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2nd Stage 祝! 高校生活で初めての友達!!


 神原学園は、全寮制。

 勿論男子寮と女子寮は別で、高等部の校舎を間に挟む位置関係にあった。


(……よしっ。教室ではともかく、ここでなら平穏を得られる!!)


 そう安堵した私を待ち受けていたのは、新たなる試練だった。


「あなたの《Vision》の推し色は!?」

「――はっ、はい?」


 女子寮のエントランスに着いて早々私に息巻くように訊いてきたのは、高等部女子寮寮長と名乗る若崎(わかさき)双葉(ふたば)という女子だった。

 推し色というのは、《Vision》メンバーに当てられた色のことだろう。


 赤は緋織(ひおり)

 橙は橙羽(とうわ)

 黄は黄架(おうか)

 緑は翡翠(みどり)

 青は青史郎(せいしろう)

 藍は藍藍(らんらん)

 紫は紫苑(しおん)


「……なぜ《Vision》の推し色を訊くんですか?」


 相手は同学年のはずなのに、その迫力に押されて敬語を使ってしまう。

 若崎さんはその趣旨を話してくれた。


「元々、この学園の寮では〈虹色活動〉っていう寮内対抗戦をやっていたの。寮の中で七つのチームに別れて、それぞれ美化活動や地域活動をポイント制にしてその合計点を競う、まあ言うなれば寮別全学年合同活動みたいなものね」


 集計は四月から十二月の九ヶ月。

 得点の他に減点もあるそうで、その期間で一番獲得ポイントが高かったチーム全員に、お年玉も兼ねて優勝商品である学園の食堂の食券一ヶ月分が送られるそうだ。


(なんと現金な制度!)


「ほんとは、好きな色で決めてもらってもいいんだけど……でも、最近の女子はやっぱり《Vision》の推し色で聞いた方が、話盛り上がるかなって」


 実際に、ここ数年の女子寮内はそれで盛り上がっているらしい。

 確かに。推し色のチームに入ったら「是が非でも優勝させたい!」と思うファン心……なのかもしれない。


「……なるほど。それで、参考までにお聞きしますが、若崎さんはどのチームなんですか?」

「私は勿論〝赤〞の緋織くんよ」


 はい若崎先生。勿論の意味がわかりません!


 聞けば、優勝した色チームの中の獲得点の高い二年生の一名が次の寮長に選ばれるらしい。


(……ということは、去年の女子寮は〝赤〞が優勝したのね)


 今年の女子寮の人数は一年から三年までで総勢二六〇名。

 今現在のチーム配分は赤四十五名、橙三十七名、黄三十六名、緑三十六名、青四十名、藍三十五名、紫三十名。計二五九名。


 そして残るの一人は私だそう。

 それで若崎さんは私を待っていたのね。


(……予想はしてたけど)


 これは世の中の《Vision》ファンの意思が反映されているのではないかと思うほど、縮図化された人気投票だった。


「去年までは紫苑好きな先輩も多かったんだけど……」


 なぜか紫苑派のフォローに入る若崎さん。


「あなた、紫苑推しでしょ?」

「えっ!? なんで……っ」


 ――推しもなにも、本人ですが。


「だって、紫チームの人数聞いたとき、少し寂しそうにしてたから……」


 ――ぐっ。


「紫苑の活動休止は私も残念だったわ……」


 ――ぐふっ。


「メンバー全員同い年でしょう? その中で何かと影でチームの面倒を見ていたっていうか」


 ――ぐふぉ。


「でも、そんな紫苑のフォローにさりげなくというか気付きそうで気付かないあの天然パワーの緋織くんがもう何てったって可愛いのよねっ」


 若崎さんのボルテージが緋織に向いたことで、心に突き刺さった言葉という名の刃が幾らか和らいだ。

 なんとか生き永らえた私は、深呼吸をして意識を保ち、そして心を決める。


「あのっ」

「なに? 宮園さん」


 私は所属のチームを若崎さんへ告げた。




「古上さん。今いいかしら?」

「はーい。どうぞー」


 若崎さんに案内されて着いた部屋には、既に一人の女生徒がいた。

 ノックの後の返事で若崎さんが扉を開けると、そこには勉強机に向かっていたと思われる少女が、椅子から立ち上がったところだった。


 若崎さんが彼女を紹介してくれる。


「宮園さん。こちら、同室の古上(こがみ)雪子(ゆきこ)さんよ。古上さん、こちら今日からこの寮に住む宮園紫さん。彼女の荷物は届いているわよね?」

「うん」

「それじゃあ、あとは同室のあなたから教えて貰ってもいいかしら? 私、これから別の用事があって」

「いいよー」


 それじゃあ、と言って部屋から去っていく若崎さん。

 女子二人だけの空間に少し緊張しながら、私は彼女――古上さんに挨拶をした。


「はっ、はじめまして、宮園紫です。よろしくお願いします」

「同い年なんだから敬語はいいよ。私は古上雪子。よろしくね、宮園さん」


 古上さんは、一見してギャル寄りの見た目だった。

 肩まである明るめの茶髪は巻かれ、オフショルダーの私服も相まって、いかにも女子高校生だとわかる。


(でも……)


