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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
ギルド結成
25/102

マスターとして 中編



 ――それから三時間が経過した。


【必要な素材リスト】


~最優先素材~

・石材x11700

・繊維x8050

・木材x5850


~後回しでもいい素材~

・キチンx500

・獣皮x300

・鉄鉱石x200

・水晶x???(未発見素材。しばらくは他で代用可能)




「なぁマスター……もう一度確認。この素材数って本気なん?」


 俺が素材集めを始めてから三時間が経過した頃、†刹那†が一人でやってきた。ちょうどアイテムボックスに石材を入れたところだった俺は、集まった素材の数をチェックしながら背後からの声に応える。


「ああ。マルボロさん曰くこれがガワだけでも完成させるための最低限だってさ」

「……」


 質問に答えたのに†刹那†は「わかった」ともなんとも言わず、大きな溜息を吐いた。そして、耳に響くようなカン高い声で喚いた。


「あーもう!無理や!こんなん終わり!終了!今日はもう遊ぶ!」

「は?ちょ、おい……」


 資材の計算を中断して振り返ると、†刹那†は文字通り仮拠点の床に寝っ転がって駄々を捏ねていた。まだ必要な物資が半分も集まっていないのについに限界が来てしまったか……。


 ギルドでノルマや目標というものを立てて、それがかなりの負荷がかかるものだったとき誰が一番最初に根を上げるのか?


 それが年少組である†刹那†や針金だろうことは、マルボロが寄越したこのバカげたリストを見たときに直感で予想することが出来た。


 いや……俺だってちょっと文句の一つくらい言いたいわ!なんだよ石材一万以上って!?しかも最優先って!


 資材採取で一度に持ち帰れる石材は、重量の都合で大体160程度だ。つまり、石材を一万個集めるためには岩場と拠点を60往復以上しなければならない。しかもその60往復は100%安全に往復できるものではなく、3回に1回くらいはウルフハウンドやその他諸々の事故で失敗するのだ。


 しかも、集めなくてはいけない素材は石材だけじゃない。重量的に石材と大差ない木材も必要だし、繊維もどっさり山盛り定食だ。


 いくら俺たちが10人規模のギルドになったとは言え、一人あたり石材を1000個以上集めるというノルマはあまりにも重かった。


「針金とか何も言わんけどあいつモンスター狩りで遊び始めてるし!姉ちゃんも家事があるとか言って先にログアウトしてるし!」

「それは初耳だな……」


 どうやら三姉弟全員がギブアップらしい。まあ、ギルドに加入してすぐ石材を一万個集めろって言うのがかなりの無茶振りだってのは俺も感じているけどな……でも、黙ってサボらずに「休みたい」の一言くらいは言って欲しかった。


「刹那や針金が今回のノルマをキツく感じるのはわかるけどさ、もう少しだけ頑張ってくれないか?ノルマが終われば好きにしていいから」

「マスターの言いたいことはわかっとるけど、二人がサボってるのにやる気せーへんもん」


 もっともな意見だった。ほかの人がノルマから逃げているのに自分だけそれに取り組むっていうのは中々しんどい。かといって、針金とキキョウの二人にノルマを無理強いするのもどうなんだろうか。


 対戦要素が薄いソシャゲ界隈のギルドでも、月にポイント〇〇万稼いでくださいとかノルマがあるところは多い。そういうギルドは軒並みガチもしくは半ガチのギルドだから加入しているメンバーもある程度は覚悟してそこに身を置いていると思う。


 だけど、俺たち南海同盟というギルドはその辺の定義づけが出来ていない。ガチギルドなのかカジュアルギルドなのか、まだ中途半端な立ち位置なのだ。


 結成の経緯を考えればカジュアルギルドで良いとは思うのだけど、コスニアでカジュアルプレイを続ければ遠くない未来に大手ギルドに潰されるのがオチだ。なんせ惑星エルドガルフは全地域PvP可能な大人数対人戦闘ゲーム。カジュアルでいることが許されないゲームシステムになっている。


 SNSで見た「日本では流行らない」という感想がいまになって身にしみる。こんな過酷なゲームのギルドを運営するなんてよほどの物好きか変人しかいないんじゃないか?


