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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
アイランド・ウォー
101/102

戦争 -3-



「ブモォォッ!」

「ブフォォォッッ!」


 ロンのアングリーライノは海へダイブし、そのままこちらのアングリーライノと海上で角を突き合わせて戦い始めた。本来陸生モンスターであるアングリーライノたちの海上での戦いは地味な絵面だが、これでアングリーライノを下げさせられたら弾抜きを継続することができない。


 ロンもさすがに余裕がなくなってきて、なりふり構わずやれることをやってきたな。


 泥臭いやり方であっても、数の上では五対三でこちらが不利な状況だ。なにかしら手を打たないとまずい。


「マスター、こいつらめっちゃ邪魔してくるんやけど!?」

「手持ちのアイテムで投石具を作れるか!?」

「あ……そっか、やってみる!」


 アングリーライノは貫通属性の攻撃には強いけれど、反面、打撃属性の武器には著しく弱い。俺のアドバイスを聞いて、キキョウと針金は投石具を作って敵に向けて投げつけ始めた。


『フューネス:私たちも援護する』

『リオン:頼んだ!』


 対岸で待機していたフューネス、かなこ♪、元Quartetらも状況を察してくれたらしい。小窓を覗くと、対岸からみんなを載せたケツァールテイルが飛び立っていた。


 そして、マシンタレットの射程外からハンティングライフルを持ったメンバーがアングリーライノに騎乗するロンのプレイヤーたちを狙撃し始めた。


 同時に、ロンのほうも狙撃を開始して弾抜きと狙撃合戦の二つの戦いが始まった。


『フューネスがnốt ruồiを倒しました』

『キキョウがVua hiệp sĩに倒されました』


 次々とログが流れていく。


 もういろいろと滅茶苦茶だ。ロン側は騎乗していたプレイヤーが死んだらアングリーライノを拠点まで呼び戻して新たな騎乗者を乗せて送り返し、こっちはこっちでケツァールテイルから湧き直してアングリーライノまで泳いで乗りにいく。


『アングリーライノがThủy linhに倒されました』


「アングリーライノがやられたか……。工場長さん! 拠点にほかに予備の弾抜き要員っていましたっけ!?」

「いるいる! 交配用に残しとったのがおる!」


『リオン:マルボロさん、拠点に交配用に残しておいたアングリーライノがいるそうなので持ってきてもらっていいですか?』

『マルボロ:ただちに』


 弾抜き用のアングリーライノは三頭いれば十分だと思っていたけれどとんでもなかった。想像以上にロンの抵抗が激しすぎる。それからまもなく、最初に連れてきたアングリーライノは全滅してしまい、すぐさまマルボロが連れてきた二頭のアングリーライノが戦線に投下されていった。


 さらに、マルボロは待機している時間すら惜しいと思ったのか、ほかにも空爆作戦で使わなかったフォレストタートルも雑に海上へ投下し始め、挙句の果てには弾抜き性能の低いウルフファングすら運び始めた。


『フォレストタートルがマシンタレットに倒されました』

『フォレストタートルがマシンタレットに倒されました』

『ウルフファングがマシンタレットに倒されました』

『ウルフファングがマシンタレットに倒されました』

『ウルフファングがマシンタレットに倒されました』

『ウルフファングがマシンタレットに倒されました』

『ウルフファングがマシンタレットに倒されました』

・・・・・・

・・・・

・・


 こうなると拠点のモンスター小屋ももうすっからかんになっているかもしれない。あまりの総力戦っぷりに笑えてくる。なにもかも出し尽くす勢いで、モンスターも物資もすべてが溶けていく。


「また敵のケツァールテイルが飛んできたど!」

「まだいたんですか!?」


『マルボロ:ドッグファイトするので狙撃組は援護お願いします!』


 ロンもケツァールテイルを複数頭テイムしているだろうとは思っていたけど、拠点が割られそうになってついに予備も投入してきたか。もしかしたら、こっちのデタラメっぷりに感化されて向こうも何もかも吐き出す覚悟が完了してしまったのかもしれない。


