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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
航海、そして空へ
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調査計画


「遅れました。新規加入のメンバーさんが来たそうで」

「はい、タカさんとミヤビさんです。あ、マルボロさん。探索のほうはどうでしたか?」


 Takaとmiyabiのギルド加入に関わる諸々が済んだ頃に、探検に出かけていた社会人メンバーが帰ってきた。


 三人は全身に獣皮の服シリーズをフル装備している。まるで山の民のような風貌の彼らの手には、俺が使ったのと同じ鉄の槍が握られていた。


 マルボロは仕事上がりのような笑顔で言った。


「がっつり装備したおかげで内陸のモンスターもほとんどは難なく倒せました。内陸のマッピングもだいぶ進みましたよ」


 マッピングが進んだというのは朗報だ。あとでマップ画像をグループチャットに貼ってもらおう。


 俺はマルボロが装備していた鉄の槍を指して言う。


「やっぱり鉄の槍かなり強いっすよね」

「ですね。こいつで数回突けば大概のモンスターは瞬殺でしたよ。ただ、アングリーライノの比じゃない大きさのモンスターもいて、そういう一部のモンスターには逃げの一手でした」


 アングリーライノよりも大きなモンスターがいるのか。たしかにそれほど巨大なモンスターだと槍で戦うのは心許ないな。


 マルボロの感想に工場長とゲンジも頷く。


「別系統の武器も必要だべ」

「あの大きさじゃと武器だけの問題でもなさそうよ?」

「それもそうかー」

「じゃが場長もだいぶ戦闘慣れしたのう。儂だけ置いてかれとったわ」

「ええ?ゲン爺も戦えとったべ?」

「そんなことないない」


 リアフレらしい砕けた会話だ。二人は年齢が離れていそうに思えるけれど、どんな関係のゲーム仲間なんだろう?


 俺が不思議そうに見ていると、マルボロは苦笑しながら言った。


「お二人は同じ職場なんですよね」

「んだ。オラが場長で、ゲン爺が工場のベテラン技術者なんだべ」

「先代の頃から働かせてもらっとってね」

「へえ、そうだったんですか。ってことは、ゲンジさんっていまお幾つなんですか?」

「定年間近とだけ」


 そりゃお爺さんっぽいはずだ。というか、工場長って名前は役職名そのままだったのか。


 俺が一人納得していると、マルボロは「あ、そうそう」と言って透明な石をインベントリから取り出した。


「それは?」

「水晶です。運良く湧きポイントを発見できました」

「やったじゃないですか!どこにありました?」

「島の中心部にあった洞窟です。明かりの用意が無かったので入口付近を探索しただけですが、水晶が採りきれないほど湧いていました」


 水晶を受け取ってインベントリにかざす。


【水晶】

・無色透明な鉱石。各種アイテムの作成に使うことができる。


 扱いとしては木材や石材と同じ基本素材といった感じか。これで拠点の窓をガラス窓に入れ替えられるし、拠点の住みやすさがだいぶ向上しそうだ。それに基本素材なら探せばほかにもなにか用途もあるはず。大きな発見だ。


「やりましたね。洞窟の奥も気になるけど……見える範囲だと中はどんな様子でした?」

「はっきりはわかりませんでしたが……奥まで進むには本格的な用意が必要だと思います。内部がダンジョン化していて、モンスターの巣窟になっていたので」

「なるほど」


 ただの洞窟ってことはないだろうな。それならモンスターが配置されている理由がない。何かしらお宝があるだろうし、ぜひ調べてみたい。


 でもまあ、洞窟の調査は時間があるときでいいな。マルボロたちを呼び戻したのは今後の方針を決めるためだ。


 ――探検の報告を聞くのもそこそこに、俺は手持ち無沙汰で立っていたTakaとmiyabiの二人を紹介した。話の流れでニードルタレットの話題が挙がると、マルボロは興奮を抑えるように静かに言った。


