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9th Stage これってデート!? 秘密の夏祭り!!

いつもご覧いただきありがとうございます!


夏祭りの前編です。次回に、ちょっとだけ続きます。

 

(け、結局、全部買ってしまった……)


 ミッション・コンプリート。


 ご丁寧にも、緋織から渡された封筒の中に入っていたメモ書きには、味ごとの個数と誰にあげるかまで書いてあった。

 メンバー全員に買おうとしていたとは、殊勝な人ですね、緋織クン。


「今回は、本当にありがとうございました!」


 東京駅には十四時過ぎに到着し、私は雪子と美智子さんに改めてお礼を言った。


「今度、うちにも遊びにいらっしゃいね」


 美智子さんが笑顔で言う。

 神奈川県の某市にあるという雪子の家は、学園からも片道一時間という場所にあった。


「はい! 是非、お願いします!」

「そしたら、ユッカ、また学校で!」


 またラブコールするね、と言う雪子に笑って手を振り替えし、私は学園の寮へ帰る電車に乗るため、ホームを移動した。


 ホームに着くと、ちょうど電車が到着した頃合いで、降車客と入れ違いで乗車する。

 車内は空いていて、難なく端の席に着くことができた。


 程なくして発車音が鳴り響き、動き出す電車。


 私は腰を下ろすと同時に、込み上げる思いを溜め息に詰め込んで吐き出した。抱える紙袋を持つ腕にも力が入る。


 今日は火曜日。


 脳裏には、旅行初日に会った緋織の言葉が浮かんでいた。


 〝そうしたら、水曜日に!〞


 確か、緋織は去り際に「朝、教室で」とも言っていた気がする。


(明日、これを渡しに行かなきゃいけないのか……)


 なぜ、自分から身バレの危険が伴うことをしてしまうのだろう。


「……」


 私は、緋織から渡されたメモ書きに、改めて目を落とした。


(これは……見間違い、じゃない、よね……?)


 渡されたメモには、《Vision》メンバーの誰がどの味を好きそうか、緋織が考えたと思われるペンの跡があった。


 そしてそこには、〝彼〞の名前もあった。

 消ゴムで消されていたけれど、微かに途中まで書いたと思われる名前。


 その味だけ多く個数が書かれていると思ったら、当初は〝彼〞にも買おうとしていたらしい。

 いつ消したのかはわからないけれど、緋織はいまだに〝彼〞のことを《Vision》の一員と考えているらしい。


 否、そう思っていないから、名前を消したのか。


 〝社長。私、アイドル辞めます〞。


 朱里さんにそう告げたあの日から、私はもう〝紫苑かれ〞ではなくなっている。


 《Vision》のことを一番に考え、ファンのことを大切にする〝紫苑〞は、もう……どこにもいないのだ。


 もし、何も言わずに彼らの前から去ったそんな〝紫苑わたし〞が、もう一度彼らに会ってしまったのなら、その時は一体、どんな顔をして会えばいいのだろう。


 その答えは、今日もどんなに考えても出てこなかった。


「……」


 アナウンスの声と同時に歪む視界に微かに映った電子版は、次の到着が最寄り駅であることを示していた。




「あっ!」


 朝。

 私が三年一組の扉を開けると、既に教室には緋織が待っていた。


「おはよう、緋織くん。早いね」


 今は午前八時前。

 私にとってはいつも通りの登校時間ではあるけれど、緋織にとってはそうではないだろうに。


 それほどまで、お土産が待ち遠しかったのだろうか。


「前入りは後輩の基本だからね」


 ははは、と笑いながら緋織が告げる。


「……そっか。アイドルだもんね、緋織くん」


 私は、お土産が入った紙袋を、はいと緋織に渡した。


「中に個包装の袋も入っているから、メンバーのみんなに渡す時にでも使って」

「ありがとう!」


 緋織からもらった封筒に、お釣りを入れて返す。


「……私も買って食べたけど、美味しかったよ」

「そうなんだ! 楽しみだな! みんなにもあとで渡しに行くよ」


 無邪気に笑う緋織。


 その笑顔は、〝私〞が直視するには、あまりにも真っ直ぐ過ぎた。


「……う、ん。美味、しか、った、よ……」

「えっ!? み、宮園さん!?」


 緋織に指摘されて、気が付く。


 目から、何かが出ていた。


「えっ!? 思い出し泣きするほど美味しかったの、このお菓子!?」


 検討違いなことを言う緋織。


(この《空気読めない馬鹿野郎(KYBY)》め……)


 内心ではそう突っ込みを入れつつも、目から溢れるそれは止められなかった。




 どのくらい泣いていたかは覚えていない、


 ただ、私が落ち着くまで、緋織は一緒にいてくれた。


(……なに、やってんだ、私……っ)


