深海の孤独
其処は限りなく透明な青だった。
深海の其処は限りなく透明な青だった。
群れる小魚が隊列をなして、林立するサンゴの合間をすり抜けてゆく。
ー何故、此処に居るのだろうー
私は薄ぼんやりとした記憶の糸を手繰り寄せる。
真っ白な砂浜に寝そべって、眩しい太陽を背に陰になった貴方の笑顔を見上げた。
貴方が何か言っている。
ーえ、何て?ー
聞き返そうとするのに、声にならない。
哀しげに目を伏せた貴方が、そっと白い花を差し出す。
手を伸ばして、掴もうとするのに、虚空に伸びた私の腕は空しく花を素通りする。
じっと私を見つめた貴方は、つと立ち上がると、くるりと背を向けて歩き出す。
ー待って、行かないで!ー
声にならない言葉が波に乗って散る。
気がつけば、私の目の前を大きなアオブダイがゆっくりと横切っていく。
ーあぁ…ー
「ワタシハ モウ アナタニ アエナイ」
静寂に包まれた海の底で、私は哀しい人魚のように、海の天辺を焦がれるのだろう。
早朝にテレビで見た深海の映像から想起した小品です。深海の映像を見た瞬間、名作「限りなく透明なブルー」が浮かんで、オマージュにして書きました。
美しくも哀しい青の世界を感じてもらえますように。
作者 石田 幸