「ニードルタレットですか……それはぜひ欲しいですね。話を聞いた限りだと、拠点防衛に革命が起きるレベルの性能をしていますよ」

「俺も同感っす。出来れば拠点周りに大量に設置したいですね」


 拠点周りにぎっしり配置すれば、ギルドメンバー以外のプレイヤーは拠点に一切近づけないようにすることができる。そうなれば拠点のドアを石斧で叩かれるなんてことにもならないし、安心してログアウトできる。


 日中は極力気にしないようにしているけれど、ログアウト中に拠点が襲われていないかってのはどうしても気になっちゃうんだよな……。これがマジで地味にストレスで、じわりじわりと真綿で首を絞められているような気分になるのだ。


 それが少しでも軽減されるのは精神衛生上大変よろしい。


 マルボロは深く頷いた。


「はい、ぜひ大量設置しましょう。たしか育成に必要なのはプランターと肥料でしたっけ。そうなると、肥料のためにも便などもしっかり保存しておかなければいけませんね」

「え、えっと……便って、ウンコっすよね……?」


 らしくない言葉につい訊き返す。


「もちろんです。ミヤビさんとタカさんはニードルタレットの扱いについては詳しいんですよね?」


 話を振られたTakaは曖昧な姿勢で答えた。


「それが僕らも育て始めたばかりでわからないことも多いんです。ただ、肥料についてはマルボロさんの言う通りモンスターのものを利用するのが良いと思います。肥料の作製に必要になりますから」


 どうやらガチでウンコが必要になるらしい。モンスターのものを使うらしいけど……なんか抵抗感があるな。とりあえずそっち関係はmiyabiとTakaに担当してもらうか。


「んー、それじゃ農業関連についてはミヤビさんたちに任せてもいいですか?」

「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。じゃあ、後の問題はニードルタレットの種の入手ですかね?」


 ニードルタレットの種はおそらくこの島には存在していない。マルボロたちの探索でも見つからなかったみたいだし、そう考えるのが自然だ。


 となると、今後は島の外にニードルタレットの種を採取しに行く方向で話を進めなければいけない。Takaたちが盗んだ種は数に限りがあるし、一度花を咲かせたニードルタレットからいつ種を入手できるかもわかっていないからだ。


 マルボロは口元を覆って考え込むように言った。


「ミヤビさんが見かけたという外国人プレイヤーたちのように、イカダで外の島々を巡る必要がありますね」

「俺もそうすべきだと思います。ちなみにミヤビさん、彼らのイカダを見て何か気づいたことってあります?」

「特にないけど?アイテムボックスを壊すのに必死だったし……」


 まあそうだよな……。目ぼしい情報は無し。それでも俺たちはニードルタレットを見つけるために島の外への調査――つまり、航海をしなければならない。


「マルボロさんはニードルタレット探し行きますよね?」


 俺の問いかけに、マルボロは意外にも首を横に振った。


「いやぁ……今回は辞めておきます」

「え?」

「今日痛感しましたが、私はあまり探索に向かないみたいです。探索中も建築のことが気になってしまって……。島に残ってモンスター小屋の作製などにリソースを割いていてもいいですか?」


 その視線の先には†刹那†たちがテイムしたアングリーライノたちの姿があった。たしかにあのモンスターたちを野外にそのまま出しておくわけにもいかない。


 放っておいても野生のモンスターにやられることはないだろうけど、悪意あるプレイヤーに見つかれば殺される可能性がある。


 種探しに参加してもらえないのは残念だが、マルボロには増築の件などほかにも回してる仕事があるしな。こればかりは仕方ない。ほかに手の空いてるメンバーを集めてやっていこう。


「ああ、それはもう全然。探索はやりたい人を集めてやりますから。拠点の防衛力向上も大事ですし」

「ありがとうございます。では、私はちょっと一服してきますね」

「了解っす」

「……おっと、その前に言い忘れていたんですが、そろそろギルドの正式名称を決めませんか?」

「ギルド名っすか。そういや、ずっと南海同盟のままでしたっけ」


 南海同名はあくまで仮のギルド名だ。ギルド結成から今日まで、ずっと正式名称を決めずに宙ぶらりんでやって来たが、たしかにそろそろ腰を据えて考えないといけないかもしれない。


「私はこのままでも構わないですが、人も増えてきましたからね。外部のギルドと交流を持つ可能性があるなら、なおさら正式名称を決めたほうが良い頃合いかと。名前がふらふらしているのは良くないですからね……」


 マルボロは再び†刹那†が中二病的な名前を付けたモンスターたちに目を向けた。あ、もしかして……モンスターを見てたのってギルド名の行く末に不安を覚えたからってのもあるのか?


