現状確認
プライベートフォースの首領になったわけだが、オレ自身は一般人だ。普通に元ブラック企業勤め現無職のアラサー独身だ。うん?パムに責任を取れと言われたから独身ではなくなったのか?まあ、後回しだ。確認することが色々ある。朝食を終えてパムとちゃぶ台を挟んで会議を行う。
「それで、責任を取ると言ってしまってプライベートフォースの首領になったんだが、最終目標は何なんだ?」
「もちろん、ジュエルランドを制圧してジュエルランドの技術力とエネルギーを使った武器や生活を豊かにする道具を生産する工場を立てまくって住民は強制的に働かせ、他の次元に売りまくるのよ。そのお金でまた工場を立ててを繰り返すの。目指せ失業率0%」
オレの着替えのTシャツとジーパンを着ているとどこにでもいそうな、美人はどこにでもいるわけではなかったな、とにかく美人なだけで多次元人とは思えないパムが最終目標を明かす。ブラック企業に聞こえるが8時始業17時終業昼休憩1時間。残業は月平均20時間で週休2日で振替休日有り。寮完備で食堂での昼食は無料。給料は平新人でも25万で資格や技能給有りの年1回のボーナス(半年分の月給)と年1回の昇給。年末年始は20日間の有給。それ以外の有給は年20日で内10日は強制。すごいホワイト企業で、首領はともかく就職したいと思ってしまった。まあ、それは一度横に置いておこう。
「まず疑問なんだが、なんでこの世界で戦ってるんだよ。直接シャドウアーモリーからジュエルランドに乗り込んで戦えよ」
「ああ、そっか。そこから説明しないといけないんだっけ。えっと、多次元跳躍なんだけど、これって好きな世界に飛べるって訳じゃないの。こう、道を作ろうとして障害物が多すぎて通れないというか」
「技術やエネルギーの問題で直接行けないと考えればいいのか?」
「そうよ。それでこの世界はハブステーションとでも言えばいいかな?色んな多次元世界の中継地なのよ。だから、お互い戦い易いとでも言えばいいかな」
「被害は全部この世界に押し付けてか」
「それは多次元世界ごとかな?私たちは結構気にしてる方で出来る限りこの世界の住人を傷つけることはしないわ。補給も基本は本国から送って貰ってるから。緊急時はこっちの世界にもある貴金属を売ったりして買うから。それに対してジュエルランドは結構酷いわね。私たちの敵、ジュエルヴァルキリーはこの世界の女の子たちなの。それを言葉巧みに操って、ジュエルランドのエネルギー、安直だけどジュエルエナジーを与えて戦わせるの。現地徴用兵ね。しかも無給でサポートはジュエルランドの住人の使い魔だけ。向こうに何度も抗議したけど無視一択よ」
パムからの説明で一気にニチアサヒロイン達がオレ以上のブラック企業に就職させられていることに気づかされてしまった。
「おかげで必要以上に強力な武器も使えないし、向こうは本気で殺しに来るから心を病む強化兵たちも出る始末」
やっつけてやると言うと大したことないように聞こえるが漢字で書くと殺っつけてやるだからな。言葉のトリックって怖い。
「でも、結局のところ殺害許可を出せなかった私の責任でもあるわ。今まで亡くなってしまった強化兵の家族たちにどう謝ればいいか」
強化兵、いわゆる怪人にも怪人の生活があるものな。傭兵だと考えればわかりやすい。
「あの、さっきは動揺していて責任をとってなんて言ったけど、忘れてもらっても、いえ、忘れて。貴方を巻き込むわけには行かないわ。すぐに出て行くわ」
「出て行ってどうする?帰れないんだろう」
「心配しなくても私にだって力はあるの。下っ端戦闘員を生み出す力が。それでなんとかするわ」
「下っ端戦闘員を生み出す力?それはどれだけの量を生み出せて、どれぐらいの能力がある!!」
出ていこうとするパムの腕を掴んで止める。
「えっ、いきなり何!?」
「いいからその下っ端戦闘員を生み出す能力の詳細を言え!!場合によっては何とかしてやれる」
今までの話からパムに協力はしてやりたいと思ってはいた。だが、現状はドン詰まり状態でさすがに今の生活や命をかけるのは躊躇ってしまった。それをひっくり返せる可能性があるのなら話は別だ。
