表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/25

5th Stage そんなお題あり!? 波乱の体育祭!!

【2020/8/6:修正】橙羽の名前を間違えていたので修正しました。すまん、橙羽。

 

 そしていよいよ訪れた、体育祭当日。


 スケジュールはつつがなく進み、迎えた午後の部。

 昼食を終えて、時刻は十三時半。


 三年生のクラスの順位は、暫定一位が運動部の多い二組。次いで暫定二位が五組だった。


 その後の順位は三位から六位までが僅差で団子状態。そして最下位は、我らが三年一組だった。


「ごめん、宮園さん! 俺のせいで!」 


 借り物競争で一番走者だった吉野くんが、謝りながらゴール地点に戻ってくる。


「仕方ないよ! 〝アフロを被った校長先生〞なんて、吉野くんのくじ運が悪かっただけだから!」

「……それ、フォローになってないよ。手塚さん」


 確かに。吉野くんが引いたお題は〝アフロを被った校長先生〞だった。


 いくらルールであらかじめアフロが用意されていたとは言え、一見任侠ドラマに出てきそうなスキンヘッドが似合う厳格な出で立ちの校長先生に、『アフロを被ってください』と実物アフロを差し出しながらお願いするのは、どれほど勇気が必要だっただろう。


 吉野くんが、息を切らせながら私にバトンを渡す。


「でも良かったね。校長先生が協力してくれて」

「俺、海に沈められるかと思った……」


 その声は震えていた。

 お疲れ、吉野くん。


「任せて、吉野くん! こう見えて私、くじ運はいい方だから!」


 私はアンカーの手塚さんにバトンを渡すべく、お題が入っているボックスへと走った。


 大丈夫。吉野くん以上のお題が書かれているカードが出てくることなんて、早々ないはず。


『次にお題を引くのは三年一組、宮園さん!』


 実況席のマイクで中継をする放送部の男子生徒の声が、軽快なBGMにのせてグラウンドに響く。


『現在最下位の三年一組ですが、この借り物競争リレーでは、ゴールの順位で得られる得点の他に、わが校独自ルール〝借り物ポイント〞が適応されています!


 もしボックスの中に一枚だけ入っている〝虹色のお題カード〞を引いて、そのお題通りの借り物だと審査員から合格の判定を受けると、なんと50ポイントが得られちゃう!


 現在暫定一位の二組とは八十ポイントの点差の一組ですが、いまだに〝虹色カード〞を引いたクラスはおりません!

 ここで一気に差を縮められる大チャンスですっ!!』


 私はお題ボックスからカードを選び、手を抜いた。


『おおー! なんとここで宮園さんが引いたのは〝虹色カード〞だっ!!』


 さすが! やっぱり、私くじ運いいかも!?


 二つに折られている虹色のカードを開き、そこに書かれているお題を確認する。


(私のお題は――はっ!?)


『どうしたっ!? 宮園さん、カードを開いた瞬間に固まってしまいました!

 一体、カードにはどんなお題が書かれているのでしょうか!?』


(こんなお題、誰が考えたのよっ!!)


 前言撤回。私もアフロの校長先生が良かった。


 その時だった。


「宮園さーん!」


 〝彼〞の声が聞こえた。


 ◆


「宮園さーん! が、ん、ば、れー!」


 緋織はクラスメイトに手を振った。


 クラスメイトたちに予告していた通り、仕事が終わったのは正午前。

 それから急いでマネージャーの捺花に車を出してもらい、つい先ほど学園へと到着した。


 しかし着替える時間もなかったため、今緋織が着ていたのは番組に出た衣裳のままだ。

 この競技の応援が終わってから着替えに行っても、応援合戦の時間には十分間に合う。


 だから、借り物競争リレーの応援を優先した……のだが。


(えっ!?)


 しかし。

 緋織が手を振ったクラスメイトの彼女は、手を振り返すではなく、こちらへすごい勢いでダッシュしてきた。


 息を切らして緋織の元へと来た彼女――宮園紫は、深呼吸をして一瞬何かを決意したように息を飲むと、緋織の腕を力強く掴んで言う。


「緋織くん! 私と一緒に来て!」

「お、俺っ?」


 いきなりを言い出すのかと、動揺する。


「でも、俺、衣装着たままだし……」

「いいから、来て!」


 有無を言わさぬ彼女の口調に、緋織はなぜだか懐かしさを覚えた。

 それはいつだったか。確か昔、何かの番組の企画で――


 緋織はそれ以上を思い出す前に、彼女によってお題が発表されるお立ち台の上に立たされた。


『あなたの引いたお題は何ですか?』


 体育委員と思われる女子生徒が、そう言ってマイクを彼女へ向ける。

 彼女は、手に持っていた虹色のカードを広げて大声で告げた。


『私が引いたお題は――』


 彼女が持っていた紙に書かれていたのは――


 〝あなたのクラスの人気者〞。


 その文字だった。


 ◆


「いやー! さっきのお題はなかなかだったね」


 けらけらと笑いながら、雪子が告げる。

 現在、種目は変わって虹色競技。応援合戦だ。


 残る最後の種目、リレーを残して、私は雪子と持ち場へ向かっていた。


「こっちは笑い事じゃなかったのに……」


 そうだ。こっちは心臓が破裂しそうなほど緊張していたのだ。


「でも、三位まで上がってきたんだし、よかったじゃん! 一組!」


 そう。あのあと、アンカーの手塚さんが〝担任の先生〞を引き当て、弥生先生とともに見事二位でゴール。順位は大きく変動した。


 現在我が三年一組は、暫定一位の三年二組に三十ポイント差まで詰め寄り、順位は暫定三位まで上り詰めていたのだ。


 ――とは言え……あのお題には運営の意図を感じずにはいられない!


