表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
ギルド結成
4/102

初戦闘


「硬っ……!?」


 感触はまるで石。ジャイアントクラブを殴った拳からは赤色のポリゴンが僅かに弾けた。


『素手で攻撃したためダメージを受けました』


「殴った俺がダメージ負うのか!?」


 反射ダメージあり。つまり、徒手空拳(ステゴロ)でやり合うには向かない仕様ってことか。しかし反射でどの程度のダメージを受けたんだろう。


 俺の考えを察したようにアナウンスが流れた。


『戦闘中に自身のHP増減を表示しますか?』


「うん、表示してくれると助かる」


 視界の端に緑色のHPバーが表示されるようになった。こういうインジケータが表示されるとここがゲームの中なのだと思い出させられるな。


 そして削られた体力はほんのちょっとか。それならこのまま殴り続けてもいいけど……。


「カチカチカチ!」


 ジャイアントクラブはハサミを掲げて横歩きに迫ってきた。逃げようと思えば逃げきれる速さだけど、ここはもう少しやれることを試してみよう。


 再び俺はジャイアントクラブとの距離を詰めた。


 まずは奴の攻撃でどれだけダメージを食らうのかを確かめたい。即死か、あるいは耐えるのか。ボクサースタイルでジャイアントクラブに接近し、ジャブを適当に叩き込んだ。


『素手で攻撃したためダメージを受けました』

『素手で攻撃したためダメージを受けました』

『素手で攻撃したためダメージを受けました』


「カチカチ!カチカチ!」


 ジャイアントクラブは俺の攻撃に怯んだ様子もなく素早くハサミを伸ばした。そのハサミによってジャブを撃った直後の右腕が躱しきれずに挟み込まれる。ハサミはそのまま俺の腕を切断しようかという勢いで閉じ、途端に俺の身体からは赤色の四角いポリゴンが弾け飛んだ。


「うぉっ!?腕が千切れるって!」


 ジャイアントクラブを蹴り飛ばし、無理矢理腕を引き抜いて一旦距離を取る。HPバーを見ると、バーが残り四割ほどまで削られていた。


『ダメージを受けたとき、被害に応じて部位破壊が適応されることがあります。部位破壊された部位は治療を施すか一定時間が経過するまで機能を制限されます』


「……事後報告ありがとう」


 部位破壊。そういう状態異常があるなら、同じ攻撃を足に食らうのはマズそうだ。腕は最悪潰されてももう一方を使えばなんとかなるけど、足を潰されたら匍匐前進で逃げるハメになる。


「でもまあ、おかげでいろいろわかってきたぞ」


 ジャイアントクラブの攻撃に対して、俺はワンパンでやられることなく普通に耐えることができた。つまり、コスニアではレベル差は絶対的な差ではない。部位破壊の概念があることからも、コスニアの戦闘は単純なステータスのぶつけ合いではなく、対策を編み出して敵を攻略するタイプなんだろう。


 となれば俺が取るべき行動も必然的に決まってくる。


「ここからはチクチクやらせてもらうぜ」


 俺は傍に転がっていたコブシ大の石を拾い上げた。


 こちらと蟹の間にある機動力の差は歴然としている。ハサミによるダメージが大きいとは言っても、攻撃を受けなければ問題ない。


 俺は石を握って振りかぶり、ジャイアントクラブに向かって全力で投げつけた。石はジャイアントクラブの甲羅に命中し弾かれたが、けっこうな量の赤色のポリゴンを発生させていた。


「これなら戦えるな」


 手ごたえアリだ。このやり方なら完封勝利も狙える。


 だが、攻撃されて黙っているジャイアントクラブではなかった。すぐさま反撃しようとこちらに向かってくる。


「来た……!って、怖いけど遅っそいな」


 一瞬ビビってしまったが、蟹の足回りは鈍い。俺が軽く左右に動くだけで翻弄されたように何度も足を止めた。


 その隙を見て何回か石を投げると、ジャイアントクラブは甲羅から青い血液を流し始めた。どうやらコスニアのダメージ描写は、ダメージ量は赤色のポリゴンで示し、残り体力はビジュアルで表現するシステムらしい。


「おりゃ!」


 何度目かの投石で、ジャイアントクラブは力尽きたようにひっくり返った。


『レベルが上がりました』


 ジャイアントクラブの身体が赤色のポリゴンを噴き出しながら消え去っていく。


 案外あっさり倒せてしまった。初めてのちゃんとした戦闘でどうなることかと思ったけれど、考えて戦えば俺でもなんとかなりそうだ。


 完全にポリゴンが消えると視界の端に獲得アイテムが表示された。


【獲得アイテム】

・キチンx10

・蟹の身x12


「……蟹の身は食料アイテムだとわかるけど、キチンってのはなんだ?」


 インベントリを開き、キチンをタップするとアイテムの説明が表示された。


【キチン】

・昆虫や甲殻類から取れる。各種クラフトアイテムの作成に必要。


「なるほど、つまりどういう素材?」


 結局キチンという素材自体についての説明が全くない。


 アイコンの画像も何かの破片のような感じで判然としない。仕方がないので一度インベントリから取り出してみると、キチンというのは甲羅などの角質化した硬い部位全般から採れるものだとわかった。