「えっと、戦闘員って言うけど、正確にはロボットみたいなもので力とかはこっちの世界の成人男性の3倍ぐらいかな?来年に開催されるオリンピックとかいう大会なら1位を総なめ出来ると思うけど、それを一日5体生産できるわ。あとは武器として剣とマシンガンが合体した武器を持っていて、影の中に潜むこともできるわ。ただ、影の中に生き物を連れ込むことはできないわ」
「話を聞く限り、それでなんで負けるんだ?」
それだけの能力があれば取れる手はいくらでもあるはずだ。いや、出来る限りこの世界に影響を与えないようにしてくれていたんだったか。
「その戦闘員の30倍強いのが強化兵達なの。一定以上の強さがないとただの的なのよ。だから普段はアモンの、兵器開発担当官の手伝いとかをさせてたの」
「つまり、事務作業なんかも大丈夫なんだな。姿は?」
「一目でロボットだって分かる通常状態と一応ホログラフをかぶる形で人の姿へ擬態もできるわ。ただ、言葉を話せない欠点もあるわ」
「いいねいいね。専門知識なんかはあったりするのか」
「最低限の機械いじりは出来るわよ。ネットワークへの接続も基本設計ね」
「よしよしよし!!それだけの性能があるなら行ける!!再建もそこまで時間はかからない。最高じゃないかパム!!」
よ~し希望が見えた。とりあえずプライベートフォースの再建は保証してやれる。あとは、オレの退路を断つだけだ。これから結構非道なことをやりまくる。ジュエルヴァルキリーの5人とその家族の人生を台無しにする。それを躊躇うとオレだけじゃなくパムも、プライベートフォースの残党も破滅だ。だから躊躇わないように退路を断っておく。パムをベッドに押し倒す。
「え、ちょっ、なに!?」
「パム、責任はちゃんと取る。全部任せろ」
二重の意味で
「まっ、待って。朝からなんて」
「安心しろ。この安アパートの大家はオレだし、誰も住んでない」
「そうじゃなくて、私が去ればそれで」
「犬死をするか?今までの犠牲を忘れて、責任を果たさずに」
犠牲と責任に反応してパムの体が震える。
「そ、それでも、無関係な貴方を巻き込みたくない」
この甘さが敗北の原因なんだろう。だけど、その甘さを、優しさを感じたのは親と泣き分かれて初めてだ。だから、力になってやりたいと思えた。
「もう無関係じゃないだろう?責任を取れって言ったんだからな。そしてオレは取るとも言った」
「だからそれは忘れていいって」
「そうだな。先に謝っておくぞ、恨んでもいいし憎んでもいい、全部オレのせいにすればいい。これから忘れられないぐらい刻み込んでやる」
蛇口から流れる水の音に起こされる。下半身に違和感があるため動くのすら辛い。彼は本当に私に手を出していなかった。結局は手を出した、いや、強引に奪っていった。止めてと言っても、ゆっくりしてと言っても、何も聞いてもらえずに純潔を、全身を貪られた。
私が馬鹿だった。ジュエルヴァルキリー達に負けて、みんないなくなってしまった。誰かに助けてもらいたかった。彼は最初は文句を言いながらも、ちゃんと話を聞いてくれて、協力してくれると言ってくれて嬉しかった。なのに、こんなことになるなんて。
今なら戦闘員が5体いる。この世界の関係のない人に手を出したくなかったけど、こんな惨めな目に会うなら修羅になってでも!!
影から戦闘員のブレードライフルを引っ張り出し、洗面台の方にゆっくりと音を立てずに移動する。ブレードライフルの刃を鏡がわりに使って様子を伺えば、頭から水を被っていた。今ならいけると思った途端、蛇口を捻って水を止め、顔を上げようとしたので壁に張り付いて気配を殺す。
「なんて顔をしてる鬼島大河、もう後戻りは出来ないぞ。決めたんだろう、パムに協力するって。ジュエルヴァルキリーを、汚い大人に騙された少女を害すると、外道に落ちると決めたんだろう。やると決めたなら何としてでもやり遂げろ。あの日の彼女に誓っただろう」
ブレードライフルを影の中に戻して気づかれないように戻る。目覚めてすぐに立ち去るべきだった。責任を取れだなんて言わなければ良かった。たぶん、私は人が壊れていくさまを見せ付けられることになる。これは私が招いたミスだ。
本当に私は馬鹿だ。私の判断ミスでどんどん犠牲が増えていく。ジュエルヴァルキリーもそれに含まれる。犠牲に対して、私は何ができるのだろうか。
それを探さなければいけない。地獄を見せつけられながら答えを探さないといけない。それが私の贖罪だ。