表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

4th Stage 早速ピンチ!? あざかわ弟キャラ登場!!

 

『そんなこと、絶対にさせません!』


 ――言ってしまった。言っちゃった。


「ゆっか? もう七時だよ? 大丈夫?」


 二段ベッドの下段で布団にくるまっている私に、雪子は心配そうな声をかけた。


「うー。大丈夫……」

「どした? お腹でも痛い?」


 布団から顔を出すと、既に制服に着替えている雪子がいた。


「違うの。色々思い出して、緊張してきただけ……」

「何に緊張してるって?」


「中間テストはまだ先でしょ?」と笑う雪子に、少し元気を貰った私はベッドから起き上がった。


 朱里さんに会ったのが金曜日で、今日は月曜日。

 そう。社長の朱里さんにあんな大見得を切って、早三日。


 ここ二日の土日の記憶が曖昧なのは、どう考えたって自分の言った言葉のせいだった。


「もう食堂行かないと、ますます混んで登校時間遅れるよ?」


 雪子は私の習慣を熟知し、食堂が開店する六時に一緒に食堂へ行ってくれていた。

 けれど、今は緊張で何も喉を通る気がしない。


 今日から三月の卒業まで、学園の誰にも〝宮園紫()紫苑〞だと気付かれてはいけない。

 否、その事は一生バレてはいけない。


 そう思えば思うほど、胃がキリキリと痛み、立ち上がるのさえ億劫になる。


「私、今日は朝ごはん要らないや。雪子だけでも先に言って……」

「もう。それなんてゲームの死亡フラグ?」


 弱気になってもう一度布団にくるまろうとする私から、雪子は布団を剥ぎ取った。


「ほら! さっさと着替えて一緒に食堂行く! 朝ちゃんと食べないと、元気がますます出なくなるよっ」


 同室の雪子は、見た目のギャルさとは反して、とても甲斐甲斐しい性格だった。

 否、他のギャルを知らないから、私の偏見ではあるのだけど。


 そして結構サブカル好きだった。


 同室の彼女の本棚には色々なジャンルのCDやDVD、本が並べられていた。

 まあ、その中でも《Vision》のスペースは一番大きかったのだけれども。


「――雪子って、兄弟いるの?」


 身支度を終えて食堂に向かう道中。

 階段を下りながら、私はふと雪子に訪ねてみた。


「どしたの? 突然?」


 先を行く雪子が振り向いた。

 そしてニヤリと笑う。

 それは雪子が〝クイズ〞を出すときの癖だった。


「さあて。どう思う?」

「妹か弟が、いる?」


 私は思ったことを口にする。

 けれど雪子は両手を交差させて不正解であることを告げた。


「ぶー。残念。お姉ちゃんが一人で、私が妹でした」

「……そうなんだ。意外。面倒見いいから、てっきり下に兄弟がいるかと思った」

「そう言うゆっかは、絶対一人っ子だよね」

「そっ、そうだけど……」


 本当のことだけれど、なぜか傷付いた。


「まあ、うちは両親が早くに離婚してるから、お姉ちゃんとは小学校前に別れちゃってるんだけどねー」

「そ、そうなんだ、ごめん。言いづらいこと聞いちゃった……」


 朝から失敗続きだ。

 これでも元アイドル。人から元気を貰うのではなく、人に元気を与えていかねば!


「なんでゆっかが謝るのー? 別にお姉ちゃんとは、今でもたまに連絡とってるよ」


「そんなことより、朝ごはん!」と雪子に手を引かれ、私たちは賑わい始めた食堂に入っていった。




「今日のLHRでは、五月に控えた体育祭の参加競技を決めてもらいます」


 そう言って朝のHRが終わった後のLHRで、弥生先生がプリントを配る。

 その後は、先日の委員会決めで体育委員会に決まった木村くんと谷津藤(やつふじ)さんが進行役になった。


 私は前から回されたプリントを、後ろの席の机の中に入れる。

 本日、緋織は午前休だった。


「それではまず、体育祭の種目について説明します」


 委員の言葉に従って、私は配布されたプリントに目を落とす。


 種目は、リレー(参加者五名)、借り物競争リレー(参加者三名)、騎馬戦(四人一組計二組※男子のみ)バドミントン(シングル参加者二名、ダブルス参加者二人一組計三組)、二人三脚(参加者二人一組計四組)、応援合戦(参加者全員・虹色活動)、以上。


 ――ん?


