残党回収
翌日、最悪の目覚めの中、パムと今後の活動方針を決める。
「色々と足りないものが多い中、一番緊急度が高いのは残党の回収だ」
「残党の?回収する拠点はどうするの?」
「幸いにもこのボロアパートはオレの所有物だ。亡くなった但さんの遺産だな。残党は相当追い詰められているのは間違いない。残党刈りが行われなくても、金も食物もなければ自棄になる可能性もある。それを防ぐためにも残党はすぐに回収する必要がある。資金は一応、オレの蓄えがいくらかある。しばらく、と言っても一月が限界だろうな。それまでに資金調達を行う必要があるが、これもオレのコネと戦闘員でどうにかなる」
「コネ?」
「前職の都合でちょっとな。詳しい話は後にしよう。それで、残党として生き残っている可能性のある者に心当たりは?」
「それほど多くはないわ。拠点の維持管理をしていた非戦闘員は事前に退避させたし、そもそも逐次本国から呼び寄せる形だから現地スタッフも少ないの。ほとんど私の戦闘員で賄えるし」
ふぅむ、ホワイト企業として単身赴任を避ける形と思えばいいのか?
「結局の所、何人が逃げているんだ?」
「研究職が3人、拠点内の警備員が5人、それだけよ。新しく生産される戦闘員にもデータは入力されているから問題なく探せるわ」
「思っていたよりも少ないが、今回はその方が都合がいいな。戦闘員の内、1体はここでパソコンを使ったネットからの捜索、4体は足で探してもらう。潜伏が容易な場所はいくつか心当たりがある」
パムの影から戦闘員が現れてホログラフを被って人間の姿になる。ただし、全員が同じ姿だった。
「他に無いのか?」
「ないわね。何かマズイ?」
感性の差がこんなところで現れるとは、ちょっと予想外だった。
「追加はできるのか?」
「データさえ取り込めば。ただ、写真とかだと無理で3Dデータが必要なの」
「ちょっと待て」
ノートPCを立ち上げてフリー素材の一般人の服装と顔の3Dモデルを適当にダウンロードする。それからUSBケーブルを接続して戦闘員にダウンロードさせる。あとはランダムに選択させれば5人の一般人の出来上がりだ。その五人に小さいホワイトボードを首から下げさせ、ペンとスポンジを渡しておく。
「これで声を出せない障害者として誤魔化せる。ちょっと不信な行動をとっても障害者で押し通れる」
「へぇ~、そうなんだ。所で捜索範囲はどうするの?」
「この系列のネットカフェは個人証明書を持たなくても利用できる。あと、このカラオケもそうだな。24時間営業の安いバーガー店も抑えた方が良いな」
立ち上げたままのPCで地図を表示させて戦闘員に覚えさせる。
「根性のあるやつなら公園だ。小さな公園ではなくある程度大きい公園、ホームレスの行動範囲内、これらも探すべきだがついでで十分だろう」
同じように表示して覚えさせる。
「最後に、病院と警察だ。最悪パムのように倒れてる可能性があるからな。こいつはネット担当の奴に記録を当たってもらう。ただ、経路を誤魔化す必要がある。可能か?」
「たぶん、大丈夫だと思うけど、どうだろう?研究員の一人がそっちの専門だったはずだから、彼なら問題ないわよ」
「なら、そいつが捕まっていたり、病院に運び込まれていないのを祈っていろ」
活動資金として外回りの4体に1万円ずつ持たせる。あとでATMから引き出さないとな。
「それでは行動を開始。オレとパムは飯やら何やらを買いに行くぞ」
「パムちゃぁあああん!!よかった、本当に良かったわぁん!!」
パムの生活に必要な服や雑貨と食材を買い揃え、アパートに戻ると、一人の男性に迎えられた。
「アニー!?無事だったのね」
抱き合うのは構わんのだが、ご近所さんの目もあるから中に入って欲しい。外国人の美少女と黒人系のオカマはさすがに目立つ。
