レベル上げの後
「ええっ、あんな可愛い鳥さんを殺すの?」
「いや、さっきそれを食ってたんだからな?」
「そうだった!」
なんてことを言いながら、俺たちはグランドバード狩りに勤しんだ。
最初は可愛いとか可哀そうだなんて言っていたかなこ♪も、レベル上げが楽しくなったのか容赦なくグランドバードを狩るようになっていった。人は変わるものだ。というか、元々フューネスとシューターをやっていただけあってかなこ♪の弓を放つ姿はかなり様になってるな……。
しばらくすると、天敵のいない平和な海岸で暮らしていたグランドバードたちはすっかり狩り尽くされてどこにもいなくなってしまった。
「ふう、けっこう狩ったな」
水平線の向こうから朝陽が顔を覗かせていた。
コスニアでは太陽が出てから沈むまでの速度がリアルの3倍速に設定されている。つまり、8時間遊べばゲーム内だと見かけ上は1日が経過する計算だ。ただし、夜は昼よりも短く設定されているのか体感ではあまり長く感じなかった。
「鳥狩りはこのくらいにしておこう。レベルも素材も充分集まったし」
「そうだね~。てか、リオンさんって本当にゲーム下手だったんだ。自虐しつつ実は上手い人なのかと思っちゃった。こんなんでマスター大丈夫~?」
「だから言っただろ?すぐに俺の言っている意味がわかるって」
「カナ……ちょっと言葉がストレートすぎない?別にマスターはヌーブにも務まるでしょ」
「いやフューネスさんのほうが火の玉ストレート投げてるから……」
フューネスのフォローはちょいちょいフォローになっていない。まあ、変に実力を誤解されるよりは俺の下手さを理解してくれたほうが良いんだけど。
改めて己の腕のなさを嘆きつつ、みんなのレベルを確認する。
現在のレベルは俺Lv.15、フューネスLv.17、かなこ♪Lv.9だ。二日目にしてそこそこ良いレベルになった。解放可能な設計図も増えたし、そっちは後でチェックしておかないとな。
「おーい!マスター!」
「あ」
朝焼けの砂浜の向こうから三姉弟たちが歩いてきていた。三人の褐色肌に朝陽のオレンジ色はよく映えている。
三姉弟もかなりレベルを上げたようで、キキョウLv.18、†刹那†Lv.20、エンペラぁ針金Lv.19になっていた。さすがに狩りに集中していた三人はレベルの上がりが早い。
俺は三人にフューネスとかなこ♪を示して言った。
「二人は同じギルドのメンバーだ。よろしくしてやってくれ」
「フューネスよ。よろしく」
「かなこ♪だよ!」
フューネスはお辞儀をし、かなこ♪は軽く手を振った。応じるキキョウは恐縮した風に言った。
「キキョウです。二人の姉です。ご迷惑お掛けします」
「よろしく~小っちゃい姉ちゃんと派手な姉ちゃん!」
「あんた年上の人に何言ってんねん!?」
キキョウは†刹那†の頭頂部をバシーンと叩いた。
綺麗なノリ突っ込みだ。かなこ♪も同じことを思ったのか、キキョウに面白そうに訊いた。
「あはは、三人って関西住み?」
「奈良県民です!」
「おお!あたし八つ橋大好きだよ!」
「だからそれは京都やって!マスターもさっき間違えたし」
もー、と言ってキキョウは頭を抱えている。そんなやり取りを笑って眺めていると、†刹那†が俺のほうにやってきた。
「なーマスターちょっと」
「ん、どうした?」
「なんかさっきからステータスがデバフ食らってんねん……でも原因がわからんくて」
†刹那†は肩を回しながら、うーんと唸っている。俺はインベントリを開きながら答えた。
「ああ、それは健康系のステータスが下がってるんだよ。ゲーム内でメシと水分を摂れば治る」
「そうなの!?」
「ほら、とりあえずシャノミジュース飲んでみて」
インベントリから取り出したシャノミの実を石斧で傷付け、飲みやすくして手渡す。シャノミジュースを飲み干した†刹那†は、自分の身体を見て「おおー」と唸った。
「なんか力が湧いてくる気がする!」
その場で繰り返しジャンプして、†刹那†は身体が軽くなったのをアピールしてみせた。それを隣で見ていた針金はキキョウの手を引いた。
「姉ちゃん、僕も飲みたい」
「あーわかったわかった。ちょい待って、えっと……石斧でこう、かな?」
キキョウはぎこちない手つきでシャノミジュースを作る。二人がちゃんと水分補給したのを見て、俺は拠点のほうを親指で差した。
「あとは肉だな。散々狩りしてたんだから生肉はあるだろ?拠点前に肉焼き器を作ったからそれで焼いて食ってくれ。カニの身もヘルプから調べればたぶん食べ方が出てくる」
「了解マスター!」
「それじゃ、私たちはこのまま拠点戻ってもええですか?」
「俺たちも戻るところだから一緒に帰ろう。そろそろマルボロさんもログインするだろうしな。あと三人の分も服作ったから」
「さすが大将!これぞマスターやな」
†刹那†は調子のいいことを言ってはしゃいでいる。俺は慣れないマスター呼びにむず痒さを覚えながら、みんなで拠点へと戻ることにした。
 