「でも、密着取材のいい獲れ高になったんじゃない?」

「っ!?」


 ――そうだった。


 今日は密着取材班が来ている。


 たぶん、先ほどの借り物競争での映像では、一般生徒である私はそこまで映像には撮されていないだろう。

 けれど、緋織の隣にいるだけで、注目度のレベルは格段に跳ね上がる。


「ほんとだよ~!」

「っ!? 橙羽!」


 とっさの反応に困り、私は思わず橙羽の名前を叫んでいた。


「僕の名前、覚えてくれたんだね~。嬉しいな~ぁ」


 私の許に駆け寄ってくる橙羽は、あざかわ以外の感情を瞳の奥に抱いているようだった。


「……でも、僕よりひおりんが目立つのは見たくなかった~!」


(単なる嫉妬かいっ!)


 内心突っ込みを入れつつ、私は橙羽から向けられる視線に首を傾げる。


「……」

「な、何?」


 橙羽の視線が一瞬鋭いものに変わった気がしたから。


「ほんと、お姉ちゃんも運がいいよね」

「……も?」


 その瞳から視線を反らしてよいものか考えあぐねていると、後ろから雪子の声がした。


「ほら、ゆっか! 早く行かないとうちらの番始まっちゃうよ!」

「う、うん」


 雪子の背中を押され、私は橙羽から視線を外す。


「……たいだったよ」


 去り際に背後の橙羽が何か呟いた気がしたけれど、その言葉すべてを聞き取ることは出来なかった。




「あたし、今になって緊張してきた……」


 隣でスタンバイする雪子がそう呟く。


「大丈夫だよ。あんなに練習したんだし」


 かくいう私も、胸の高揚感は高まっていくばかりだった。

 紫と黄の鳴子を持つ両手には自然と力が入り、グラウンドの中心で音楽が始まるのを待つ。


 今袖を通している衣裳は、紫を基調にしていて裾を広めにした浴衣風のもので、デザインは私が手掛けた。


 私達〈紫色〉チームの応援合戦は、よさこいだった。


 私と同じクラスで〈紫色〉チームの梶田くんが、よさこい経験者ということで、曲に合わせて即興の振り付けを考えてくれたのだ。

 十年来の玄人の考える振り付けは、やはり精練された動きで目を引くものがあった。


 私は〝紫苑〞として培ってきたから、ダンスには多少なりとも腕に覚えがある。

 だから、躍りに対しての緊張はなかった。


 そう……問題なのは――


 グラウンドのスピーカーから、テクノ調の音楽が流れる。

 同時に余計な記憶が脳裏に甦ってきた。


 私は邪念を振り払って、深呼吸し、タイミングを待つ。

 今回のよさこいでの使用曲。


 問題なのは、その選曲だった。


 『new Vision』。


 ――そう。それは《Vision》1stアルバムに収録されていた曲。


(……ああ、もう! なんつー懐かしい曲を出して来たのかな、梶田くん!)


 1stアルバムの題名にもなったこの書き下ろしの曲は、初のアルバムということで《Vision》メンバー全員を苦しめた――否、多くの経験を積まされた曲だった。


 あの時の経験があったからこそ、並大抵のことでは挫けなくなったとさえ思える。


 そして。


(……ここっ!!)


 そのタイミングで、膝をついていた全員が勢いよく立ち上がる。


 〈紫色〉チームのよさこいがグラウンドに舞い、私は一時の懐かしさに浸ったのだった。




 結局、我が三年一組は三位のまま、体育祭は終了。


 団体合戦のあとのリレーでは、アンカーの緋織が一番にバトンを受け取ったものの、その後に続く四組の翡翠みどりにゴール直前で抜かれてしまった。


 さすが、元陸上競技者の翡翠。


 翡翠は今では芸能界に専念しているけれど、中学生時代は地元の県大会に出場するほどの実力の持ち主だった。


 ワンツーで《Vision》メンバーがゴールしたということで、さぞかし密着班の皆さんは良い画を撮れたと思っていることだろう。


 すべてのスケジュールが終わり、私にあったのは適度な疲労と充実感だった。


 何かとハラハラすることもあったけれど、それらも全部引っ括めての充足感。


 こうして、私の人生初の体育祭は幕を下ろした。


 そして心身ともに満たされた私は、その日の夜、珍しく晩ごはんにカツ丼を食べたのだった。


緋織(以下、緋):どうも! 《Vision》の緋織ひおりです!

翡翠(以下、翠):同じく、翡翠みどりです!

緋:そう言えば、翡翠って名前は、社長につけてもらった芸名なんだよね。

翠:ああ。本名は千船ちふね佳緑よしのりだ。

緋:クラスではなんて呼ばれてるの?

翠:普段はみんな、翡翠って呼ぶ方が多いかな。まあ、俺もいきなり本名で呼ばれたらびっくりするだろうし。

緋:それわかる! 俺もこの前クラスの女子に〝花川くん〞って呼ばれて、ちょっとドキッてなったよ!

翠:俺はお前が回りの人にドキッとさせてないか心配だよ。

緋&翠:次回8/7更新予定『6th Stage なんで一緒に!? ドキドキ☆合同勉強会!!』お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