「あのー『応援合戦(参加者全員・虹色活動)』って、何ですか?」


 恐らくは編入組の全員が思っていたであろう疑問を、私と同じ編入生の大野くんが質問した。グッジョブ、大野くん。

 その質問に答えたのは、担任の弥生先生だった。


「『応援合戦(参加者全員・虹色活動)』は、各クラスごとで競うのではなく、虹色チームごとに別れて行ってもらう競技です。

 ここでの勝敗は先生方によって決められ、優勝チームの所属している全クラスにその人数ごとで得点が加算されます」


 そして、同じように寮での同色チームにもポイントが加算されるとのこと。


 ――ここで来たか、虹色活動。


 つまりはここでの獲得ポイントも、寮でのポイントと同じく年末の集計に関わってくる、ということだ。


「あとで、虹色チームごとでそれぞれのクラスに別れてもらいます。そこで、各チームごとに演目を決めてくださいね」




「――で、ゆっかは参加競技は何にしたの?」


 昼ごはんを校舎の食堂で摂りながら、雪子が聞いてきた。

 彼女の今日のお昼はきつねうどんだ。ちなみに私はちょっと冒険して醤油ラーメン。


「私は借り物競争リレー。雪子は?」

「私はバドミントン。こう見えて中学の時はバドミントン部だったんだよー」


 ピースサインをしながら、雪子はうどんをすする。


「前々から思ってたけど、雪子って多彩だよね……」


 オシャレにサブカルにスポーツ。

 色々な経験を持つ雪子に、私は微かに憧れていた。


「そうかなー。ただ単に飽き性なだけかも。何やってもいっつも途中で飽きちゃうんだよねー」

「でもそれって、続けようと思えることを探して沢山のことに挑戦してきたってことでしょう? 私は凄いと思よ」

「……」


 雪子がうどんを掴む箸の手を止めた。


「雪子? どうかした?」

「……ゆっかはさ、時々、緋織みたいな無自覚飛ばすよね」

「はっ!? どういうこと!?」


 結局散々聞いても「教えなーい」とはぐらかされた。

 どういう意味? こっちは《Vision》のメンバーの名前を聞くだけで緊張が走るというのに。


 とは言え、〝紫苑〞の正体は何としてでも隠し通さなければならない。


 そのためには、クラスメイトや学生の生徒に気付かれないのは大前提として、なるべく《Vision》メンバーとは距離をおいて生活する。

 結局のところ、それが最善策であると辿り着いた。


 クラスメイトになった緋織とは必要最低限の関わりを持ち、そつなく話す。


(来月になったら席替えするって弥生先生が言ってたし、緋織も仕事で休みがちだから、絶対に大丈夫!)


 だから席替えまでの間の辛抱。

 そう思っていた矢先だった。


「あ、ひおりんと同じクラスの~! こんにちは~」


 背後から、語尾を伸ばす癖がある喋り方が近付いてきた。

 早速私は、要注意人物と出くわしてしまったようだ。


「あっ、橙羽(とうわ)じゃん。ちは~」


 ――橙羽だった。


 橙羽は、購買で買ったと思われる紙パックのオレンジジュースとサンドイッチをお盆に乗せていた。


 雪子は橙羽とは同じクラスではないはずだけれど、とてもフランクにそれに応える。

 雪子といい緋織を囲んでいた女子生徒たちといい……女子高生は、みんなそうなの?