「ご近所さんの迷惑になる。中でゆっくり再会を祝うといい」
「あら、これはご丁寧に。ワタシ、アンドレイ。アニーって呼んでね。一応は施設の警備員だったのだけれど、さすがにジュエルヴァルキリーと戦えるほど強くはなくてね。抵抗はしたのだけれど、通路が崩れてパムちゃんを置き去りにするしかなくて、本当に生きていてくれてよかったわん」
「ああ、よろしくアニー。ここらは夜にはちょっと女性一人で歩くには危険だからな。戦闘員に余裕ができれば指揮は任せるよ」
オレの言葉にアニーが呆気にとられるのが分かる。
「何を考えているのかは分かる。だが、この状況から引っ繰り返す手立てはあるか?」
「貴方にはそれがあると?」
「ある。パムの生み出す戦闘員は本当に素晴らしい。こいつだけで十分にジュエルヴァルキリーを打倒できる」
積もる話もあるだろう。部屋を準備すると言い残して少しの間二人きりにさせる。
「パムちゃん、信じられるの?」
「本当の所を言うと分からない。でも、今の私が指揮を執るよりはマシだと思うの。実際、行動に移って半日も経っていないのにこうやって合流できた」
「分かったわ。今は、何も言わないでおく。ただ、いつでも相談に乗るから。今度こそ力になってみせるわ」
ジュエルヴァルキリー達から逃げることと部下を逃がすことしか出来なかったけど、一般人に負けるほど弱くもないし覚悟もある。
「ありがとう。でも、その時が来たら」
そこから先は口に出さなかったけど、たぶん、自分でやるのでしょうね。でも、その前に私がやる。パムちゃんにやらせたら自分も後を追いかねないわ。精神的にもういっぱいいっぱいになっちゃってるから。やっちゃうと糸の切れた人形みたいに立ち上がれなくなっちゃうわね。
部屋の用意ができたと呼ばれ、彼の部屋の2つ隣の部屋へと通される。
「すまんが水道やガスはまだ使えない。すぐにでも通して貰うが、しばらくはこのままだ。食事やシャワーなんかは纏めてオレの部屋を使うしかない。布団だけは何とかあるが拠点整備はもう少し後だ。今は残党の集結が先だ」
「構わないわん。けど、そんなお金はあるの?」
「前職のコネでちょっと危ないが仕事はある」
「一体どんなコネだっていうの?」
「ヒント、架空の企業の名前で倉庫を世界各国にある程度所有している」
倉庫を世界各国に?しかも架空の企業ってことは。
「それって密y「コンテナを運ぶだけ。あくまでコンテナを運ぶだけだ。間違えるな、書類と実際の中身が異なるかもしれないがコンテナを運ぶだけだ」完全に真っ黒じゃないの。まあ、分かったわ。荷物を運ぶ仕事をギアットにさせるのね」
「ギアットって下級戦闘員?」
「そうよ。名前も知らなかったの」
「そこに気を使う余裕が無いからな。とにかくギアットに荷運びをさせる。意外と需要は高い仕事だ。難度が高いほど金にもなる。ただし、信用が物を言う世界だ。そこはコネのある仲介屋を通してクリアする。最低限の資材を集めてからが本格的なジュエルヴァルキリー討伐作戦だな」
「何をするつもりなの?」
「怖い怖い、大人のやり方。出来るだけトラウマにはならないようにするつもりだし、段階的にやってリタイアすればそれ以上は何もするつもりはないさ。線引だけはしっかりとする」
「あまり非道なことをするつもりはないのね?」
「相手が意地を張るなら段階的にひどい目に合わせる。殺しは本当に最後の手段だ」
「でも段階的には酷いことをするのね」
「まあ、そうなるな。精神攻撃多めで心から折りに行こうかと思ってる」
早めにアモンちゃんと合流して記憶消去の道具でも作ってもらわないと大変ね。パムちゃん、そっち方面でも攻めれなかったから。そんなことを考えていたら2日ほどで全員が集合できたわ。仕事面ではある程度信頼できるのだけが収穫かしら。
さて、これから忙しくなるわね。