 さすがに†刹那†のような突拍子もない中二病ネームを付けるつもりはないけれど、ネーミングセンスってのは人それぞれなところがある。


 俺一人で決めるのもどうかと思うし、みんなで案を出して決めたほうがいいか?


「それじゃグループチャットで意見を出し合いますか。ログインしていない人もいるんで意見が出揃ったら改めて投票形式で決めましょう」

「わかりました。ではそのようにお願いします」


 頷いてマルボロは拠点に消えていった。


「オラたちはどうすべ?」


 工場長は頭を掻きながら拠点を見回している。種探しに参加するか、マルボロのモンスター小屋作りに協力するかで悩んでいるのだろう。一応、三人を待っている間に役割分担はある程度考えてある。


「工場長さんたちには島の内政を任せていいですか?島の外への探索は一応外国人プレイヤーと話せる自分が中心になってやります。協力は時間帯が早めの人たちに頼むんで」


 交渉事は役職持ちがやらないとスムーズに進まないだろうし、俺がやらないわけにはいかない。そして拠点を留守にする間、後を任せられるのは工場長たち社会人組だ。


 俺の独断で決めてしまうのは少し申し訳ないけれど、ギルドマスターとしてやっていくならこうしてやって欲しいことをお願いすることも必要だと思う。


 工場長とゲンジは俺のお願いにすぐ頷いた。


「ああ、わかりやした。ほんじゃゲン爺、鉄掘りでも行くべ」

「そうじゃな」


 ふう、素直に聞いてくれて良かった。これで役割の割り振りは終わった。


 工場長たちが資材集めのためいなくなり、拠点には俺、かなこ♪、Taka、miyabi、あとは近場でモンスターに乗って遊んでいる三姉弟たちが残っている。


 かなこ♪はショルダードラゴンを肩に乗せながらやってきた。


「そんで私らはどうするー?」

「今日のところはイカダをカスタムするとこまでやって終わろう。みんなももうログアウトする時間帯だしな」


 社会人組はともかくとして、学生組はもう寝る時間だ。いまからだと大掛かりなことはやりにくいし、明日からの航海に備えて早めに切り上げたほうがいいだろう。


「あぁ、そだねー。私も少ししたら落ちたいし、ミャー姉さんたちは?」

「私はもう寝る」

「あ、僕も明日の実習が早いからすぐ落ちなきゃ」

「じゃあ二人ともおやすみかぁ」

「そうだね。みんな、今日は楽しかったよ。また明日からもよろしくお願いします」

「はい!Takaさんmiyabiさんお疲れさまでした」

「おやすみなさい」

「じゃ」

「姉御おつかれ~」

「姉御言うな」


 Takaとmiyabiの二人は拠点の寝室部屋に消えていった。


「んじゃイカダ作るか」

「ちゃちゃっと作っちゃお」


 それから俺たちはイカダの作成作業をしてからログアウトした。作業には時間も素材もあまり掛からなかった。さくっとイカダのカスタムを終えて、リアルのベッドで目を覚ます。


「ふう……」


 俺は軽いストレッチをしつつ、デジタル時計に目を向けた。


「明日からは連休か」


 ウチの高校は土日が丸々休みだ。土曜日は午前中にバイトを入れてあるけれど、それさえ終われば残りをフルでゲームに回すことができる。この期間に攻略は一気に進められるな。


 さっさと寝て、明日のバイトもちゃちゃっと終わらせてやる!


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