8th Stage ハプニング! まさかの旅先で!?
いつもご覧いただきありがとうございます!
そして投稿が遅くなりすみません……。
明日からはまた7時投稿を心掛けますので!
八月中旬某日。
早朝の東京駅の中央改札前は、それでも多くの人で混雑していた。
「おはようございます」
「おはよー!」
待ち合わせ場所で待っていると、雪子がこちらへ手を振って向かってきたのが見えた。
その隣にいる女性が、目配せで挨拶をしてくる。
四十代と見られ、落ち着いた黒髪を片方の肩で緩く纏めていた。
「はじめまして、雪子さんと仲良くさせていただいてます、宮園紫です。本日は、お誘いくださりありがとうございます」
「ご丁寧に、どうもありがとう。雪子の母の美智子です」
雪子のお母さんの美智子さんは、物静かで物腰もとても柔らかな人だった。
雪子がボストンバックを肩にかけ直しながら、私の手を引いて言う。
「それじゃあ、いざ! 伊豆は熱海へ参りますか!」
先日の雪子からの電話は、伊豆旅行へのお誘い電話だった。
なんでも、旅行の発案者でもある雪子のお姉さんが急な仕事で来られなくなってしまったため、一人分余ってしまったと言うのだ。
「……ねえ、雪子。ほんとに私で良かったの?」
新幹線のホームへと向かいながら、私は雪子に耳打ちする。
「せっかくの家族旅行だし、もっと身近な人とかでも……」
電話をもらった時は嬉しすぎて舞い上がってしまったのは事実だけれど、後から恐縮し出してしまったのだ。
エスカレーターを先に乗る雪子が、手を横に振る。
「いいの、いいの。うち、もともとこっちに親戚とかもいないし、旅行も気兼ねしない相手と行きたいでしょ?」
そういうものだろうか。
「ゆっかの方も、伯母さんから許可もらえてよかったね」
「うん。楽しんできなさいって」
朱里さんは、数日前から北海道へ行っていて、電話で旅行の話をして許可をもらっていた。
そういえば人生初の旅行なのかもしれないと、私はこれまでの半生を振り替えって思い至る。
新幹線は何度か利用したことがあったけれど、どれも仕事での移動に使ったくらいだった。
雪子のお姉さんが指定してくれた席へ着き、私は人生初の旅行に胸を踊らせていた。
東京から東海道本線熱海行きに揺られること約二時間。
目的の熱海駅についたのは、午前九時前だった。
ひとまず駅から歩いて十五分圏内に宿泊する旅館に荷物を預け、身軽になった私たち。
二泊三日という旅程なこともあり、一日目は熱海観光をすることになった。
熱海城。
起雲閣。
伊豆山神社。
バスや徒歩で観光をし、再びバスで熱海駅に戻ってきたのは、十六時を過ぎていた頃だった。
「巡ったねー!」
雪子がバスから降りて伸びをする。
先ほど行った伊豆山神社は参道はそこまで長くはなかったものの、約百七十段の階段は辛かった。
「ちょっとお茶してから、旅館に戻りましょうか」
美智子さんの提案に揃って賛成し、駅ナカのカフェで休憩することになった。
「明日の七湯巡りの順番とか考えよ!」
「じゃあ、私、案内所のところでパンフレットもらってくるね」
明日は熱海の名湯と言われた自噴の温泉を巡る〝熱海七湯めぐり〞を予定している。
雪子の持って来ていた旅行雑誌だけでも参考にはなると思うけれど、市内の観光も合わせてするなら、参考にする資料は多くても困らないだろう。
駅のなかには、バスから降りてきたであろう観光客の一行がいた。
(どこかの町内会の旅行かな?)
大型バスに丸々乗車できそうな人数。
その波を避けながら、私は向こうにある案内所へ向かおうとする。
その時。
「僕、もうちょっと前にいく!」
団体の中から、男の子が飛び出してきた。
周りが大人たちで見える視界がつまらなかったのだろう。
そして私は瞬間的にその男の子を避けるために、ステップを踏む。
「ありゃ?」
けれど癖で踏んだステップは、足が地面に着かなかった。
そうだ。今日はいつも〝紫苑〞が履いていたシークレットブーツよりも、底が薄いスニーカーだった。
そう思っても遅く、全体重をかけていたせいで、重心は既に後ろにいっていた。
(転ぶ……っ!)
反射的に身構えるも、不意に後ろから支えられた感覚によって、尻もちをつくことはなかった。
「……大丈夫ですか?」
――ん? この声は?
