19th Stage 出会ってた!? いつかのクリスマスイブ!!
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急いで電話ブースに入って電話に出ると、数ヵ月ぶりの声が電話口から聞こえてきた。
「もしもし?」
『ボンジュール。ユカリ!』
ディスプレイの表示通り、電話口にいたのはジュリエットだった。
「ジュリエット! どうしたの?」
ローズモンドに提出するデザイン画の関係で、ジュリエットとは毎週メールでのやり取りをしていたものの、電話が来ることなんて今までになかった。
「――もしかして、デザイン画、再提出?」
『誰もそんなこと言ってないでしょう? ローズはいつも通り、何も言わずにあなたのデザインを受け取っているわよ』
私は胸を撫で下ろす。
「そ、そう……なら、今日はどうしたの? 急に電話かけてくるなんて」
『実は、これから日本に向かうことになったの』
「へえ、これから……大変だ――って、今から!?」
年末のこの時期に?
私が驚く一方で、ジュリエットは電話口の先で飛行機の到着予定時間を告げる。
『ええ。明日の朝にはそっちに着く予定よ。アカリには話してあるから、晩御飯は一緒に食べましょう』
待ち合わせ場所は追って連絡すると言われ、加えてもうそろそろ搭乗時間だからと電話を切られた。
「……」
ツーツーという不通音が、手にしたスマートフォンから流れてくる。
まったく。行動力があるというのも考えものなのかもしれない。
私が食堂へ戻ると、ちょうど雪子が珠代さんから〝決済完了〞の札を挙げられているところだった。
「――やるべきことがあなたの中で決まっているのであれば、何も言うことはありません。次の方――」
珠代さんからの評価も終わりの方だったらしく、台から降りた雪子と目が合った。
〝心残り〞を言ってスッキリしたのか、雪子は満面の笑みを私に向ける。
結局、〈紫〉チームの最終得点は一二六七ポイントで、第三位に終わった。
それでも、全力で挑んだこの活動には、後悔を感じなかった。
(体育祭では大変だったけど……)
思い出される体育祭。
あの時は、緋織を巻き込んで大変だった。
「あ。そういえば。雪子は、さっき何のお題引いたの?」
「んー? 内緒」
自室へと戻る階段を登りながら私が雪子に訊ねると、彼女はただ微笑んでいるだけで、どんなに聞いても教えてはくれなかった。
けれど、部屋に戻った時、不意に雪子から声を掛けられる。
「ねえ、ゆっか。明日って、空いてたりする?」
「明日って、終業式のあとのこと?」
雪子が首を縦に振る。
私は先ほどのジュリエットからの電話を思い出し、「夕方までなら」と返事をした。
「私、年末はいつもお母さんの実家がある福岡で過ごすんだけど、よかったら、その前の時間でいいから、付き合ってくれない?」
そして、当日。渋谷駅。
有名なハチ公像の前の電車のモニュメント前に立っていると、雪子が現れた。
「ゆっか、ごめん! 待った? 寒かったでしょ?」
「ううん。私もさっき来たところだから」
終業式が午前中で終わったため、私たちは一時帰宅することにして、渋谷駅で待ち合わせをしていた。
現在の時刻は十四時四十五分。待ち合わせにはあと十五分もあった。
「……やっぱり、変わんないよね、ゆっかは」
「なんのこと?」
息を整える雪子に、私は首を傾げる。
けれど雪子は私が想像していたこととは違う言葉を返してきた。
その表情に浮かんでいるのは、クイズを出すときのいつもの笑みだ。
「さあて、問題です。今日は私たちにとって一体なんの日でしょうか?」
「……クリスマスイブ?」
今日は十二月二十四日。
世間一般的にはその認識であることが多い、という意味でそう答えた。
「ぶっぶー。それは世間にとっての答えですー」
「じゃあ、答えはなに?」
私も、雪子の誕生日も今月ではないし、他に思い当たる節がない。
私が唸りながら考えていると、雪子がウインクをして私の手を引いた。
「今日は特別に、ゆっかにはあともう一回だけ解答権をあげましょう」
歩き出す彼女のその足取りは、目的地が明確であることを示すように、真っ直ぐ進んでいた。
〝一緒に付き合ってほしい場所があるんだよね〞。
雪子からそう言われて、私は今ここに来ていた。
「ねえ、どこに行くの? 買い物?」
美智子さんへのプレゼントを選ぶとか、要りようなものを買うためとか。
考えれば考えるほどたくさん浮かんで来たけれど、そのどれも雪子は「違う」と言うだけだった。
雪子が立ち止まったのは、渋谷のメインストリートから少し外れた、通りの一角。
メインのではないとはいえ、クリスマスイブを迎える通りには、人がちらほら行き交っていた。
「ここ――」
〝私〞はこの通りに見覚えがった。
ここは知る人ぞ知る、とある音楽スタジオに続く通りだった。