「今、名前とは正反対な見た目だって思ったでしょ?」

「えっ、そんなことっ!」


 まただ! 若崎さんに続いて本日二人目のエスパー!


「やっぱ、思ったことは素直に顔に出ちゃうタイプなんだね。ゆっかって」

「ゆ、〝ゆっか〞?」


 笑いながら呼ばれたことのないあだ名で呼ばれる。

 面食らっている私をよそに、古上さんは私の制服の腕章を指差した。


 それは先ほど所属チームを決めた際に若崎さんから貰ったもので、生地は紺のブレザーよりも明るめの水色。

 その縁の両側には紫のラインが施されている。


「まあ、同じ推し色同士、仲良くしよっ」


 そう言って古上さんは、部屋の端にあるクローゼットに掛けられた自分の制服を指差す。

 その制服には私と同じ紫色の腕章が付けられていた。


「あなたは紫苑推しなの?」


 私は道中、若崎さんが部屋割りはチーム混合と言っていたのを思い出した。

 けれどまさか、寮内で一番人数が少ないはずの同チームメンバーと同室になれるとは。


「ちょとー。〝あなたは〞じゃなくて〝あなたも〞の間違いでしょ?」

「あっ」


 てっきり紫苑推しの人とこんなに早く会えると思っていなかった私は、選ぶ言葉を間違えても嬉しくなっていた。


「私のことは雪子でいいよ。私もゆっかって呼ぶし――って、この呼び方、あんまり気に入らなかった?」

「ううん。よろしくね、雪子」


 こうして私に、高校生活で始めての女友達が出来たのであった。




「――これで、大体の寮の説明は終わったかな」

「ありがとう」


 私服の左腕に自分の腕章をつけて、雪子は寮内を案内してくれた。

 寮内では私服で過ごしても良い代わりに、腕章をつけることが義務付けられているらしい。


 学年の判断は、腕章の生地に持ち回りで使われている色でするそうだ。

 一年はブレザーと同じ紺色。二年は少し明るい瑠璃色。


「まあ、過ごすうちにわからないことがあったら何でも訊いて」


 昼ごはんがてら休憩することになり、寮の一階にある食堂で雪子と一緒に料理の注文を済ませた。

 私はサンドイッチセット、雪子はカレーライスセットをそれぞれお盆に乗せて席に着く。


「ゆっか、それくらいでほんとに足りる? もしかしてダイエット中とか?」

「ううん。元々少食なの」


 ダイエットというわけではないけれど、元々私は食べたら食べた分だけ肉がつくタイプらしく、食事は毎食トレーナーの管理がついていた。

 そのせいなのか、いつの間にかあまり食べなくてもいい体質になっていた。

 あ、でも、もう食事制限する必要はないのか。


 食後のお茶を二人揃ってすする。

 時刻はなんやかんやあって十四時半。おお女子会っぽい。


「へぇ、雪子は初等部からこの学園にいるんだね。寮生活は長いの?」

「そ。でも私は中等部までは実家暮らしで、高等部から寮生活。全寮制なのは高等部からだしね」


 今もそうだけれど案内の終始、雪子はずっと笑顔だった。

 彼女にとっても、同じ推し色の仲間が出来て嬉しかったらしい。


「でも、三年生になってからの転校って、キツくなかった?」

「……うん。でも前の所は、色々あって……」


 言葉を濁して終わらせる。

 これ以上話したらボロが出るかもしれない。


 前までいた高校は、《Vision》の活動でほぼ出席していなかった。

 でも本名の〝宮園紫〞として在籍していたから、クラスでは持病でいつも休みがちな女子という印象になっていた。


 そのせいで出席することが出来ても、教室の空気感は超アウェイ。

 加えて私は病気でもなんでもないから、普通に血色よく通ってきた私には「ずる休みしているのでは?」という疑惑が向けらるのにはそう時間もかからなかった。


(……まあ、特定の子と仲良くもしてなかったから、そうなるよね)


