鉄
拠点ではいつの間にかログインしていたマルボロがちょうど肉を焼いていた。マルボロは俺たちの帰りに気付くと軽く手を上げて言った。
「こんばんは。昨日からメンバーがだいぶ増えましたね」
「そっすねー。まあ、加入までには多少いろいろありましたけど……」
襲撃とか、ギルドルールのこととか、割と盛り沢山だ。一応、年長メンバーのマルボロには一言相談しておいたほうがいいかもしれないな。
俺は肉が焼けるのを待ちながら、マルボロにログインするまでに起きた諸々の出来事を簡単に話しておくことにした。その話をマルボロは興味深そうに聞いて、「なるほど」と一言呟いて頷いた。
「事情はわかりました。三人に何か問題があれば私からも言っておきます」
「はい、お願いします。俺も目は光らせておくんで」
三姉弟については色々と危なっかしいところがある。キキョウはともかくとして、下の弟二人ははっきり言って操縦不能だ。誰かが気を付けていないと、予期せぬトラブルに巻き込まれかねない。
心配のしすぎなのかもしれないが、まだ俺も三人についてはよく知らない。保険が掛けられるのなら掛けておいたほうが無難だろう。
話がひと段落したのを察してか、かなこ♪はマルボロの前に一歩出た。
「マルボロさん、服ありがとうございまーす!そしてよろしくです!」
「ああ、かなこ♪さんがフューネスさんの友達って人か。いえいえどういたしまして」
マルボロは朗らかに頷いた。
そういえば昨日は緊急事態の連続でマルボロとはあまり話せなかったんだよな。でもこれまでの様子を見ていると、マルボロは物腰も柔らかいし対応も丁寧。なんとなくオンラインゲーム歴も長そうだ。
現状未成年ばかりのギルドの中で、マルボロが一番経験が豊富なプレイヤーなのかもしれない。俺はかなこ♪とマルボロの顔合わせが済んだのを見て言った。
「なあ、みんなのレベルも上がってきたし、そろそろ何かやりたいなって思うんだけど」
「あたしは始めたばかりだからわかんなーい」
「私も特には。強いて言うならこのままレベル上げ?」
かなこ♪とフューネスにはこれという案はないようだ。マルボロに視線を向けると、マルボロは顎を撫でながら答えた。
「そうですね……でしたら鉄鉱床を探してみませんか?」
「鉄鉱床?なんですそれ」
「鉄が含まれている岩石ですよ。昨日みなさんがログアウトしてから石斧で岩を叩いていたら低確率で鉄鉱石が取れたんですけど……鉄鉱石は見ました?」
「ああ、アイテムボックスに入ってましたね」
「あの鉄鉱石が何に使えるのか設計図一覧を見て調べてみたんです。そうしたら近代的なアイテムの作製にはほぼほぼ鉄が必須とわかりました」
「つまり、生活レベルを上げるには鉄が必須と」
「そういうことです。なので、出来るだけ早い段階で鉄鉱石が大量に取れる採掘場を見つけたいなと思いまして」
いま俺たちが作製できるアイテムは原始的なものばかりだ。少し設計図一覧を下にスクロールすると、たしかに設計図が要求する素材には鉄が多く現れる。鉄のつるはし、剣、金庫などだ。
フューネスは同意するように言った。
「たしかに鉄は欲しいかも。鉄があれば銃も作れたりするんじゃない?」
「わーお、一気に文明開化?」
「カナそれ馬鹿っぽい」
銃……たしかに武器としてはこの上なく心強い装備だ。
それに鉄があれば、さっきの料理だって包丁や鍋を使ってもっといろいろなものを作れたはず。マルボロの言うように鉄鉱床の発見は急務なのかもしれない。のんびりしていたら他のプレイヤーに島に存在する鉄鉱床を独占される恐れもある。
俺はマルボロの提案に頷いた。
「鉄鉱床はいますぐ探したほうが良さそうっすね。三姉弟にも話してみましょう」
「お願いします。それと肉を焼いておいたので皆さんに持たせてください。たぶん遠征になりますし、焼いた肉はインベントリに入れて携帯できるようです」
「お、ありがとうございます。じゃあ早速呼んできます」
俺が呼びに向かおうとすると、マルボロは手を掲げてそれを止めた。
「あともう一つ」
「なんですか?」
「拠点にリスポーン用のベッドを設置してもいいでしょうか?それとほかにも家具を置いたり、増築に着手したいなと思っているのですが」
「ああ、そういやリスポーン地点のことすっかり忘れてました。いいっすよ、建築はマルボロさんに任せます」
「ありがとうございます。前のゲームでも建築を嗜んでいたもので、あれこれ拠点について考えるのが好きなんですよ」
「そうなんですか?期待しちゃいますよ?」
「それはほどほどで……好きなのと上手いかは別ですから」
マルボロは謙遜するように言って、早速作業を始めるつもりなのか拠点に入っていった。
……好きと上手いは別、か。身につまされる話だな。
ひとまずこれからの方針は決まった。俺は改めて拠点の前にメンバーを集めた。
「――というわけで、みんなで鉄鉱床を探そう」
俺の説明を聞いて、†刹那†は真っ先に手を挙げた。
「はいはい!マスター、鉄鉱床ってどんなん?」
「それはわからない。珍しそうな岩石を見つけ次第、石斧で殴って確かめてみてくれ」
「えーそんなんで見つかるん?」
「善処してくれ」
「私からもいい?」
「どうぞフューネスさん」
「鉄鉱床を見つけた際の連絡手段に、ギルドのグループチャット機能が使えると思うんだけどどう?」
「ギルド機能?ちょっと待って」
言われてシステムタブからギルドの欄を確認すると、なるほどギルドメンバー専用のチャット機能があった。
「これいいな。鉄鉱床を見つけた人はギルドのグループチャットで報告してくれ。それと今後はログイン・ログアウトの連絡はこのチャット機能を使ってもいいかもな」
「そうね。あと私はカナとコスニア内でフレンド登録してるんだけど、フレンド同士でもギルドのグループチャットとは別にチャット機能が使えるみたい」
「へえ……把握した。あとで適当に各自フレンド登録しておこう」
原始的な生活を強いるゲームなのに意外にコミュニケーション機能は近代的だな。これはマップが広すぎる都合、連絡手段がないといろいろと不便になるからかもしれない。
「あたしも質問いいかな!」
「はいどうぞ」
「まだレベル低いし心細いから、フューネスと一緒に探索してもいい?」
「いいよ。ソロで探索は危ないかもしれないしな。俺はマルボロさんと組むから、フューネスさんとカナさん、三姉弟の三手に別れて探してみよう」
「了解!」
みんなでマルボロが焼いた肉をインベントリに入れ、充分な量のシャノミの実を持って準備は完了した。鉄鉱床探しの始まりだ。
 




