テイム
「もう資材集めは充分みたいだから、カナさんとフューネスさんは好きにしていいよ」
マルボロの資材集め終了宣言を聞いた後、俺はいまだに木材を切り倒していた二人にそう告げた。
かなこ♪は頭の後ろで腕を組みながらフューネスに言った。
「別のことかー。何かアイデアはある?」
「ないよ。私は今日は資材集めだけするつもりでログインしたから」
「だよねー」
ぽっかり予定に穴が空いてしまった風の二人。そんなに暇なら、ちょっと誘ってみたいことがあったのだった。
「それじゃあさ、みんなでテイムでもやってみない?」
テイムはゲームを始めてから個人的にずっとやってみたいと思っていたシステムの一つだ。これまではレベル上げや拠点作りのために先送りにしていたけれど、拠点完成の目処が立ったいまなら手を出すにはちょうど良いタイミングだと思う。
フューネスは持っていた石斧をインベントリにしまって言った。
「テイムか……そういえばそんなシステムもあったんだっけね。良いね、実は私もモンスターいろいろと捕まえてみたかったの」
「私も私も!みんなでやろやろ!」
「お、じゃあ三人でやってみようか。俺ちょっとテイム方法調べてみるよ」
二人が話に乗ってくれたので、俺はヘルプ欄からテイムを検索した。
――結果わかったことは、テイム方法はモンスターによって若干異なるものの大体のやり方は一緒で、まずは捕まえたいモンスターを捕獲したり昏倒させるなどして『拘束』し、モンスターのインベントリにモンスターの好物を投入して『餌付け』することで完了できるということ。
フューネスは顎に手を当てて推理するように言った。
「テイムは拘束と餌付けの2アクションが必要なのね。とりあえず拘束に関しては昏倒させる方法のが楽そうだけど、昏倒方法はどうするのかな?」
「どうだろうな……俺が†刹那†にヘッドショットをぶち込んだときは、頭部への部位破壊判定で昏倒させてたっぽかったけど」
「リオンさん過激すぎ!?」
「不可抗力だよ」
「なんにせよ、それって対人間での方法よね」
「まあそうだね」
人間には人間用の、モンスターにはモンスター用の適した方法があるはずだ。しかし、ヘルプからヒントになるような情報を探してみるものの、目ぼしい説明はなかなか出てこない。
調べることに挫けそうになっていると、フューネスが俺のほうに身を寄せた。
「リオンさん、設計図の中に麻酔薬というのがあったよ。これ使えるんじゃない?」
システム画面はプレイヤー本人にしか見ることも触れることもできない。フューネスもその辺のこと はわかっているはずだが、つい忘れてしまっていたのだろう。ただ身体を密着させるだけの行為に俺は思わずビクっと反応した。
「あ、あのフューネスさん?」
「え……あっ、ごめんつい。そうだ見えないんだよね」
すすすっとフューネスは慌てたように距離を取った。
フューネスはVRゲーム特有の露出アバターを着ても羞恥心を見せることがない。そんな彼女が普通の女の子っぽい反応をしたので、俺は不意打ちでちょっとドキっとしてしまった。
なんか可愛いじゃねえか!てか恥ずかしいんだけど!そしてかなこ♪がめっちゃ面白そうに見てる!
かなこ♪は肩でフューネスを突っついた。
「おいおいフューネス~」
「カナはそれ以上言わないで」
「あはは、言わないよ言わないから。そんな睨まないでよー」
……なんつーか、この二人やっぱ仲良いな。しかしいきなりのことで驚いた。まあ、うん。とりあえず話を戻すか。
俺は咳払いをして言った。
「ん、んんっ、ともかく麻酔薬の話をしよう」
「そ、そうね」
「あー二人とも切り替え早すぎー」
もっとからかっていたかったのか、かなこ♪は頬を膨らませる。かなこ♪の反応はフューネスと共に無視。俺たちは麻酔薬の設計図に目を向けた。
 