 二頭の装甲ケツァールテイルはお互いを啄むように接近してマシンタレットの撃ち合いを始めた。そして、そのまま上空へと昇り龍がごとく飛翔していく。


 陸からはそんなケツァールテイルを援護するため、ライフルの発砲音が絶えず響き続けた。


『マルボロがケツァールテイルLv.48を倒しました』


 ドッグファイトの結果は俺たちの勝利だった。ギルドログを見るに単純に向こうのケツァールテイルのレベルが低すぎたらしい。もはや、ロンに残りのケツァールテイルはいないと見ても良さそうだ。


『フューネス:そろそろライフルの弾が切れそう』

『リオン:弓矢でいいからちょっかいかけ続けてくれ』

『フューネス:了解』


 物資が切れるのが先か、相手のマシンタレットの残弾が切れるのが先かの戦い。


 三十分以上に渡り膠着状態が続き、ついにそのときはやってきた。


「マスター! やっと相手のマシンタレットが止まった!」

「ほんとか!?」


 見れば、崖上に設置されていたマシンタレットは沈黙して動いていなかった。それだけでなく、さらに上方に設置されているマシンタレットもランプが点灯していない。


 どういうことだ? 前線のマシンタレットが止まるのはわかるけれど、後方のやつまで弾切れになっている意味がわからない。


 ……これはもしかしたら、ロン側のメンバーが後方のマシンタレットに装填していた弾を前線のマシンタレットに移し替えていたのかもしれない。相手にしてもこの前線を維持できるかは戦いの分かれ目だったはずだ。拠点にある弾薬をすべて消費してでもラインは下げないという覚悟で戦っていたのだろう。


 そのラインを突破できたということは、もう敵の拠点は手が届くところにまで近づいたってことだ。


 もはや相手に残っている弾薬はない。ここからは歩兵も出して一気に侵攻できる。


『リオン:タレットが止まりました。みなさん上陸してください!』


 俺は槍を装備して戦艦イカダを降りた。ゲンジたちも船を降り、後方で狙撃に集中していたフューネスたちもケツァールテイルで運ばれてくる。


「やっと弾切れまで追い込めたね」

「ああ。ここからは白兵戦だ。みんなで敵拠点のベッド破壊まで一気にいくぞ!」

「うん!」

「よっしゃ任せとき!」

「このままアングリーライノで突っ込むで!」


 離れ小島の面積はさほど広くない。雄叫びを上げながらメンバーは崖を駆け上がっていき、すぐにロンの拠点に取り付ける位置までやってきた。


 ロンの拠点は最初にフューネスが観測してくれたときと同じ形。いわゆる豆腐型のシンプルな拠点だ。大きさは土台5x5で、高さは壁5枚分ほどもある。


 その建物の壁に、マルボロはC4を貼り付けて爆破した。


 ポリゴンが弾け飛び、豆腐拠点の横っ腹に風穴があく。


 破壊された壁の向こう側では、ロンのメンバーたちが弓矢を構えて俺たちを待っていた。もはや彼らもライフルの弾すらないカツカツの状態らしい。


「突撃だー!」

「おおー!」


 撃ち出される弓矢をものともせずにメンバーは敵陣へと突入していく。だが、突撃していったみんなはすぐにマシンタレットの餌食になった。


「あかん! 中のマシンタレットはまだ生きてる!」

「なら弾抜きするしかないな」

「アングリーライノ頭から突っ込ませんで!」

「では、私は反対側を爆破します!」


 拠点内のマシンタレットはまだ弾が残っていた。キキョウは拠点に開けた穴へとアングリーライノを突っ込ませ、また別のところではマルボロがC4でさらに大穴を開けた。


 南海同盟メンバーは新たに開いた穴に武器を持ってなだれ込む。蜂の巣に手を突っ込むような雑な方法で、敵拠点の奥深くへと俺たちは攻め込んでいった。


「ra khỏi !!」

「このままベッドまで貫かせてもらうぜ!」


 俺は棍棒を構えて殴りかかってきた敵に槍を突き刺し、同時に頭を棍棒で殴られた。敵は死に、俺は昏睡に落ちた直後にフューネスの槍で刺殺されてリスポーンする。


 こうも乱戦状態になると、もはや棍棒で一々敵を寝かせるのは非効率的だ。相手もすぐにそれを理解したのか、武器は弓矢から棍棒に変わり、最後は槍の突き合いへと移り変わっていく。