「まあ、ゆっかは、覚えてないかな?」
雪子は静かに口を開く。
「……四年前、ここでね。私、紫苑と会ったんだ」
雪子は振り向き、私に向き直る。
「……私のこと、覚えてない? 〝紫苑〞」
◆
四年前のクリスマスイブ。
当時中学三年生で、学園の後頭部に入学することが決まっていた雪子は、しばらく仕事で忙しいと言っていた姉の捺花と会う約束をしていた。
待ち合わせ場所へ向かう途中。
ちょうど電車からホームへ降りたところで、持っていたスマートフォンに捺花から着信が入った。
「えっ!? 来れないってどういうことなの、お姉ちゃん!」
けれど、電話口から聞こえきた姉からは、謝罪の言葉だった。
『ごめんね、雪子。それが〝今日やるオーディションの枠がひとつ空いたから、どうですか?〞って事務所の子にオファーが来て、その付き添いで急遽出ることになったのよ』
そのオファーが来た子とは、以前姉が事務所で全面的に売り出していると話していた〝紫苑〞という名前の少年だった。
「私と約束した方が先じゃん!!」
姉の優先順位を変えられることは出来ないとわかりつつも、雪子は抗議せずにはいられなかった。
『仕事だから……ごめんね』
埋め合わせはすると言って、捺花からの電話は切られた。
雪子はわかってはいた。
有名プロダクションの総合職へ入社した姉の捺花は、入社一年目で社長秘書という大役を任されているくらい優秀なのだ。事務所が期待して育てる若手アイドルの世話をすることも、仕事のうちに入っているのだろう。
仕事柄休みが取りづらいと言いつつも、姉が仕事人間で仕事が好きだということは、家族である雪子は十分に知っていた。
(だからって、二ヶ月前からしてた約束なのに……)
とは言え、内心に浮かぶ感情はどうしようもなかった。
せっかく渋谷へと来たのだから、一人で遊んでから帰ろう。
そう思って、改札を出た雪子は、予定していた半分の時間をなんとか一人で過ごした。
けれど。
今日の本来の目的は果たせなかった。
姉へのクリスマスプレゼント。
母と自分の三人お揃いのシュシュで、長い髪を纏める捺花を見たのがきっかけで「これだ」と思って買ったのだ。
けれど雪子は明日から母親の実家のある福岡へ行くことが決まっており、どうしても今日渡せなければ、次姉と会うのは新年になってしまう。そうなればせっかく用意したクリスマスプレゼントの意味がなさなくなってしまうのだった。
「…………」
前は月に一度は絶対に会って、ご飯を食べたりしていたのに。最近では仕事が忙しいからとリスケやキャンセルが多くなっていた。
(そんなことやってるから、いつまでも彼氏の一人や二人出来ないのよ……っ!)
プライベートより仕事を優先する。それがきっと姉にいつまでも恋人ができない原因に違いなかった。
そう考え事をしながら歩いていたのが悪かった。
大通りの中で人とぶつかったと思った時には、すべてが遅く。
前日に関東では珍しく降った雪が溶けた道路に、雪子は躓いて膝をついていた。
「大丈夫ですか?」
一人の少年の声が近寄ってきて、雪子に手を差し伸べる。
「はい。大丈夫、です。ありがとうございま――」
お礼をすべて言い終える前に、雪子は腕の中から消えたそれを探した。
「あっ!」
抱えていたはずのプレゼントの包装紙が、少し離れた道路にぽつんと落ちていた。誰かに踏まれた痕跡さえ見える。
それを拾ったのは、声をかけてくれた少年だった。
「もうじき信号が変わります……立てますか?」
雪子はその少年に案内されて、すぐ近くにあった公園のベンチに腰を掛けた。周辺には雪は積もっていたけれど、ベンチは少しひんやりとしていたくらいで、服がこれ以上濡れることはなかった。
怪我はしていなかったもののお気に入りの服を汚してしまった。けれどそれよりも、雪子には姉へのプレゼントが台無しになってしまったことの方がショックだった。
汚れてしまっていた。台無しだ。
「どなたかへのプレゼントだったんですか?」
少年への問いに、こくんと頷くのが精一杯だった。
「でも、中のプレゼント自体はビニールの包装がされていたみたいで、良かったですね」
中身を確かめるために開けたプレゼントは、辛うじて無事だった。
けれど雪子は、フォローしてくれている少年の言葉を素直に受け取ることが出来なかった。
「もういいんです。あげるはずだったお姉ちゃんとは、今日、もう会えないんで……」
泥だらけになった包装紙を握りしめて、雪子は呟く。
けれどそんな雪子に対して、隣に座っていた少年はベンチから立ち上がり、雪子へ告げた。
「ちょっと、ここで待っててもらってもいいですか?」
「……?」
しばらく言われた通りに待っていると、近くの大手百均チェーン店の袋を下げた彼が戻ってきた。
彼が袋から取り出したのは、クリスマスのツリーやソリに乗るサンタが描かれた包装紙とリボンや装飾シール。
「ほんとは、他の柄もあるにはあったんだけど……」
