火と灰
『リオン:こんちは!』
「……あれ?誰もいないのか」
家に帰ってからコスニアに即ログイン。グループチャットを飛ばしてみたのだが誰の反応もない。ギルドメンバー一覧を見ると、ログインしているのはどうやら俺だけだった。
「三姉弟が全滅ってのは家族で用事でもあんのかな」
三人がいないということは昼過ぎから拠点はノーガードだったことになる。
「……拠点は大丈夫だよな?」
ひとまず拠点の様子を確かめるため、ギルドタブを表示して各種ログデータをチェックしていく。
――オブジェクト周りに異常無し。誰かがモンスターにキルされた形跡無し。グループチャットも通常通りと。
良かった。ひとまず安心みたいだ……さて、どうしよう。いままでは明確に毎日目標なり予定があったりしたんだけど、拠点が完成したおかげですぐ消化しなければいけないタスクはない。
拠点を出て辺りを見回すと、テイムしたアングリーライノと目が合った。
「よし、行くか!」
そんな思い付きのノリと勢いで、俺はアングリーライノと共に砂浜に繰り出すことにした。
「ライノ!突き上げだ!」
「ブォッ!」
「次はあっちの森に突撃だ!」
「ブフォッ」
誰もいない砂浜をアングリーライノで駆ける。
マニュアル操作でライノを動かすのも良いけど、結局は声で指示を出すのが楽だし雰囲気が出る。モンスター育成は心なのかもしれない。言葉で意思疎通するほうが通じ合っているように思えるのは気のせいか?
「ブヴァッ!」
アングリーライノはシャノミの木をへし折っていく。だが、すぐに重量超過になってしまったのか足が止まった。
「おっと、採り過ぎか。そろそろ拠点に戻るぞ」
「フォ……フォ……」
うーん、採取スピードが早いのは良いんだけど、インベントリがすぐに満タンになってしまうのがネックだ。いまのままでも人力でやるより圧倒的に効率は良いんだけど、やりようによってはもっと効率アップが狙えそうな気がする。
ぱっと思いついたのは、重量に極振りしたプレイヤーにライノと拠点の間を往復してもらう方法だ。しかし、重量極振りってのがまず罰ゲームのようなステ振りになってしまうのが良くない。
みんなのステ振りは細かく把握できていないけど、実際重量に極振りしている人はいないんじゃないだろうか。重量は完全に採取という狭いシーンでしか使いどころがない地味ステだし、利便性のために少し振ることはあっても、自分から進んで極振りすることはないと思う。
拠点に到着すると、俺はアングリーライノを鍛冶場の横に停めた。
採取した木材の量は670。重量で言うと335キロだ。それらの半分を拠点内のアイテムボックスに二往復して移動させ、残りの半分を外に剥き出しに置かれているアイテムボックスに投入する。
外置きのアイテムボックスは不用心なのではと思ったけれど、ちゃんとアイテムボックスに鍵は掛かるし、搬入も楽だから悪くない。最悪壊されても失うのは基本資源の木材だけだし。
「試しに鉄鉱石でも掘って製鉄してみるか」
昨日ログアウト前に作ってもらった鉄のつるはしを担いで周囲を見回す。元々鉄鉱石の湧きスポット付近に拠点を建てただけあって、辺りは一面鉄鉱床だらけだ。
目に付いた鉄鉱床につるはしを振り下ろすと、一気にインベントリが埋まっていった。
【獲得アイテム】
・鉄鉱石x11
・鉄鉱石x10
・鉄鉱石x11
・鉄鉱石x9
「四回振るだけで40キロオーバーか。こりゃすぐ重量オーバーになるな」
つるはしの性能が高いのもあるが、攻撃力極振りの補正のおかげで採取スピードが恐ろしいことになっている。鉱床を一つ砕くだけでインベントリがいっぱいだ。
「やっぱ重量が欲しいよなぁ。極振りだと小回りが利かない……」
極振りは楽しいけど、実用性がないのでは仕方がない。現在のレベルは24。4溜まっていたレベルアップポイントはすべて重量に振ってみてもいいな。元々そこまで極振りにこだわりがあるわけでもないし。
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【レベル】24
【名前】リオン
【体力】100/100
【持久力】100/100
【器用】10
【重量】56/140
【攻撃力】157%
【肺活量】100
【移動速度】100
【状態異常耐性】10
【熱耐性】40
【寒耐性】10
【昏睡値】0/100
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【満腹度】67/100
【水分】74/100
【栄養】65/100(詳細データ)
【病気】なし
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【装備】
【武器1】鉄のつるはし
【武器2】なし
【頭】なし
【胴体】獣皮の服(胴体)
【腕】なし
【腰】獣皮の服(腰)
【脚】なし
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重量は1振るだけで10キロも増加した。攻撃力が3%しか強化されないのに比べるとかなり良心的なのでは?想像以上に採取が楽になるんじゃないだろうか。これなら重量はあと6くらい振ってみてもいいかな?
アバターの育成方針を考えつつ、重量がギリギリになるまで採取した鉄鉱石を抱えて拠点へと帰還する。
鉄鉱石を炉のインベントリに木材と一緒に放り込み、火打ち石を消費して着火。
少しすると熱気がぶわっと上がり、炉の中がオレンジ色に輝き始めた。火力の調整は自動でやってくれるようで、放っておいても問題なさそうだった。
揺らめいている炎を見ていると妙に落ち着く。ずっと眺めていたいくらいだ。
「にしても鍛冶場らしくなってきたな」
炉が稼働し、鉄と灰が生産されていく様子は自前の工場を運営しているようで面白い。
「ん?」
炉のインベントリを見ていて、ふと鉄鉱石と鉄の精製数が釣り合っていないことに気付いた。
確認してみると、鉄鉱石から鉄への変換レートは2:1。つまり鉄鉱石2個で鉄1個が精製されていた。鉄が必要になったらその倍の鉄鉱石が必要なのか。こりゃ鉄鉱石をもっと掻き集めてきたほうがよさそうだ。
俺は再び鉄のつるはしを担いで裏山へと向かった。
近くの鉄鉱床を砕き、鉄鉱石を炉に投入してまた鉄鉱床に走る。
何度が繰り返していると、マルボロがどうして炉を5つ作ったのかもわかってきた。炉は鉄鉱石を鉄に変換する速度がかなり遅い。一個の鉄を作成するのに数十秒掛かるから、炉自体を大量に稼働させないと量産ができないのだ。
「はぁ……はぁ……こんなもんか」
5つの炉全てを稼働させる頃には、すっかりゲーム内は夜に変わっていた。リアルの時間ももう午後七時を回ったところである。
俺が一仕事終えた気になっていると、次々とギルドメンバーがログインしてきた。




