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3rd Stage 鬼畜! 社長が課した条件!!


 次の日。

 雪子と一緒に登校し、教室前で別れた私は、一つのことに気が付いた。


(ひょっとしてこれから毎日、緋織あいつと顔を合わせるって言うこと!?)


 よく考えたら当たり前のことなのだけれど、昨日突然同級生になった緋織と、どうやってクラスメイトとなればよいかわからなかった。


 〝紫苑〞にとっては同じ《Vision》のメンバー。

 でも〝わたし〞にとってはただのクラスメイトなのだ。


 まず、距離感がわからない。

 昨日の女子生徒たちのように、私は別に緋織のファンではないし、もちろん《Vision》のファンでもない。


 あれこれ考えた結果。結局は他の男子と同じ、という位置付けと思う他なかった。


 なんやかんや緋織への接し方に落としどころを見つけた私だったが、HRで彼が仕事で終日不在にするということを知って、早速出鼻を挫かれた。


 HR後に来た他のクラスの女子の言葉から、どうやら他のメンバーたちも仕事が入っているようだった。


(はいはい。人気アイドルグループは辛いねー)


 こんな日が毎日続けば、顔を合わせずにすむのに、と思っていた数日後。




(いよいよ今日かー。朱里さんとのご飯……)


 スマホの電源を切る直前に、画面に表示されるスケジュール。


 ここ数日の朝の女子寮にある食堂の混み具合を把握して、私は少し早めに校舎へ登校した。

 けれど、教室への一番乗りが自分ではないことに気付く。


 ――緋織がいた。


 他に登校している生徒の姿はない。確かに、まだ八時前だから仕方ないのかも。


「あっ」


 今日は登校する予定なのだろう。制服を着て自席に座っている緋織は、教室に入った私と目が合うと立ち上がった。


「あのさっ、宮園さん」

「はっ、はい!」


 緋織の口から呼ばれなれていない自分の名字を聞いて、一瞬戸惑ってしまう。

 彼は少し間を置いて言葉を綴った。


「えっと、この前はごめんね。なんか俺、君に失礼なこと言っちゃったみたいで……」

「え?」


 何のことなのかと、ここ数日にあったことを思い出す。

 緋織との接点は、入学式初日以来、今日が初めてだ。


(あ……)


 すぐに、あれのことかと理解した。


「大丈夫だよ。花川くん」

「……え?」


 なぜか緋織が疑問符を投げた。

 私は言葉が足らなかったと思い、もう一度伝える。


「私の名字に関して言ってたことでしょう? 確かに、ちょっとビックリはしたけど、花川くんに名前を覚えてもらったって思うことにしたから、大丈夫だよ。でも、ありがとう。気にしてくれて」

「う、うん。そっか。ならよかった」


 私は自分の席に鞄を置く。

 よし、これで会話終了。後腐れないクラスメイトになれた。


 けれど、次に緋織がとんでもないことを口にした。


「でも、宮園さんは俺のこと、他のみんなみたいに〝緋織くん〞って呼ばないんだね。

 ……もしかして、あんまり俺たちのこと知らない?」

「えっ」


 ――しまった。


「ほら。俺のこと〝花川くん〞って言うの、宮園さんくらいかなって……」


 ――だって!


「でも、これから宮園さんみたいな人にも《Vision(俺たち)》のこと知ってもらえるように、俺頑張るね!」


 そう言うと、緋織は私に手を差し出した。


「これからよろしくね、宮園さん」


 自分のことはみんなと同じように呼んで、という彼の言葉よりも、私は違う言葉を思い出していた。

 耳の奥で、いつかの時の彼の声が聞こえる。


『これからよろしくな! 紫苑』


「……うん。こちらこそよろしくね。〝緋織くん〞」


 私は、その手を握ることしか出来なかった。




 朱里さんから指定された場所は、都内某所の創作イタリアンのお店だった。

 駅から数分の距離にある、比較的住宅街近くに佇む隠れ家的な外観は、一見して芸能人も御用達という風には想像がつかなかった。


 店内に入って、出迎えた店員に待ち合わせであることを告げる。

 通された個室には、既に先客がいた。


「遅くなりました」

「おはよう。〝紫苑〞」


 テーブルを挟んで椅子に座るのは、宮園プロダクション社長、宮園みやぞの朱里あかり

 朱里さんはワインレッドのテーラードジャケットとそのセットアップに、黒のハイネックのブラウス姿だった。

 ウルフショートの髪型も相まって、一見すると男性的である。


 そしてその敏腕振りは、捺花さんよりも凄い。

 二十代でプロダクションを立ち上げ、その人脈で数々のモデルやアイドルを育成。

 今では自社ブランドを立ち上げるまでに会社を大きく成長させている。


 そして《Vision》の産みの親でもあった。


「おはようございます。でも社長、今の私は紫です」

「そう言うあなたもよ。社長じゃなくて、()()()()

「……すみません。朱里さん」


 「そっちが先に仕事モードで話してきたんでしょう!」と口から出そうになったけれど、ぐっと喉の下に留めた。ここは我慢だ、我慢。


「どう? 学園の方は? 楽しい?」


 人足先に飲み物を注文していたらしく、朱里さんはグラスの赤ワインを口に含んだ。

 私も烏龍茶を注文して席に着く。


「楽しいですよ。友達も出来ましたし。でも、彼らが来なければ、もっと楽しかったです」


 少し嫌みを含ませると、朱里さんはなぜか笑った。


「あらあら。あの子たちにとってもいい経験になるかと思って、あの企画を通したのに」

「そもそも、何も私が選んだ学園にすることないじゃないですか……」

「あら? 言ってなかった? 神原学園の理事は私とアカデミー時代の同期なのよ」


 ――は?


