半分以上消し飛ぶなんてことがない。すでに数時間狩りをしているが、その間にみんなレベルがそれぞれ7~8は上がっていた。
「ただいま~!」
「おかえりー」
「おかえりなさい」
インベントリを圧迫していた素材品を置いてくるため、レベリング小屋に行っていたかなこ♪が戻ってきた。
「リオンーそろそろ防具の修理に使う獣皮がなくなりそうだよー!」
「え、マジか。もう?」
「うん。トド島で獣皮落とすモンスターっているっけ?」
かなこ♪は辺りを見回しながら言う。だが、島には黒い岩とシーバード、それからランプシールたちしかいない。
「獣皮をドロップするのはシーバードだけだな。でもあいつらすばしっこいから狩るには弓がいるよなぁ。弓と矢を消耗すると木材と繊維がなくなるし……最悪防具はなくてもいいんじゃないか?」
「まーそっか。どうせリスポーンすれば体力は回復できるしね」
「ああ、死ぬたびにリスポーン時間が伸びるのはネックだけど」
イカダで持ってこれるだけの資材は持ってきたつもりだが、トド島での狩りは消耗品の消費が激しかった。
攻撃を受ければ防具が消耗する。攻撃を仕掛けても鉄の槍の耐久力を消耗する。トド島での狩りは効率は良いが、消耗品の補充が不可欠だな。あとでイカダで島を往復しないと。
マルボロはインベントリを開く仕草をしながらこちらに歩いてきた。
「ランプシールの素材で作れる武器や防具を作るほうがいいかもしれませんねぇ」
「そうですね。ただ、ランプシールの防具ってどうです?」
「帽子から靴まで一式セットでありますが、要求される素材に鉄、繊維が必要なので物資の消耗的には獣皮の服セットよりもコストは掛かるようです」
「へえ、でもそれならグレードは上ってことか」
俺も設計図一覧からランプシールからドロップする【海獣の毛皮】を消費する装備を確認した。
ランプシールからドロップする海獣の毛皮を素材とする装備セットは、それぞれ【海獣の~】で始まる名前が付いている。ステータスを見るにどうやら寒冷地向けの装備らしい。
海獣セットは獣皮の服よりも防御力がやや高く、熱耐性が大きく悪化する代わりに寒耐性の性能が優秀だ。ただ、コスパが悪いし全員分用意するのは難しそう。
少なくとも狩りで使える装備じゃないな。熱耐性が悪いのもマイナスだし。
「ランプシールは経験値は美味いけど、素材は微妙なのかなぁ」
「ですかねぇ」
俺とマルボロの呟きに、かなこ♪は異議ありと首を突っ込んできた。
「毛皮は微妙だけど、獣油は使えると思うよ。料理に使う油が欲しかったのよね~。揚げ物とかイケそうだし」
「揚げ物かー。タネはどうするんだ?」
「そりゃ試してみないと。とりあえず鳥の唐揚げは外せないかな」
「唐揚げは美味そう」
毛皮の使い道は後で見つけるとして、油が有用ってことなら消耗品を運ぶときにまとめて持ち帰ったほうがいいか。それに、油って食べ物以外にもいろいろ用途があるじゃないだろうか。
「さて、私は一旦タバコ休憩してきます」
「あ、了解っす」
「いってらっしゃーい」
マルボロが休憩に行ったので、俺とかなこ♪も一回狩場の隅で座って休むことにした。岩の上に腰を 下ろした途端、かなこ♪は小声で訊いてきた。
「リオン、あれ見て。タカと姉御」
「うん?」
言われるままに二人のほうに目を移す。Takaとmiyabiは二人で狩りをしているところだった。Takaが前衛で戦い、miyabiは後方で暇そうに立っている。
「やっぱ姉御はゲーム慣れしてないって感じだよねー」
「まあパーティーでの狩りとか最初は何すりゃいいのかわからないだろうしな」
ゲーム初心者にとってはVRでの狩りは連携が難しいところがある。レトロゲーであれば俯瞰視点だったりで初心者でも取っ付きやすいのだが、VRは一人称視点でさらに自分の身体を動かさなければいけない都合、戦闘に入って行きにくい。
俺もほかのみんなに比べると狩りの連携が下手で余計なダメージを負うことが多いから、miyabiの気持ちはよくわかった。
せめて魔法攻撃みたいなものがあればゲーム下手でも活躍できるんだけどな。コスニアは完全に物理で殴るゲームだからそれも難しい。
俺は別方向に視線を向けた。
「その点、三姉弟は相当慣れてるな」
「普段から三人で一緒にいるだろうしねー。遊びにネイティブって感じ?」
三人の戦術はキキョウが釣り出し、刹那と針金が同時に攻撃するというシンプルなものだ。そして、シンプルだが息が合っているため隙がない。連携面を見ればギルドの中で一番戦闘に優れているのは三姉弟だと思う。
「ま、ミヤビさんが戦闘に不慣れなのはタカさんがいろいろ教えてなんとかしてくれるさ。あんまり心配はないだろ」
「そだね。そのほうが姉御も嬉しいだろうし」
「というか、フューネスは今日来ない感じ?」
「たぶん来ないっぽいよ。明日用事があるらしくて」
「そっか」
フューネスは金曜日も用事だったっけ。同じ高校生ならテストで忙しいのかもしれない。俺だってコスニアに集中するために勉強サボってたけど、中間テストまでもう日にちないんだよなぁ……。
「カナの学校とかそろそろ中間テストじゃないのか?」
「ウチの学校はもうちょい先かな。リオンの学校は?」
「来週の半ばから」
「え、それ死んだじゃん……」
「まあ、期末ならともかく中間だし。落第にならない程度に前日に詰め込むさ」
溜息を吐きながら、俺は再び立ち上がって狩りを再開した。




