ログアウト -2-
「赤沢ナイシュー!」
「サンキュ~」
3ポイントシュートが入り、俺は仲間とハイタッチを交わした。
クラスに関係なく有志を集めてのバスケットボール。俺は昼休みにはこうして身体を動かすようにしている。
体力作りはVRゲーマーとしては避けられない問題だ。プレイ中は脱力し続ける都合、VRゲームはアナログゲームよりも体力を落としやすい。故に俺は暇な時間があれば身体を鍛えるようにしている。
「そろそろ時間だな。負け組は表とボール任せた!」
「今日もかよー……」
「んじゃよろしくな~」
昼休みの終了を告げるチャイムが鳴ったので、負けたチームの連中はじゃんけんを始めた。点数表とバスケットボールの片づけ役を決めるのだろう。俺たち勝ったチームの面々は、悠々と教室へと戻っていく。
帰りの道すがら、同じクラスの太田が隣に並んだ。
「あち~。なあ、バスケ部に入るって話、そろそろ聞いてくれる気になったか?」
「ならないならない。放課後はバイトで忙しいから」
「バイトって本当かよ?凛音がバイトしてるのって見たことないけどなー」
「近所のコンビニで働いてるっての」
コンビニで働いているというのは本当だ。と言っても出勤は週に1回だけなのだが。おかげで採用されてから半年近く経つのに、いまだに仕事を覚えられていない。
俺にとって放課後というのは、家でVRゲームをやる時間と決まっている。クラスメートからの誘いがあれば遊びに行くこともあるけれど、部活となると話は変わってくる。しかも誘われているのがバスケ部となるとな……。入部となれば生活のすべてを部活に当てることになってしまう。だから、部活の誘いはいつもバイトを理由にやんわり断っている。
太田はスポーツ刈りの頭を掻きながら、小さく溜息を吐いた。
「もったいねーな。運動出来るのに運動部入らないなんてさ」
「入ったところでプロになれるほど上手いわけじゃないし」
「そうかぁ?凛音ならもしかするかもだぜ」
「ナイスお世辞」
「ったくよー」
運動は得意だ。特にバスケットボールは小さい頃に向こうでもやっていたから、特に好きなスポーツでもある。この運動神経の数%でもVRゲームに生かされてくれれば良かったのだけど、現実世界とVRゲームでは微妙に勝手が違う。
医療分野ではVR技術を用いたリハビリプログラムなどが発表されていて、現実とVRにおける身体操作の違いについても研究が進んでいる。
VRゲーム内における操作アルゴリズムに変更が入れば、俺ももっとゲームが上手くなれるのかもしれない。だが、ネット記事を読むにそういう変更が来るのは当分先のことになりそうだ。
「今度の練習試合出れるんだってな。頑張れよ~」
俺はそう言って太田の背中を叩いた。
部活には入れないが、同じクラスの友達として太田のことは応援している。大会で良いところまで行ったら観戦にも行ってみようと思う。