「だから驚いたのよ。紫が持ってきたパンフレットがあの学園のもので」


 朱里さんは大手芸能人やアイドルが数多く在籍、卒業している夢咲アカデミーの出身だった。


(その時の同期って……っ)


 私は朱里さんにどう言うことかと抗議しようとした。

 だって、あれは捺花さんが参考にって持ってきてくれた中のひとつで――


「あ……っ」


 繋がった。

 捺花さんがなんで、ああも私に優しいのか。

 あくまでファンとしてではなく、マネージャーとしてだ。


(謀られた!)


「紫。もう、そんな目で人を見ないの。顔にすぐ出る癖、すみれとそっくりなんだから」

「……だって親子ですもん」


 むくれている私の前に、飲み物と料理が運ばれる。


「とりあえず、乾杯しましょう」


 朱里さんがそう言って、私たちの食事が始まった。


「ここの料理長ね、あなたの両親が初デートで使ったレストランで働いていたのよ」

「そう、なんですか……」


 私の母である瀧元たきもとすみれは、元トップモデルだった。

 そして仕事先で朱里さんの弟であり、同じモデルをしていた私の父、宮園みやぞの朱鷺花ときかと出会い、結婚。


 二人の結婚は芸能界を引退してからだったこともあり、そこまで大々的に世間に公表されることはなかった。

 けれど私が五歳の時。


 不慮の事故で二人ともこの世を去った。


 それ以来私は、伯母の朱里さんに引き取られ、面倒を観てもらっている。

 だから、私は朱里さんに恩義がある。


 それでも。


「――私、《Vision》には戻りませんから」

「……」


 私たちの間に、沈黙が流れる。


「――わかってるわよ。紫」


 先に折れたのは朱里さんだった。


「でも、ひとつ条件を出させてもらうわ」

「条件?」


 なんだろう。テストで上位十番以内を取れってことなら、勉強を頑張るしかないんだけど。


「〝学園在籍期間中、他の《Vision》メンバーや学園の生徒に正体がバレないこと〞」

「――はいっ!?」


 ちょうどメイン料理が来たタイミングだった。

 今一朱里さんの言ったことを飲み込めなかった私は、脳内で反芻してやっと我に返る。


「ちょっ、朱里さん! 何言ってるんですか!?」

「だって、まだバレていないんでしょう? 気付かれずに卒業式まで迎えれば、前にあなたが言っていたように芸能界こっちに戻らずに好きになさい」


 だけど、と朱里さんは続ける。


「だけど、一人でも〝あなた()紫苑〞だとバレたら、その時点でまた〝紫苑〞として戻ってもらうわ」

「えっ!? でも……っ」


 そういう問題じゃない。バレたら、はい終わり、じゃない。

 寮の中まで《Vision》で染まっているあの学園でその条件は、どう考えたって危険すぎる。

 それに――


「それに万が一、私が〝紫苑〞だってバレたら、困るのは朱里さんでしょう!?」


 もし〝紫苑〞の正体が女子だと世間に知られでもしたら、それまで積み上げた《Vision》の評判は間違いなく落ちる。

 それは所属プロダクションにとって大打撃に違いない。


 それなのに、どうして朱里さんはそんな条件を――


「それで《Vision》の人気が落ちるなら、〝所詮《Visionあなたたち》にはそこまでの人気しかなかった〞ってことよ」

「っ!!?」


 朱里さんの言葉に、私の中で何かの鎖が外れた音がした。


 ――ドウシテ、ソンナコトガ、イエルノ?


 確かに。私にとって《Vision》は〝わたし〞を出せない枷だった。


 でも。

 でも〝紫苑かれ〞にとっては違う。


 〝紫苑かれ〞は《Vision》に関わる人たちみんなで創った人。

 ファンを楽しませるために、創った人。


 頭の中での声が聞こえた気がした。


『これから宮園さんみたいな人にも《Vision(俺たち)》のこと知ってもらえるように、俺頑張るね!』


『これからよろしくな! 紫苑』


「…………」


 心に生まれた言葉を、私はそのまま朱里さんに告げる。


「――せん」

「なぁに?」


 聞き返す朱里さんに、私はもう一度、今度は自分自身に誓いながら口に出した。 


「そんなこと、絶対にさせません!」


翡翠(以下、翠):初めまして。《Vision》の翡翠みどりです。

藍藍(以下、藍):同じく《Vision》の藍藍らんらんでーす。

翠:前から気になっていたんだが、藍はダブルなんだよな?

藍:うん。父親が香港人で母親が日本人。今は二人ともいないんだよね。

翠:……それは、込み入ったことを聞いたな。すまない。

藍:え? ぜんぜん混んでないよ? 香港とは国際電話だからね!

翠:いないって、日本にって、意味だったのか……

藍:え? 俺、また日本語間違った?

翠:正確には主語と述語な。

  次回8/5更新予定『4th Stage 早速ピンチ!? あざかわ弟キャラ登場!!』

藍:お楽しみにねー!

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