「ロケランいきまーす!」


 マルボロの声がだいぶ後ろのほうで聞こえたかと思うと、敵陣の中に向けて白い尾を引きながらロケットランチャーがぶち込まれた。


 ロケランはアイテムボックスに命中したのか、敵陣には大量のポリゴンと共に石や木材といった物資が放り出された。その物資の山に向けて、さらにロケランが打ち込まれて何が何やらわからなくなる。


「キュイキュイ!」

「ショルダードラゴンがベッド部屋見つけたって! こっちこっち!」

「こんなとこに肩乗りドラゴン連れてきたのか!?」


 この特攻上等な死地に危険すぎる。戦場にショルダードラゴンを連れてきたかなこ♪の采配には呆れてしまうが、敵のベッドを見つけたという情報に無意識に足が動いた。


「Đồ khốn kiếp !!」


 ベッド部屋の敵はさすがに必死だ。お互いに複数人で槍を突き合う攻防戦の様相になる。


 だがそれも、


「もう一発いきまーす!」


 と言うマルボロの声と共に一発でケリがついた。


 袋の鼠とはまさにこのことかと思う。中にいたロンのメンバーは全員爆死し、彼らの墓標の下にはベッドが六つ以上も並んで設置されていた。そのベッドを槍で引き裂き破壊して、さらに付近のアイテムボックスも荒らし回っていく。


 遠くで再び爆発が起きた。マルボロがまたロケランをぶっ放しているのだろう。


 結局、ロンのメンバーたちはすぐにリスポーンタイマーが伸び切ってしまったのかなかなか反撃に現れることがなくなっていった。


 それでもなお、俺たちは攻めを緩めなかった。地上階から最上階までを制覇して、これ以上は破壊するものがないという状況になってから、ようやく俺は一息つくことができた。


「――ふぅ、これでやっと終わりか」


 ロンのイカダ拠点の破壊から、弾抜き作戦開始、そして敵拠点内での白兵戦まででだいぶ時間を使ってしまった。だが、時間を使っただけの成果はあった。ロンの拠点のなにもかもが破壊し尽くされたのだ。


 もう拠点内にはベッド一つも残っていない。たまに湧いてくるロンのメンバーも、離れ小島の外にあるベッドから裸で湧いて特攻してくるだけになった。


 戦闘が落ち着いたところで、フューネスが隣にやってきた。


「予定よりも長引いちゃったね」

「そうだな……三姉弟は?」

「もうログアウトしたよ。社会人組の人たちも、さすがにそろそろログアウトかなって話してる」

「そっか……」


 長かった戦いもようやく幕切れということらしい。ただ、感傷に浸る余裕はあまりなかった。正直言って、すごく疲れてしまった。家に帰ってからこっちずっとフルスロットルでもう寝てしまいたい気分だ。


 ヘトヘトになりながら二人で外に出ると、そこには裸装備のロンのメンバーがいた。


「お前は……」


 初ログイン時と変わらないその姿を見て思い出した。たぶん目の前の相手は、俺がこのゲームに初ログインしたときに俺を襲った外国人プレイヤーだ。


 そこで初めて思った。俺はいままで画一的にベトナム人プレイヤーとしてしか相手を見ていなかったのだと。目の前のプレイヤーが特定の誰かなのだということをすっかり忘れていたのだ。


 口からは、自然と日中に勉強していたベトナム語が出てきていた。


「Xin chào」


 こんにちは、という意のベトナム語を聞いて相手がどう思ったのかはわからない。言葉のチョイスも、単にほかに覚えていたベトナム語がなかったというだけ。


 だが、そいつは肩を竦めて言葉を返した。


「Hãy chiến đấu một lần nữa」


 その言葉の意味は後日グエンくんに翻訳してもらうまで理解できなかった。


 俺を最初にキルしたそいつ――Vua hiệp sĩは、「もう一度戦いましょう」という再戦の宣言を俺にしていたらしい。


 二度とゴメンだな……と思いながらも、俺はその日の帰り道に、新たにベトナム語の参考書を買うことにした。次会うときは、せめてお互いがなにを考えながら戦っているのかくらいは知りたいと思ったからだ。


 ちなみに、ベトナム語の参考書には、彼らのギルド名であるRồng――という言葉の意味が記されていた。


 Rồngとはドラゴンを意味する言葉だそうだ。


 そして、ドラゴンがベトナムでは象徴的な意味を持つ言葉であることも、俺はその後のベトナム語学習で学ぶことになったのだった。


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