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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
ギルド結成
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キャラクリ


「ここは……?」


 誰も乗客のいない飛行機?


 ずらりと並んだ座席の列。俺の身体は座席にベルトで固定されている。フワフワと浮いているような妙な感覚があり、窓を覗くと真っ黒な宇宙にゲームの舞台である惑星エルドガルフがあった。


『ようこそ、Cosmos Pioneers Onlineの世界へ』


 たぶん有名なんだろう女性声優さんのアナウンスが流れた。


『これからあなたは開拓者として惑星エルドガルフに降り立つことになります。エルドガルフの環境は多くの星々の民にとって非常に魅力的なものです。開拓に参加することができた貴方は――』


「スキップ」


 申し訳ないが話が長くなりそうだったので飛ばさせていただくことにした。


 せっかくの美麗ボイス。一度しか見れない冒頭イベントという希少性もある。俺だって声優の可愛い声はずっと聞いていたいし、シナリオの面白さが重要なシングルプレイのゲームでなら決してスキップ機能は使わない。しかし、コスニアはあくまでマルチプレイのMMOだ。


 必然的にゲームプレイにおけるシナリオの優先順位は低い。例えばの話になるが、MMOでシナリオが面白いから名作と呼ばれているゲームを聞いたことがあるだろうか?俺はない。深くは突っ込まないけれど、つまりそういうことなのだ。


 まあ、コスニアの設定資料は脳内に刻み込まれている。半年前から運営が公開していたものをしっかり熟読してきたからな。いまさら星系間のパワーバランスを保つための云々かんぬんとか、そういった政治っぽいお話は聞かなくてもいい。


『では、アバターの名前を設定してください』


 宙に現れた半透明のキーパッドに、あらかじめ決めていた名前を打ち込む。


『リオン』


 本名の「赤沢凛音」をそのままカタカナに直しただけの名前だ。どんなゲームをやるにしても、プレイヤーネームは「リオン」で統一している。


 名前を統一している理由は、そのほうが自分自身の評判を知るときに楽だからだ。エゴサは趣味じゃないけれど、ゲーム内で自分が人にどう思われているかはやはり気になってしまう。


 最終的にエゴサをすることになるなら、別々の名前でプレイするよりも名前は統一したほうが合理的だ。いちいちキャラごとの名前を検索して時間を潰すようなことはしたくない。


 そして俺の評判についてだが、大抵は悪口ばかりが書かれている。まあ協力型対戦ゲームはあまりやらないから、書き込みの頻度は常識の範囲内……のはず。


『容姿の設定を行ってください』


 こちらは登録済みのプリセットから持ってきた。アバターを登録すると同時に、いままでのデフォルトアバターが変化する。


「うん、悪くはないな」


 デモで具合を確かめてから設定を完了する。アバターは少年漫画に出てきそうな短髪赤髪で気の良さそうな青年主人公っぽい普通な仕上がりだ。まあ、アバタークリエイトに深いこだわりは無いしな。デフォルトっぽく無ければ十分だろう。


『アバタークリエイトが完了致しました』


 それにしてもまるで三分クッキングだ……。普通、ファンタジー系のMMOならここからさらに出身地・職業なども決めることになるのに、コスニアはそういう設定がないから全行程がすぐに終わってしまった。


 お次はどうするんだろうと待っていると、機内の照明が急に薄暗くなった。


『出発の準備が整いました。これよりポッドを射出します。射出演出中は感覚をカットすることができますが、いかがいたしますか?』


「ポッド?まあ……とりあえず感覚カットは無しで」


 なにが起きるのかはわからないけれど、感覚カットというのは刺激的な描写や感覚を消してくれる補助輪のようなものだ。俺は今年で17歳。来年にもう一個歳が上がればCEROの制限を気にしないで済むようになる。


 いまから来年が待ち遠しい。そうすれば際どいゲームにも手が出せるようになるし、いろいろと困ることがなくなる。VRの進化はそういう分野にも目覚ましいらしい。


『感覚カット無しを選択しました。オープニングイベント中に選択を変更したい場合は、システム画面から感覚設定を変更することができます。――それでは開拓者様、良い冒険を!』


 支給アイテムは無し、と。つまり、全員持たざるものでスタートってわけだ。ここまで全然触れていなかったが、俺が現在身に付けている唯一の装備(ふく)は、18禁パンツとも呪いの装備とも呼ばれる「白のブリーフパンツ」が一枚だけ。


 開幕から裸一貫で始まるゲーム……こりゃ、最初は死に覚えゲーになる予感がするな。ゲーム下手でも突破できる難易度だと助かるんだけど。


 俺が一抹の不安を覚えている間に、座っていた席が床ごと降下を始めた。視界は黒一色になり、宇宙船の船内を移動させられているのかベルトコンベアーを回すような音だけが聞こえる。


 真っ暗な閉所。響く異音。十数秒の間それが続き、次に視界が明るくなったとき俺は広大な宇宙空間にいた。


「うぉ……」


 圧倒的な解放感。透明な壁越しにあらゆる方向を見渡すことができた。頭上には宇宙船があり、真下にはエルドガルフがある。恒星の光を反射しているのか、エルドガルフは青い光を放っているように見えた。


 ――まさか、見える景色全部がVRワールド?


 だとすれば、コスニアがVR技術の最終進化形と言われるのも堂々頷ける。ついにVRゲームは仮想空間上に惑星そのもの、あるいは宇宙そのものを作り出せる段階にまで進化した。


 横を見れば、ほかのいくつもの宇宙船の姿があった。そして、宇宙船からはキノコを逆様にしたような黒い物体が等間隔で射出されている。外から見たら俺の乗っているポッドもああ見えるのかもしれないな。


 この広大なワールドに、いま世界中のゲーマーたちが一斉に降りようとしている。これから始まるコスニアの世界を想像すると背筋がゾクゾクと震えた。


 ――だが、感動を覚えていた俺はすぐにあることに気付いた。


「ん?これこのまま落ちるのか?」


 ふと見上げると宇宙船はゆっくり遠ざかっていた。


 惑星に降りるのは全然構わない。しかし、乗っているポッドの耐久性には若干の難があるように思えた。そもそもゲーム内アナウンスが感覚遮断の提案をしてきたのがまず不穏だった。


 システム画面を開くか迷っていると、不意にグラリとポッドが傾いた。


「う、うおおっ!?」


 何事かと思ったが、どうやらポッドが落下姿勢を整えるためにガスを噴射したらしい。ポッドは既に惑星の引力に引っ掛かったのか、ゆっくりと引き寄せられていく。視界いっぱいに映る惑星が徐々に迫り始めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれよおおおっ!?」


 そのまま俺は絶叫系ジェットコースターのような勢いでエルドガルフへと落ちていった。



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