まさか、と思いながら、私は感謝の言葉を口にする。
「はい。大丈夫です。ありがとうございま――」
振り向き様にでた感謝が、相手の顔を見た瞬間に喉の奥で止まった。
その相手は――……
「ひ、ひお――もがっ」
「わぁー! 宮園さん、しーっ」
緋織が慌てて私の口許を手で塞ぐ。
彼自身もこんなところでクラスメイトと遭遇するとは思っていなかったらしく、若干のパニック気味だった。
「……ご、ごめん。でも、どうしたの?」
緋織の格好は、薄手のジーンズにTシャツ、帽子とサングラス。旅行にしてはラフだし、身軽過ぎな印象だった。
「撮影で来てるんだけど、今は休憩中で」
なるほど。
「……そ、そうなんだ。他のメンバーも一緒?」
「うん。でもみんな、朝から撮影続きだったから、今バスの中で寝てる」
朝からとは。
八月に入ってからはますます猛暑日も増えた中で体力勝負な職業とはいえ、お疲れさまです。
「そっか。お疲れさま」
私は、思わず労いの言葉をかけていた。
「宮園さんこそ、こんなところで何してたの?」
「私は、寮の同室の子に誘ってもらったの。親子の旅行にお邪魔してるとこ」
今は二人に一足先にカフェへ行ってもらっているから、少しは家族水入らずの会話が出来ているといいんだけど。
「そっか。じゃあ、今待たせてるよね。ごめん」
「ううん。私は今、案内所に用があって。こっちの方こそ、助けてくれてありがとう」
案内所でいくつかパンフレットを貰い、私はカフェへと戻ろうとした。
緋織は何か考えているのか、終始無言を貫いている。
「……」
「あの……」
緋織の視線の先。
それは、私が持っていたパンフレットだった。
「どこか、行きたかったりするの?」
「えっ!?」
仕事でここへ来ている以上、下手に動いてバレたりしたら不味いし、仕事先にも迷惑がかかる。
けれど自由行動でここにいるということは、何かしらしたいことがあるのでは?
「あ、うん。まあ……」
妙に歯切れが悪い。
(もう、なんなの、はっきりしなさ――)
そう思いかけて、私は自分の持っていたパンフレットの一枚目に目が行った。
(――もしかして?)
「もしかして、これに興味があったの?」
パンフレットに掲載されていたのは、甘味特集。
熱海市内にあるカフェや甘味のお土産が特集されており、その中でもとある土産商品が大きく取り上げられていた。
「……」
緋織がしばし無言の末に、頷く。
「……ごめん。忘れて」
そういえば、緋織は甘党っだったことを思い出した。
「ちょっと前に、兄貴が取材先で行ったところらしいんだけど、上手い上手いって言うだけ言って、お土産くれなくて……」
それで気になっていた、と。
「でも、撮影は今日だけだし、終わったらすぐバス出るしで、タイミングがなくて……」
徐々に小さくなる声に、私は同情が募っていった。
(仕事だもんね。そうそう言えないよね)
「……私、買っておこうか?」
そう自分で口にしたはいいものの、何を言っているんだとたちまち後悔した。
――今顔を会わせているのは誰だ。
――〝紫苑〞だとバレたらいけないのは誰だ。
「……ほんとに!?」
あ。
緋織の顔が途端に晴れやかになる。
「あっ、でも、今夏休み中だし、受け取るのは難しいか」
「……私、今週の木曜日まで、寮にいるよ……」
あとあとバレると気まずいので、私は自分から言ってしまった。
(これは、今さら断れないやつでは……)
いつの間にか、個数と代金が書かれた小さな封筒を渡されていた。
「宮園さん、ありがとう! そうしたら、水曜日に!」
「あ、うん。ドウイタシマシテ……」
身バレと同情を両天秤にかけ、結局私は去っていく緋織の背中を見つめることしか出来なかった。
(……自分の言葉には責任を持とう)
そう改めて感じた高校三年の夏。
「ゆっかー! どしたの? 遅かったね」
カフェに行くと、雪子たちが雑誌を広げながら話していたところだった。
「ううん。なんでもない……」
私が持ってきたパンフレットも合わせて、明日の行動計画について女子会が始まった。
「そしたら、明日はこの順番に行って――」
「あの、ここにも行っていいですか? お土産を買いたくて……」
私がおずおずと、地図のその場所に指を向ける。
「いいよー! 私もそこ、気になってたんだよね」
「あのお菓子のお店だよね」と二人に快諾され、私のはじめてのおつかいの条件は、ほぼ完璧に揃っていたのだった。
橙羽(以下、橙):ねえねえ、青ちゃん。
青史郎(以下、青):どうした? 橙羽。
橙:青ちゃんって、何か苦手なものある~?
青:(藍に続いてこの質問はなんだ?)……食べ物で言うのなら、酸いものが……苦手かな。
橙:へえ……じゃあ、この酸いものを食レポしてくださいってなったら、青ちゃん困る?
青:お前は一体、俺に何の恨みがあるんだ。
橙:……体育祭
青:五組が優勝したのは俺だけのせいじゃない!
橙:次回8/5更新予定『9th Stage これってデート!? 秘密の夏祭り!!』
お楽しみね~♪♪
青:……これ、食べなきゃダメなのか……?