 使い道は不明だけど、とりあえず捨てずに集めておいたほうが良いアイテムっぽいな。さて、このままひたすら蟹狩りに勤しんでもいいけど……。


「石ころじゃ倒すのに時間がかかりすぎるんだよなぁ」


 俺は腕を組んで唸った。


 投石はノーリスクだけど、巨大モンスターを倒すための攻撃手段としてはあまりに心許ないし効率も悪い。やはり武器が必要だ。石よりもまともな武器が。


 俺はシステム画面を開き、タブに表示されていた【設計図】をタップした。


『スキルポイントを3獲得しています。スキルポイントを消費することで設計図(ブループリント)を習得できます』


 アナウンスの説明を聞きながらそれぞれのタブを開いていく。


「へえ……設計図ってたくさんあるんだな」


 設計図一覧をスクロールしていくと、ほとんどはレベルが足りず習得不可となっているものの、椅子やコップといった日用品から斧や木刀などの武器まで様々なアイテムの設計図が表示された。


 ――コスニアは通常のMMOとは違い、スキルポイントを消費することで能力(スキル)ではなく設計図を習得できる。プレイヤーはひとたび設計図を習得すれば、その設計図が要求する素材を消費するだけでアイテムの作成・生産を行うことができるのだ。


 この辺りのシステムは一応事前に公開されていたから、さほど抵抗なく受け入れることができた。サバイバル系と呼ばれるジャンルのゲームには魔法や剣技といったスキルがない。代わりに設計図や青写真(ブループリント)を使った作成・生産能力を実質的にスキルとして扱っている。


 ただ、コスニアではそうした生産要素に加えてモンスターのテイムが可能らしい。テイムについては詳しいことはまだわからないが、そちらも後々やってみたい。


 俺は設計図を一通り眺めてから、ひとまず要求スキルポイント1の石斧を習得してみることにした。


『設計図を習得しました。作成に必要な資源アイテムは、フィールドに落ちているものを手で持ち上げ、インベントリ画面にかざすことで獲得できます』


「ふうん。じゃ、とりあえず石からだな」


 アナウンスに言われるまま、俺は砂浜に落ちている小石を拾い始めた。石を拾い、それを視界に表示しっぱなしにしていたインベントリにかざす。


 すると手に持っていた石は消え、インベントリに石材1と表示された。こうしたアイテム移動の仕方は他のゲームでも見慣れたものだ。


【所持アイテム】

・キチンx10

・蟹の身 x12

・石材x22

・木材 x14


「これで作成できるわけだな」


 集めたアイテムを確認してから、俺は所持設計図の一覧から石斧を選択する。


『石斧を作成しました』


 石材と木材を消費して二秒ほど待つとインベントリに石斧が現れた。


【石斧】

・基礎攻撃力+20

・耐久値 50/50


「攻撃力しか付加効果のないシンプルな武器だな。そしてやっぱ耐久値があるのかー……」


 シングルプレイのRPGで装備の耐久値管理があるゲームは大体面倒くさい。


「せめて修理方法が簡単だと良いんだけどな……」


 とりあえず俺は石斧を装備欄の武器1にセットした。すると石斧は実体となって右手に現れた。


 石斧は先端の石刃が平坦でほとんど鈍器という感じだ。片手で振り回せる程度に取り回しは軽いが、重みがあってそれなりに威力は高そうに思える。


『道具による採取は、フィールド上に存在する資源オブジェクトに対して道具で攻撃するだけで可能です』


「ほうほう」


 とりあえず物は試しだと、俺はそばに生えていたヤシの木(仮名)に向かって斧を振ってみた。


【獲得アイテム】

・木材 x5


「え、石斧最強か!?」


 素手で採集していたのが馬鹿らしくなる獲得量だ。これなら数分もあればインベントリいっぱいの木材を集められる。


 さらに、周辺の草むらや岩にも石斧を振ってみる。


【獲得アイテム】

・繊維x4

・石材x3


 オブジェクトによって採取できる素材はそれぞれ違うようだ。木からは木材、岩からは石材、雑草からは繊維が採れた。これらは基本的な素材っぽいな。この素材を組み合わせて色々なアイテムを作っていくんだろう。


 しかし別ゲーでもそうだけど、素材アイテムってあんまり種類が増えるとどれがどういうアイテムかわからなくなるんだよな。あんまり種類が少ないとゲーム性の奥行きが狭くなるけど、多すぎても覚えゲーになるから困る。


 インベントリを確認していると、どこからか奇妙な音が聞こえてきた。


「コケッ!コケッ!」

「お?」


 ニワトリのような鳴き声だ。なんだ?今度は鳥系のモンスターか?


 興味本位で音のほうに近づいてみる。茂みを掻き分けると、そこにはニワトリに似た姿のモンスターが無警戒に歩き回っていた。


『グランドバード♀ Lv.4』


 おいおい、なんか間抜けなモンスターだな……。


 ジャイアントクラブはリアルで見かけたら即通報ものの姿をしていたが、こいつはニワトリよりもちょっと大きいだけで全然怖くない。頭がやたら大きく、羽毛は焦げ茶色。クチバシは黄色でやや鋭そうに見えるが、羽は小さいし飛翔能力が退化しているのが見て取れた。


「えい」

「コケッ!?コッ……ケッ……!」


 数回石斧を振るとグランドバードはあっさりとポリゴンの藻屑に消えた。


【獲得アイテム】

・羽毛x6

・獣皮 x2

・グランドバードの生肉 x9


 食物連鎖の底辺に位置するモンスターって感じだな。なんか俺と立ち位置が近くて親近感を覚えてしまうけど、羽毛と獣皮は後々の使い道も多そうだし、この鶏もどきは見かけるたびに狩らせていただこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