 なんて……泣き言を言っている場合じゃないな。


「刹那、二人をこれから呼んできてもらえるか?一度ちゃんと話がしたい」

「うん?まあ、わかった」


 溢れ出そうになる後悔にひとまず蓋をして、俺はとりあえず†刹那†に針金とキキョウの二人を呼び出してもらうことにした。



♦ ♦ ♦



 それから待つこと数分。すぐに針金とキキョウの二人はやってきた。


「すんません」

「マ、マスター怒ってる?」


 針金はやや不貞腐れた態度で言葉だけの謝罪を口にし、キキョウは恐縮した様子で頭を下げながら俺の表情を覗き込んでいる。二人ともサボりの自覚はあったみたいだが、それでもちゃんと来てくれただけ良かった。


 謝ったり言い訳をするのが嫌で、そのままギルドを脱退してフェードアウトという事態を俺は一番恐れていたのだ。実際、オンラインゲームでは人間関係のリセットが簡単だからな。一定以上のストレスを感じたらギルドを離れるという人は多い。


 俺は怒っていないことをアピールするために努めて表情を柔らかくしつつ、新たに作成したリストを三人にフレンドチャットを通して提示した。


【必要な素材リスト(三姉弟合計)】


・石材x1800

・繊維x1200

・木材x600


「これはなんです?」


 キキョウはリストを見て首を傾げた。


「三人にはそのリストにある分を集めてもらいたい。最初にお願いしたノルマよりもだいぶ削ってあるから、これならなんとかなるんじゃないか?」

「それは助かるけどええの?拠点を建てるにはかなりの資材が必要なんじゃ……」

「俺がマルボロさんに必要な資材を切り詰めるようにお願いするよ。元々、最初のリストは必要資材に相当余裕を持たせていたんだ」

「あ、そうなんだ。うん、じゃあこれならいける……かも?」


 キキョウはほっとしたような顔をして頷いている。†刹那†と針金も、「このくらいなら……」と呟きながらシステム画面を閉じた。


「いきなり厳しいノルマを課して悪かった。あれはさすがにキツいよな」

「まーなぁ、俺たち遊ぶためにコスニアやってるやもん」

「いま渡したリストはどうだ?やれそうか?」

「うん!これなら余裕や!な!」


 †刹那†はそう言って針金とキキョウに笑みを向けた。三人共このくらいのノルマであれば頑張れるということのようだ。


「じゃ、頼んだぞ。ノルマが終わったら好きにしていいんだから、頑張ってくれ」

「了解マスター!おっしゃ、今日中に終わらせたる!篤行くで!」

「待って!名前で呼ぶな言われたやん!」

「だから喧嘩すなって!」


 キキョウは走り出した二人を追って拠点を出て行った。騒ぎ声が完全に消えるのを待って、小さく息を吐く。


「はぁ……これで良し、と」


 三人にはマルボロにお願いするとかなんとか調子の良いことを言ったけれど、もちろんそんなものは嘘だ。マルボロが提示したリストは「最低限」必要な資材をまとめたものだから、これ以上必要資材が減ることはあり得ないし、なんなら100%追加注文が来るはずなのだ。


 でも、本当のことを言ったところで三姉弟の気持ちが萎えるだけだっただろう。それならノルマを軽くしてあげて、その分のシワ寄せを俺が引き受けたほうがまだマシだ。


「いまのなにが良かったの?」

「え……?」


 不意に声を掛けられた。振り返ると、仮拠点の入り口にはフューネスが立っていた。


「もしかして、話全部聞いてた?」

「盗み聞きしてたわけじゃないよ。ただ、素材を集めて戻ってきたところだったから」


 フューネスはその証拠といわんばかりに近くのアイテムボックスにアクセスした。資材集めが始まってから、仮拠点の外には剥き出しのアイテムボックスが図書館の書架のように綺麗に並べられている。


 外にアイテムボックスを置いているから防犯上は良くない状態だが、拠点完成までは利便性を考慮してこのようにしている。


 俺は黙々とアイテムを移動させているフューネスに苦笑しながら言った。


「なるほどね……じゃあ悪いんだけどさ、さっきの話は聞かなかったことにしてくれないか?」

「一人で抱え込むなって、私とかなこ♪に言われたばかりなのに?」


 険のある言い方をするフューネスに頷く。


「ああ、今回の話は俺のところで止めておきたいんだ。変に波風は立てなくない」

「……まあ、わかった。マスターはリオンさんだしね」

「ありがとう」

「ふん」


 不機嫌そうに鼻を鳴らして、フューネスは拠点を出て行った。


 フューネスがああいう態度になるのも仕方がない。三姉弟だけノルマを軽くするという措置は致し方がなかったとはいえ、不公平な措置だ。


 メンバー間でノルマに差を作るのは俺自身もどうかとは思う。しかし、ゲーム内ギルドというのは現実世界の「仕事」と同じようにはいかない。俺がコンビニで週一働いているのは給料という見返りがあるからだ。だが、ギルドが所属メンバーに返せるものなんてたかが知れている。


 そもそもコスニアはゲームだし、ノルマを課せられること自体がおかしな話なのだ。オンラインゲーム歴が長くなればゲームの仕組みを理解してノルマの必要性にも気づくのかもしれない。


 いずれにせよ、三姉弟にノルマを課すのは勝手な押し付けになってしまう。ルールは守ってもらわなければ困るが、ノルマはまた話が違ってくるからな。今回は俺が彼らの分の穴埋めをするのがベターな判断なはずだ。


 そう考えて、俺は再び資材集めのため森へと出発した。



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