麻酔薬
麻酔薬の作成にはパラの実と腐った肉、それと薬師キットという専用の道具も必要らしい。
パラの実はわからないが、腐った肉は拠点にそれこそ腐るほど余っている。薬師キットのほうは建材アイテムのようで、建築土台やテーブルなどのオブジェクトに接続することで設置できそうだ。
……にしても、モンスターのテイム方法が薬で眠らすというのは意外だったな。猛獣を捕まえるために麻酔を打ち込む話はよく聞くけど、テイムでその方法を取るとは。
フューネスはふと思い出したように言った。
「パラの実って旧拠点のアイテムボックスになかった?」
「あったな。たしかマルボロさんが拾ってきたアイテムだったっけ?」
「入手した方法をマルボロさんに聞いてみる?」
「そうしよう」
フューネスは宙を指でなぞり、素早いタッチでキーをタップし始めた。
『フューネス:マルボロさん、旧拠点にあった木の実とかってどうやって手に入れました?』
マルボロからの返事は一分も経たずに返ってきた。
『マルボロ:森の中の植物を手で毟ったら手に入りましたよ。石斧で刈ると軒並み繊維になるみたいでしたが』
『フューネス:了解です。ありがとうございます』
なるほど、採取方法によって手に入るアイテムも変わるのか。試しに足元の植物を引き抜きインベントリにかざしてみる。
【入手アイテム】
・ステンス草 x3
【ステンス草】
・主に熱帯地域に群生している草。苦みが強く食べることはできない。各種クラフトアイテムの作成に必要。
「へえ、ステンス草だってさ。説明を読む限りだとただの雑草っぽいけど」
「どれどれー?見せてー」
「ほい」
俺はインベントリからステンス草を取り出してかなこ♪に渡した。
「ほんとだ、たしかに雑草って感じの説明~」
「こっちの花の付いてるやつは人間も食べられるみたいよ」
フューネスは赤と黄色の鮮やかな花弁がついた植物を掲げた。
「お、見して」
「あたしも!」
「どうぞ」
フューネスの持っている花を観察して、同じ見た目の植物をインベントリに入れてみる。
【サニュアの花】
・甘い蜜が取れる美しい花。草食モンスターの餌になる。各種クラフトアイテムの作成に必要。
「ん……これ本当に食べられるのか?モンスター専用じゃ?」
草食モンスターの餌になるとは書いてあるが、人間も食べられるとはどこにも書いてない。フューネスは事も無げに真顔で言葉を返した。
「猫や犬のフードが食べられるのと一緒。草食モンスターが食べられるなら、人間も食べられるよ」
「いやいやいや、それは食べちゃダメなやつだから。フューネスさんだって金魚の餌は食わんだろ」
「食べたことはないけど食べようと思えば食べれるはず」
「……もうこの話題はやめよう」
不毛だ。それに金魚の餌を想像したら胃がムカムカしてきた。俺が微妙な表情になっていると、かなこ♪は手当たり次第に草花を毟り始めた。
「とりあえずここらの植物もっと採取してみない?」
「そうだな……」
ごちゃごちゃ考えるより、とりあえず植物にどんなものがあるか知るのが先決だ。俺たちはほどほどにバラけて周囲の植物を採取してみることにした。
すると、周辺には思った以上にいろいろな植物が生えていることがわかった。一通り探してみて見つかったのは、ステンス草とサニュアの花以外だとパラの実、ゴリンの実、マスカの実、コチの実、タララ草の五種類だ。
【パラの実】
・食料として食べることができる。ただし、昏睡効果があるため食べ過ぎると睡眠状態になる。
【ゴリンの実】
・栄養価の高い実。食料として食べることができ、水分もわずかに摂ることができる。草食モンスターの餌になる。
【マスカの実】
・糖度の高い実。食料として食べることができ、水分もわずかに摂ることができる。草食モンスターの餌となる。
【コチの実】
・とても辛い実。強壮効果があり、気つけ薬として使うことができる。栄養価は低い。
【タララ草】
・匂いの強い草。クラフトアイテムの作成に必要。
食料になる実は果実と言われたほうがしっくりくるものが多い。麻酔薬の作成に必要なパラの実は小粒で黒い果実だった。
「そろそろパラの実は集まったんじゃないか?」
「まあまあ集められたよ」
「集めたよー!」
「んじゃ、仮拠点に戻って麻酔薬を作ってみよう」
薬師キットは建築物に設置しないと使えないため、俺たちは一旦仮拠点に戻ることにした。
「さてと」
仮拠点に戻り、木のテーブルの上に薬師キットを設置する。薬師キットはローラーのようなものを往復させる臼や天秤などの小物がセットになった代物で、テーブルの上を丸ごと占領した。
かなこ♪はキットを前に「ううん?」と唸る。
「これどう使えばいいのかな?」
「使用法はアイテム説明には書いてなかったな。触ってみれば何かしらインベントリが出るんじゃないか?」
触ってみると、案の定薬師キットのインベントリが表示された。
【薬師キット 0/30】
「お、出た出た」
このゲームの仕様もだいぶ感覚で理解できるようになってきたな。
薬師キットのインベントリにパラの実と腐った肉を投入する。すると作成可能な薬の一覧が表示され、麻酔薬もその中にあった。
【調合個数を選択することができます】
表示された指示に従って、テンキーから最大個数を選択する。最終決定の選択肢をタップするとオートで調合が始まった。一度作成を始めればオートで調合してくれるのは助かるな。
「ほー、これなら他のことする合間にちょちょいと作れちゃうね」
「たしかになー。本拠点が完成したら肉が腐り次第、麻酔薬はじゃんじゃん作っていこう。これからテイムを進めて行くなら備蓄しておいて損は無さそうだし」
「いいね!あ、でもこれ場所取りそうだしマルボロさんに言っといたほうがよくない?」
「それもそうだ」
俺は薬師キットのスペースを確保してもらうようにマルボロにメッセージを送った。薬師キットの調合はその短い時間の間に終わっていた。
「早いな。作成できた個数は……全部で52個か」
「麻酔薬と矢で麻酔矢が作れるみたい。これで麻酔矢が52本は用意出来ると思う」
52本か。充分な本数に思えるけど、モンスターを昏倒させるのに足りるか正確なところはわからないな。ちょっと試し撃ちというか、試しテイムがしたい。
「最初は弱そうなやつに撃って試してみないか?いきなり大物に撃って全然寝なかったら勿体ないし」
「そうね。弱そうなやつと言うと……グランドバードとか?」
「ねえねえ、ニワトリもいいけどさ、私もっと可愛いやつ捕まえたい!」
「可愛いやつ?心当たりがあるならそれでもいいけど」
いままで見かけたモンスターと言えば、ウルフファングしかり大体は凶暴そうなやつばかりだった。
訝しむ俺に、かなこ♪は自信たっぷりに言った。
「超絶可愛いのがいたんだって!なんて言ったけな。ショルダードラゴンってやつなんだけど」
「いやそれ名前は可愛くなくないか?」
「可愛いんだって!見ればわかるから、探しにいこ!」
「うーん……」
余程捕まえたいのか、かなこ♪は頑として譲る気配がない。
「……そこまで言うなら行ってみるか。ちなみにそいつって何が好物そう?」
「そりゃ肉でしょ」
いや、やっぱり凶暴なモンスターだろそれ。
 




