友達
「あ、アレだと思う」
赤白カラーのパラシュートがこちらに向かって真っすぐ降りてきていた。小さな点だったポッドはどんどん大きくなっていき、砂浜へと着地する。着地したポッドのパラシュートが収納され、ハッチが開いた。その直後、
「うわー、あつーい!焼けちゃうよー!」
と、クラスの陽キャ女子が夏場に言いそうなセリフを吐きながら、フューネスの友達「かなこ♪」は現れた。
三姉弟の「†刹那†」も厨二心くすぐられる地雷ネームだったけど、女性プレイヤーの「♪」というのも姫プ感が漂うよなぁ。統計を取ったわけじゃないし断定はできないものの、飾り文字を名前に入れるのはオンラインゲーム初心者が多いと思う。
フューネスは心配いらないと言っていたけど、嫌な予感しかしない。
「カナ、どうコスニアは?」
「凄いねー!シンクロ率高くて自分の身体みたいであたおかビックリ!でもいきなし裸ってえぐいわぁ……。み、じゃなくて、フューネスも裸だし!」
「女性アバターはタンクトップとハーパン履いてるじゃない」
「こんなのヌード同然だって!そちらさんの……リオンさんとかパンツ一枚だし!」
かなこ♪は目を背けながら俺のほうを指差した。フューネスは俺を上から下までじっと見て、何も言わずにかなこ♪に視線を戻した。
「別にVRゲームじゃこれくらい普通よ」
「普通のハードル高いって!」
こう面と向かって露出狂扱いされると恥ずかしいんだけど……。かなこ♪が来る前にマルボロが作った服を着ておくべきだったかもしれない。
俺は自分の無害さをアピールするため両手を開きながら言った。
「ま、まあ服は昨日メンバーが作ってくれたのを渡すから安心してくれ。俺も自分の分はあとで作って着るからさ」
「それ助かりますぅ~」
「あの、カナが失礼を言ってごめん……」
「いやいいよ、はは……」
あらかじめフューネスから自分とは真逆な子と聞いていたからな……まあ、想像していたラインは若干越えちゃってるけど。
「では改めまして!リオンさんがここのリーダーなんですよね?あたしはかなこ♪です」
かなこ♪はウィンク付きの敬礼で挨拶をした。初対面でここまでグイグイな子はリアル・ゲーム問わず初めてだ。
こちらに正面を向いたかなこ♪のアバターに目を向ける。かなこ♪のアバターはやや小柄で色白、巨乳というあざとい容姿をしていた。髪は両側に金髪カールで、肩口あたりまで伸ばしている。
フューネスがクール系とすれば、かなこ♪は甘やかされたお姫様なイメージだな。
「よろしくお願いします。俺はリオンです。じゃあ、早速ギルド入ります?」
「お願いしまーす」
「……あ、そうだ。フューネスさんに副マスター権限渡すから、普通に招待できるか試してみてくれる?」
「うん?まあいいよ」
ギルドにはマスターだけでなく、副マスターという役職も存在している。副マスターはギルドマスターよりも権限に制限があるみたいだが、それでも誰にも任命せず空けておくよりはフューネスに任せたほうがいいだろう。
というか、この状況でギルド招待を送るためとは言えかなこ♪に触れるのは憚れた。ここは同性で友達同士のフューネスから招待してもらって穏便に済ませたい。
俺の意図が伝わっているのかいないのか。フューネスは権限を貰うと、早速かなこ♪に招待を送ってくれた。
「入れたよー。へえ、ギルド名は南海同盟って言うんですね?」
かなこ♪はシステム画面を開きながら言う。
「あーいや、暫定で付けただけだから。もう少し人数が集まったら正式名称を決めるつもりだよ」
「なるほどです。じゃ、ギルドに入れましたし早速お洋服もらっていいですかー?」
「うん、ちょっと待ってて」
頷いて俺はアイテムボックスから獣皮の服を取り出した。二人に渡す前に装備効果くらいは見ておくか。
【獣皮の服(胴体)】
・防御力+15
・熱耐性-5
・寒耐性+5
・耐久値30/30
【獣皮の服(腰)】
・防御力+10
・熱耐性-3
・寒耐性+3
・耐久値30/30
見た目が変わるだけじゃなくて防御力も上がるらしい。それに熱さや寒さに対する耐性も変化するようだ。
「おー!なかなかオシャレかも?」
「でもちょっと暑いね。熱耐性が合計で8下がってるし」
装備を着たフューネスは暑そうに手をぱたぱたと仰いだ。なるほどな、気候に合わせた装備じゃないと健康ステータスに悪影響が出るのか。あんまり厚着しすぎても熱帯のこの島じゃ無駄に体力を消耗してしまうのかもしれない。
多少のデメリットはともかくとして、服を着た二人は一気に文明人らしくなった。獣皮の服は獣の茶色い毛並みが残った野性的な装いで、どこかの部族が実際に着ていそうな代物だった。
パンツ一枚の俺も早いとこ獣皮の服の腰装備くらいは作っておきたい……このままじゃ俺だけ原始人みたいだ。
「そんじゃ、自分の装備作るから素材集め行ってくるよ。二人は好きなようにやってていいからね。あとフューネスさんはかなこ♪さんにさっき話したギルドの決まり事を教えてあげてくれる?」
「了解。でもちょっと待って」
「ん?」
「リオンさんってまだこのゲームで食事してないよね?」
「そうだけど」
「自分のステータスを見てみて」
フューネスの言葉に従ってメニューを開く。
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【レベル】12
【名前】リオン
【体力】100/100
【持久力】100/100
【器用】100%
【重量】12/100
【攻撃力】133%
【肺活量】100%
【移動速度】100%
【状態異常耐性】100%
【熱耐性】40
【寒耐性】10
【昏睡値】0/100
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【満腹度】34/100
【水分】20/100
【栄養】58/100(詳細データ)
【病気】なし
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【装備】
【武器1】なし
【武器2】なし
【頭】なし
【胴体】なし
【腕】なし
【腰】なし
【脚】なし
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確認してみると健康ステータスがかなり下がっていた。
そうか、サバイバル系を謳っているだけあって、このゲームでは定期的に栄養を補給しないといけないのだった。ずっとゲームに夢中になっていてつい忘れてしまっていた。
思えば最初にログインしたときよりも身体の動きが悪くなってきている。健康系のステータスが下がると能力値に弱体化効果が掛かるのかもしれない。
「満腹度と水分ってのがいつの間にかだいぶ下がってる」
「実は私もその状況なの。ステータスを回復するためにまだ腐っていない生肉を焼いてみない?」
「お、いいね」
フューネスの提案には賛成だ。残った生肉についてはさっき勿体ないと思っていたところだしな。腐らすくらいなら食べてしまったほうが良い。




