昏睡値
ゲンジたちが建てた仮拠点を出発し、俺たちはかなこ♪がテイムしたいと言うショルダードラゴンを探して旧拠点方向へとひたすら森の中を進んでいた。
「見つけた!あれがショルダードラゴン!」
かなこ♪は木々の枝間を指差した。
その方向に視線を向けると、すぐにターゲットの姿を見つけることができた。そいつは猫程度の大きさのだいぶ小柄なやつで、丸くて可愛らしい瞳をこちらに向けていた。
「あれがショルダー『ドラゴン』……?」
見た目はたしかにドラゴンの形をしているけれど、体表に緑色の毛が生えているし、ドラゴンというよりも可愛いぬいぐるみのような見た目だ。
「名前のショルダーってのは、肩に乗せられるって意味合いだったのか」
てっきり厳ついドラゴンが出てくるかと思っていたから、そのあまりの可愛らしさに俺は拍子抜けしてしまった。
「可愛いっしょー!?ほら、鷹匠って言うの?あれみたいに肩に乗せて、戦闘中に支援してもらえたら楽しそうじゃない?」
かなこ♪の言葉に、隣にいたフューネスが大きく頷いた。
「わかる!絶対捕まえよう……!」
なんか二人ともテンションぶち上がってる!?
二人は顔を上気させて、邪なオーラをショルダードラゴンに向けている。
困惑する俺を置いてきぼりにしたまま、フューネスは片手を挙げて言った。
「矢は私に撃たせてもらっていい?」
「あ、うん、どうぞお任せシマス」
ここはヒートアップ中の二人にお願いしておこう。俺がやっても外しそうだし、外したらめっちゃ睨まれそう。
フューネスはすぐさま弓と矢を取り出すと、小枝に止まったショルダードラゴンに狙いを定めた。そして弓を引き絞り、獲物が再び動き出す前に素早く矢を放つ。
「ギァッ」
直後、矢は命中し、ショルダードラゴンは悲鳴を上げて小枝から飛んだ。
「うわ、逃げたよ!?」
「逃がさない……!」
「二人ともちょっと待ってくれ!?」
そうか、麻酔薬は命中してすぐ効くわけじゃない。麻酔が効き始めるまでにはいくらかのタイムラグがあったのだ。
まさかショルダードラゴンが逃げ出すとは思っていなかった俺たちは、慌ててショルダードラゴンを追いかけた。
「わ!フューネス足はっやーい!」
俺とかなこ♪を追い抜いて、フューネスはどんどんショルダードラゴンとの距離を詰めていった。さすがにレベルも20を超えてくると極振りの効果が如実に現れるな。もうショルダードラゴンどころかフューネスの姿も見えなくなってしまった。
「はぁ……!はぁ……!ダメだこりゃ、全然追いつけないって!」
「ひぇ~さすがの移動速度振りってやつ?あたしたちはフューネスの連絡待つかぁ……」
「それしかないな」
フューネスが消えた方向に歩きながら連絡が届くのを待つ。少しするとかなこ♪が顔を上げた。
「あ、フューネスから個チャ来たよ。リオンさん付いてきて!」
「オッケー」
座標の位置はさほど離れてはいなかった。指定された場所に着くと、フューネスは地面に寝転がっているショルダードラゴンをじっと観察しているところだった。
「あ、二人ともこっち」
「わぁ寝姿も可愛いー」
「おー、矢はもう一回命中させた?」
「ううん、一本目の効果が遅れて効いたみたい」
やはり昏睡効果は遅効性らしい。しかし一発だけで寝てくれたってことは、大型モンスターをテイムする際もあまり本数は掛からないのかな?
「ステータス見てみていい?」
「うん」
ショルダードラゴンは気持ちよさそうに寝息を立てている。ステータスを見るついでに優しく身体を撫でてみると、毛足が長くてふかふかの絨毯のような感触だった。
「ぬいぐるみみたいだなぁ」
「もう最高っしょ!」
「たしかに」
ドラゴンと言うと爬虫類のようなツルツル肌をイメージするけれど、こいつはちょっとした変わり種のようだ。二人につられて興奮しながらも、開いたステータスを確認する。
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【レベル】46
【名前】ショルダードラゴン ♀
【体力】446/672
【持久力】134/134
【器用】112%
【重量】0/39
【攻撃力】124%
【肺活量】100%
【移動速度】100%
【状態異常耐性】134%
【熱耐性】87
【寒耐性】14
【昏睡値】78/100
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【満腹度】98/100
【水分】96/100
【栄養】99/100(詳細データ)
【病気】なし
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【装備】装備不可
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「へえ、人間とはステータスの数値がいろいろと違うんだな」
体力は人間よりもかなり多いけど重量は40キロしか持てなくて、装備が不可……と。防具を着せられないんじゃ耐久力に不安が残る。
実際、さっきのフューネスの狙撃でショルダードラゴンは体力を200以上削られている。三発命中させれば死ぬ計算だ。こいつは戦闘で使うにはちょっと頼りないかもしれない。
「お肉入れるね!」
かなこ♪は期待に満ちた目でインベントリに肉を投入した。すると、熟睡状態のショルダードラゴンの頭上にゲージが表示された。どうやら昏倒させてすぐにテイム完了とはいかないらしい。
「ん?リオンさんちょっと……」
「どうした?」
後からステータスを開いたフューネスは眉間に皺を寄せて言った。
「昏睡値がどんどん下がってる。これ、追加で麻酔薬を投入しないといけないんじゃない?」
「え、マジか?」
「麻酔薬って全部麻酔矢に変えてなかったー?」
「マズい、みんな急いであれだ。なんだっけあの黒い果実集めてくれ!」
「急げ急げ!」
ショルダードラゴンの昏睡値は現在進行形で下がっていた。
しかもその勢いはかなり早い。昏睡値が下がりきれば、おそらくショルダードラゴンは目を覚ます。そうしたら最初からやり直しだ。
「このあたりパラの実が全然生えてないだけど!」
「カナこっち!こっちいっぱい生えてるよ!」
「もう昏睡値切れそうだぞ!」
俺たちは昏睡値を下げないために近辺に生えていたパラの実を片っ端から採取し、逐次それをインベントリに投入する。
パラの実でも一応昏睡値は増えたが、麻酔矢一発で昏倒したことを考えると麻酔効果は微々たるもの。こんなことなら麻酔薬はいくつか残しておくべきだった。
「ふぅ……なんとかなったな……」
「一時はどうなることかと思ったね~」
「でも、これで」
「ああ……!」
10分ほど昏睡値を維持して、ようやくショルダードラゴンのテイムゲージはマックスになった。
「うおっしゃー初テイムきちゃー!」
「やったね」
「初テイム成功だな」
テイムが完了するとショルダードラゴンは目を覚まし、俺たちのことを親でも見るような円らな瞳で見上げた。なんて抱きしめたくなるような目をしてるんだ……。
「肩乗って!肩乗って!」
ショルダードラゴンは人間の言葉を理解しているのか、かなこ♪の指示に従って彼女の肩に飛び乗った。
「やったー!肩乗りドラゴンゲットだぜ!」
「ちょ、それ後で俺にもやらしてくれ」
「私もやる」
三人でショルダードラゴンを巡っての争いが起きることに疑いの余地はなかった。初テイムの喜びがデカいってのもあるが、このドラゴンマジで可愛いよ。うん。