 私は教室の自席に座って、ハンカチで涙を拭う。

 今が夏休みで本当によかった。


「……落ち着いた?」

「う、うん……」


 深呼吸した私に、緋織が優しく言う。


「……何か、あったの?」


 不意に、緋織が言葉を溢した。


「えっ?」

「ほ、ほらっ、前にテストの時、俺、宮園さんに相談のってもらったから、そのお返し、というか……」


 もしかして、テストの二日間に仕事が入った時のことを言っているのだろうか。


 けれどあれは果たして、相談に入るのか。

 それでも例えそうでなかったとしても、緋織が私のことを心配してくれていたのは事実だった。


「……私ね、伯母さんに無理言って、この学園に編入したの」


 気付けば、私は口を開いていた。


「うん」


 緋織が静かに相槌を打つ。


「でも……そうすることで、伯母さん以外にも、色んな人に迷惑かけるってわかってたの。でも、私、それでも――」


 言葉にしなければならないのに、喉より先に声が出なかった。


「この学園に来たい理由があった?」


 私の言葉を汲み取ったのか、緋織は言葉を続けてくれた。


 私は力なく頷く。


「……私の我が儘で、周りの人たちに迷惑かけるってわかってたのに……私、その人たちに、ろくな説明もせずに出てきちゃったの……」


 私がこの学園に編入した理由は、朱里さんしか知らない。


 でも、それを今、目の前の緋織かれに言うわけにはいかない。


 もし言うのだとしても、私ではダメだ。


 それに例え言ったとしても、だから納得してくれ、だけでは絶対にすまされない。


「……そっか」


 前の席に座っていた緋織が、静かに言葉を落とす。


「俺は、宮園さんがこの学園に入りたかった理由が何かはわからないけど……きっとその事は、宮園さんにとって、君の周りにいた人たちには簡単に話せないくらい、大事なことだったんだよね?」


 彼の口から紡がれたのは、考えて選ばれているのがわかる言葉だった。


「……っ」


 それを聞いて、まるで心を見透かされたような気がした。


 私は一度、()()を天秤の片方に乗せたのだ。


 そして、もう一方を取った。


 過程でどれだけ悩んだとしても、その結果は変わらない。


 卑怯なのだ、私は。

 彼らを裏切ったのに、()()()()があってほしいと望むなんて。


「でも、今そうやって泣いちゃうってことは、宮園さんにとってその人たちは、本当に大切だってことだよね? 大丈夫だよ。

 宮園さんがその人たちのことを大切だって思ってるくらい、その人たちも宮園さんのことを大切だって思ってるはずだよ」


「……違う、の……」


 ――私じゃない。


「……え?」


 聞き返す緋織には、これ以上言えなかった。


 ――みんなが考えてる〝私〞は、私のことじゃない。


 教室に沈黙が生まれる。


「――そうだ!」


 また不意に、緋織が言葉を漏らした。


「宮園さん。今から時間ある?」




 私は、緋織に言われるがまま、私服に着替えて学園の校門前に立っていた。


(……一体、私は何をしているんだろう?)


 一緒にいては、いつバレてしまうかわからないのに。


 緋織と校舎前で別れてから三十分。もうじき、正午になろうとしていた。


「お待たせ、宮園さん」


 緋織の声だ。でも、その高い声に少し違和感が募る。


「緋織く――ん!?」


 私は目が落ちそうになった。


「どう、かな……?」


 肩まで伸びる黒髪。

 口許に手を置き、恥じらう姿はまさに女子だった。


 ご丁寧に、目許にはしっかり化粧が施されている。


 上背と肩幅は確かにあるけれど、それは来ている花柄のワンピースと羽織る白ショールでどうにか誤魔化されていた。

 小道具の日傘も、その一因となっているようだ。


「ふっ……な、何を……して……?」


 込み上げてきた笑いが、途端に私から言葉を失くさせる。


「ほら、俺、一応アイドルだし……女の子と一緒に歩くのは、ね?」


 だからって――


女装それは……」

「えっと、これは前に翡翠みどりが番組で女装させられた時に貸し出されたんだけど、返すの忘れてた衣装で――」


 出所を聞きたかったわけではないのだけれど、緋織はいつかのTV番組の企画でメンバーの中でルーレットで選ばれた三人が女装した時のことを言っているらしかった。


 確か、あの時は黄架と翡翠、そして〝紫苑〞がルーレットに選ばれたのだ。


「昨日から、近くの神社で縁日やっているんだって。一緒に行こう?」


 女子になりきっているのか、小首を傾げてこちらを窺う緋織。


「……でも、お仕事あるでしょう?」


 私が不安を口に出すと、緋織は日傘を差しながら微笑んだ。


「うん。でも夕方からだから、まだ大丈夫だよ」


 人混みが多くなる前には解散するということで、私はなぜか緋織と縁日に行くことになった。


(――ん!? これは、もしやデートなのでは!?)


 私がその事に気付いたのは、縁日にいる男女のカップルを見た時だった。


「はじめに何を見ましょうか? 宮園さん」


 猫なで声のような高い声が、隣の日傘越しから聞こえてきた。


 ――待って。相手は女装した緋織だから、デートでは、ない?


「そ、そうだな……って、私は何て呼べばいい?」


 ここで彼の名前を呼ぶ訳にはいかない。


 同じことを思っていたのか、緋織はしばし考えて、口を開いた。


「そうね。だったら、今は〝花子〞でどうかしら?」


 すっかり女の子口調が板についている。


 けれど。


「少し、安直じゃない?」

「そう? 可愛らしいと思うんだけど」


 その言い方が聞いているこちらが恥ずかしくなりそうで、私は折衷案を口にした。


「じゃあ、花ちゃんで……」


 うん、と頷く緋織――もとい花ちゃんは、満面の笑みで先を歩いて行った。


黄架(以下、黄):ねえ、藍くんは、女装したことある?

藍藍(以下、藍):俺はないよ。でも、翡翠がやってるのを見たら、〝俺の方が絶対に似合う!〞って思った!

  黄:……ははは。それ、絶対に本人の前では言わないであげてね。

  藍:そういう黄架は、とっても似合っていたよ、女装!

黄&藍:……そう言うことも、言わなくて良かったよ!!

    次回、8/13更新予定『10th Stage あの日の約束! 叶えたかった夢!!』お楽しみね!!

  黄:今度みんなでやろうよ、女装会!

  藍:それ、だれとくの企画なのさ!?

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