 事務所の都合上、〝紫苑〞の正体が露見することは最大のスキャンダルになる。

 そのため私の交遊関係は徹底的に制限され、学校の登下校でさえ伯母である社長のもと車で送り迎えがされてた。


「そうなんだー。まあ、人生色々あるよねー」


 私の言葉をさりとて気にしていないと言わんばかりに、雪子はお茶をすする。


「そういえば、ゆっかのクラスは一組だっけ? 緋織がいるところ?」

「う、うん。そうだよ」

「いいなー。私は七組だから、誰も来てないんだよー」


 その時、私の持っていたスマホが鳴った。

 ディスプレイには、知っている名前が表示される。


「ごめん。さっき教えてくれた通話ルームに行ってくるね」

「あいよー。そしたら先、部屋に戻ってるね」

「うん。わかった。案内してくれてありがとう!」


 食器を片付けて、私は先ほど雪子に教えてもらった通話ルームへ向かう。


 食堂を出てエントランスの右階段の前。

 完全防音設備が施された電話ボックスは六個あって、公衆電話が置かれているボックスと携帯専用のボックスがあった。

 今は誰も利用者はいないようで、私は携帯専用ボックスの一つに入る。


 プライバシー防止のための磨りガラスの扉を開け、急いでスマホのロックを解除して耳元に当てた。


「もしもし」

『――もしもし? 紫ちゃん? さっきは大丈夫だった?』


 電話口はディスプレイの表示通りの人物だった。


「はい。何とか……すみません。捺花さん」

『いいのよ。あなたたち()()をしっかりサポートするのが、マネージャーである私の仕事なんだから』


 早川捺花さん。

 元『宮園プロダクション』社長秘書であり、現在は《Vision》全員を支える敏腕マネージャー。

 私にこの学園のパンフレットを見せてくれたのも彼女だった。


「捺花さん。もう仕事の方はいいんですか?」

『ええ。さっきメンバーの入寮手続きを終わらせて、今社に戻ってるところよ』


 どうやら、今運転中らしい。

 そして『さっきのクラスでの出来事が気になっちゃって』と告げる捺花さん。


(こんなちょっとのことでもフォローしてくれるマネージャーさん、そうそういないよ……)


 私が〝紫苑〞だとバレずにやってこれたのは、ひとえにすべてこの人のおかげだと断言できる。


「お手数お掛けします。 でも、私……」

『わかってるわ。社長には来年の三月までって伝えているんでしょう? あなたはその間に、しっかり答えを見つければいいのよ』

「捺花さん……」


 そしてこの神対応。もう、ほんとにあなたは女神様ですか。


『……でもまあ、ファン一号としては、また〝紫苑〞の活躍をみたいって思ってはいるんだけどね』

「あはは……」


 世間話をいくつかした後、捺花さんが切り出した。


『そうそう。実はさっき社長から連絡があって、週末紫ちゃんに会えないかって仰ってて』

「朱里さんが?」

『ほら、《Vision》の入学の話、してなかったみたいだから』

「事後報告されても……」


 ほんとにあれは驚いた。


『まあまあ……そうしたらあとで場所と詳細送るから』

「ありがとうございます。お願いします」


 『外出許可もこちらで出しておくわね』と言って、捺花さんは電話を切った。

 ここまで出来る女なのにいまだに彼氏が出来ないと嘆くのは、もしや《Vision(私たち)》のマネージャーをしているせいなのでは? とさえ思えてくる。


「朱里さんと食事か……」


 通話の切れたスマホの画面からスケジュール帳を起動させ、週末の項目に【食事@朱里さん】とタグを作る。


 ――何も起こらない気がしない。


橙羽(以下、橙):やっほ~。《Vision》の弟代表、橙羽だよ。

黄架(以下、黄):どうも。橙羽とは双子で本当の弟、黄架です。

橙:今日は僕たちで次回予告をしていくよ~。

黄:次回は社長が出てくるみたいだね。そういえば、前に雑誌の取材で橙羽は、〝社長みたいなバリバリ仕事が出来る女性〞がタイプだって言っていたよね。実際のところどうなの?

橙:うーん。養ってくれる人なら、年上でも年下でもいいかな?

黄:あれ、橙羽?(台本と違うこと言ってる!?)

橙:あ。でも、やっぱり出るとこ出てて欲しいよね。男の子としては。

  黄架もそう思うよね? だって僕たち双子だもーん♪

黄:こっちに飛び火させないでよ! もう僕が予告やっちゃうよ!

  次回8/4更新予定『3rd Stage 鬼畜! 社長が課した条件!!』

橙:お楽しみにね~♪


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