そう言いながら、雪子にシュシュを渡すよう手を出した。少年のやりたいことを理解した雪子は、その通りにする。
器用にシュシュをその包装紙に包んでいく少年は、最後にリボンやシールを貼って、それを雪子へと手渡した。
「君がその人に送ろうと思ったのは〝クリスマスプレゼント〞だって思って」
お店のラッピングよりは確かに安く仕上がってはいるものの、雪子には先ほどまでの状態より遥かに宝物のようにさえ思えた。
「……あの、何でここまでしてくれるんですか?」
恐る恐る少年へ訊ねる。
少年はさも当然であるかのように口を開いた。
「これは前哨戦だから」
「前哨戦?」
「僕はいつか、どんな人も幸せにするアイドルになるって決めたんだ。だから、困ってる人はまず助けなくちゃね」
「あなた、アイドル……だったの?」
首を傾げる雪子に、少年は少し恥ずかしげに告げる。
「まだデビューして数ヵ月の新人だけど」
その時、少年の服のポケットから、バイブレーションの音がした。
取り出されたのは淡いピンクのスマートフォン。
「あっ! もうそろそろいかないと!」
少年は立ち上がってどこかへ走って行ってしまった。
立ち去る間際、少年が声を張り上げて雪子に告げる。
「お姉さんに、そのプレゼントを渡せますように!」
◆
その日の夜。雪子は姉の捺花の住む最寄り駅でその帰りを待ち、無事にプレゼントを渡すことができたという。
そしてその時、姉の持っていた雑誌のひとつに、今日会ったあの少年が写っていたのに気が付き、その少年が姉の勤めるプロダクションの〝紫苑〞であると知ったのだそうだ。
「……あの時ね、お姉ちゃんへのプレゼントを渡そうって思えたのは、間違いなく〝紫苑〞のお陰だったの」
懐かしの公園のベンチで、私たちは二人腰を掛ける。
「それで、私は紫苑のファンになった。で、全人脈を使って、紫苑が所属してるっていう高校に行ったの」
「えっ!?」
紫苑ガチ推し行動派が、こんなに身近にいただなんて。
雪子は数年続いていたバドミントンを横にまで置いて、紫苑について調べたという。
そして調べた高校で、雪子はどこか見覚えのある女子生徒を見掛けたのだった。
加えてその手の中にあったスマートフォンが、あの時〝紫苑〞が持っていたものと同じだったことに気付いた雪子は、ひとつの仮説に辿り着いたのだ。
〝紫苑〞は女性ではないのか、と。
「でも、〝紫苑〞が《Vision》からいなくなって、〝何で? どうして?〞って考えたの。女の子でも、あんな素敵な夢を持ってたから、簡単に辞めるだなんて思っても見なかったから。でも、ゆっかと会って、ゆっかが何か大事なことをしようとしてるんだってわかった時、すとんって、全部納得したの。どんなことでも全力だった〝紫苑〞だからどっちもは選べなかったんだって」
「……雪子」
私も、雪子にすべてを話した。
〝紫苑〞が生まれた理由。〝紫苑〞の存在理由。
そして、私がこの学園にいる目的を。
「……そっか。夢が叶って、よかったね」
微笑む雪子に、私は首を振った。
「ダメだな……雪子で二人目だ……。私、全然約束守れてない……」
本当だったら、スキャンダルになりかねないことなのに。
雪子はいつも通りだった。
「何を言っているのよ? ゆっかが伯母さんと約束したのは〝学園在学期間中に正体がバレたら〞でしょう?
私は最初から気付いていたよ、ゆっか」
「雪子……」
「でもまあ、これで、私の〝心残り〞は決済完了したかな」
雪子はそう言って、私に一枚の紙切れを手渡した。
「これ……」
似たようなものを、私も昨日引いたのだ。忘れるわけがない。
〝あなたが友達に黙っていることと、その理由は?〞
「あの時、私は、あなたに勇気を貰ったんだよ。だから、今度は私の番。困ってることがあったら、私に言ってね。ゆっか」
「……ありがとう。雪子」
そして雪子は、本日二度目のあの笑みを浮かべた。
「さあて、ここで再び問題です。今日は私たちにとって一体なんの日でしょうか?」
「……私たちが、はじめて出会った日」
「大正解っ」
二人分の笑い声が、夕方の公園に溶けていく。
雪子:ね。ゆっか。思い出してくれた?
紫:……うん。雪子は、私のこと、ずっと応援してくれていたんだね。ありがとう。
雪子:もう、今さら何言うのよ! 私たち、親友でしょう? 当たり前なんだから。
困ったらいつでも私を頼ってね。
紫:うんっ。雪子もだからね。
次回8/26更新予定『20th Stage 明けました! 今年の抱負は〝身バレ〞しない!!』
お楽しみにね!
雪子:ああ! でもやっぱり一言言わせて!
紫:え、何? どうぞ……?
雪子:紫苑大好き! 結婚してー!
紫:雪子!?
雪子:私は〝紫苑〞が好きなの!! 〝紫苑〞と結婚できるなら、私も男装する!
紫:言っている意味がわからなくなってないかな!? 雪子!?