 橙羽はニコニコ笑みを浮かべながら、私に訊ねてきた。


「確か、お姉ちゃん、ひおりんがうちの事務所と同じ名字だって言ってた女の子だよね~」

「そう。宮園って言います」


 同い年なのに〝お姉ちゃん〞呼び。


「さっすがアイドル! 弟キャラ徹底してるね。橙羽」

「えへへ。そっちのお姉ちゃんもありがとね~。でも、これはキャラじゃないよ~!」


 可愛く高い声。

 ファンの間で〝あざとくも可愛い〞――通称〝あざかわ〞とまで言わしめる橙羽の声と態度は、たちまち周囲の生徒たちの視線を集め出す。


「あはは……あの、まだ何か?」


 ただでさえ関わりたくないのに、向こうから来るのははっきり言ってやめて欲しい。


「この前、ひおりんが『宮園さんは《Vision(僕たち)》のこと知らないみたいだ』って言ってたから。僕が特別にお姉ちゃんに教えてあげに来たんだよ~」

「教えに? 何を?」


 余計なことを橙羽へ言った緋織を恨みつつ、私はなるべく穏便に済ませようと相槌を打った。


「ふっふーん。いっくよ~」


 そして得意気に鼻を鳴らす橙羽。


「『やっほ~! みんな大好き《Vision》の弟代表、橙羽だよ~☆ 今日一日は僕のお兄ちゃん、お姉ちゃんになってくれる?』」

「っ!?」


 私は飲みかけていた水を吹き出しそうひなった。

 彼の得意な決め台詞に、ご丁寧にも振り付けまで披露された。

 これぞ〝あざかわ〞。


「おー! 生橙羽だ!」

「橙羽くん、可愛い!」

「なるなる! 〝お姉ちゃん〞って呼んでー!」


(ほんとに、この学園の生徒はみんな揃ってノリがいいのね!)


 周囲の反応に満足したのか、橙和はへへーんと鼻をならした。


「どうどう? ちょっとは《Vision(僕たち)》のこと好きになってくれた?」

「う、うん。なったよ」


 私は盛り上がる周囲の熱量についていけず、返事がおざなりになってしまった。

 それが気に入らなかったのか、橙和は私のことをじっと見つめてくる。


「……」

「……えっと、何かな?」


 一瞬の間の後、橙和はあざかわな笑みを再び浮かべて強く言い放つ。


「僕だって、他のメンバーに負けないからねっ」


 それは私に向けてなのか、橙和自身に向けてなのかはわからなかった。




 何とか橙和の視線を潜り抜け、昼食を終えて教室へと戻る。

 そこで私は、ちょうど登校してきた緋織に体育委員の木村くんが騎馬戦の大将になってもらえるかどうか確認していところに出くわした。


「騎馬戦? やりたい……けど、ごめん! 俺、その日仕事入ってるかも……」


 そう謝りながら手を合わせて頭を下げる緋織。

 仕事なら仕方がないと、クラスメイトたちは騎馬戦の代役を探した。


「朝イチの仕事だから、たぶん昼頃には終わると思うんだけど……」

「そっか。なら、午前最後の騎馬戦には厳しいかもね。午後の最後のリレーには出れそう?」

「うん! それなら多分大丈夫!」


 原則、体育祭は一人一競技には参加しなければならないため、緋織はリレーに出る予定だった梶田くんと交代することに決まった。


紫:こんにちは! 宮園みやぞのゆかりです。

雪子:古上こがみ雪子ゆきこでーす。

紫:ねえ、雪子に質問があるんだけど、いい?

雪子:なに? ゆっか?

紫:雪子が紫苑ファンになった理由って、なに?

雪子:えー? そこ聞いちゃう?

紫:話したくないなら、別にいいけど……

雪子:拗ねないの! 実はね。私、紫苑と話したことあるんだ!

紫:えっ!?

雪子:そんなことより、予告予告!

紫&雪子:次回8/6更新予定『5th Stage そんなお題あり!? 波乱の体育祭!!』。お楽しみね!

紫:ねぇ、紫苑とどこであったのっ?

雪子:教えなーい!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