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18/25

18th Stage やってきました! 年末の虹色活動一斉決済!!

いつもご覧いただきありがとうございます!

 

 ◆


 宮園プロダクションの一角にある会議室には、三人掛けの長机が四方にロの字型で配置されていた。


 マネージャーの早川捺花より〝大事な話がある〞と言われて宮園プロの本社へ来た緋織たち五人が入室すると、既に室内にいた先客と視線が合う。


「……青史郎」


 緋織は相手の名前を呟くと、後ろにいた他のメンバーも身を乗り出してその姿を確認した。


「青ちゃん!」

「青史郎くん!」

「青史郎」

「……」


 他のメンバーも一斉に彼の名前を口にする。

 青史郎は窓側の席に座っていたようで、緋織たちの入室と同時に席を立ったようだった。


 緋織たちに向けられるその視線は、いくつもの感情が込められているように感じる。

 その一因に、つい先日世間を賑わせた〝脱退〞報道があることは明白だった。


 既に事務所からは〝青史郎の脱退の事実は無根〞であることが発表されている。


 今月に入ってから先行発売が開始された単独のライブチケットは既に完売。

 一部の雑誌では〝脱退〞報道事態が販売促進のため話題作りだったのではと揶揄されていた。


 けれどあの件に関しては、緋織たちメンバーにとっても寝耳に水の報道だった。


 はじめは緋織たちも〝家庭の事情〞という理由で青史郎が自宅から学園へ登校すると聞いていたものの、〝脱退〞の報道がされた翌日には本社へと集められた。そこで朱里の口からは言葉こそ出なかったものの、〝脱退〞をほのめかす雰囲気が漂っていたのを覚えている。


 やがて、会議室に社長の宮園朱里が扉を開けて入ってきた。


 つい癖で、その場の全員は姿勢を正し、朱里が上座に着席するのを待つ。


「では、始めましょうか?」


 着席して一呼吸置いた朱里が、視線で会話の主導権を譲った相手。それは――


「この度は、皆様にはご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした」


 青史郎だった。

 立ったままその場にいる全員へ謝罪し、深々と最敬礼をする。


「青史郎……」


 緋織は、以前クラスメイトとこっそり縁日で出掛けた際に起こった騒動で、青史郎からもたらされた言葉を思い出していた。

 あの時の青史郎の眼差しは本気だった。


 真剣に《Vision》のことを案じ、そして守ろうとしていたのだ。


 けれどそれから約三ヶ月後。今度は青史郎の脱退騒動が起こった。


 緋織が考えていたことを朱里が口にする。


「その心境の変化の理由を、聞いてもいいかしら?」


 紫苑に続くメンバーの脱退騒動。

 それは少なからずプロダクションへ影響を及ぼしており、社長を始め社員全員がその事態終息へ向けて一丸となって動いていた。


 だからこそ世間からの反応は落ち着いたとはいえ、所属するアイドルの一連の騒動に、社長である朱里が黙っているわけがなかった。


 青史郎は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「……はい。自分がどうして《Vision》に入ったのか、そして今後、どうなっていきたいのか、考えました。


 始め俺は、静に……妹に笑顔を与える存在になりたいと思って、この業界に入りました。病気で辛いはずのあいつの心を支える、ひとつの柱になりたかったんです。


 でも、色んなことが重なって……《Vision》の青史郎をしている意味がわからなくなりました。自分は、誰にも何も与えられていないのではないか、そう思っていました。


 けれど気付いたんです。これまで〝《Vision》の青史郎〞として活動する中で、多くの人や出来事と関わって、俺自身が多くの人に支えられていたことに……俺は与える前に与えられていた。


 俺が〝《Vision》の青史郎〞であろうとする前に、たくさんの人が俺を〝《Vision》の青史郎〞として扱ってくれたんです。


 俺は、みんなが俺に向けてくれたすべての〝想い(夢)〞を実現させたい。それが〝与える〞ことに繋がると思うから。

 ――だから、もう一度、俺に《Vision》として活動させてくださいっ!」


 青史郎の言葉を聞いて、緋織はどこかで既視感があった。

 もうずっと前の話だ。


 いつのことか緋織が思い出す前に、朱里が口を開いた。


「……そう。あなたの考えはわかったわ」


 その後、朱里の口から、青史郎の今後一ヶ月間は仕事以外での不用意な外出は控えるようにとの謹慎処分が下された。

 実質的にはお咎めなしともとることができるが、それでも青史郎には何かしらの処分を与える必要があった上の判断だった。


「一時はどうなるかと心配したよ~」


 会議室を出て開口一番に、橙羽がそう言う。

 その後ろを行く黄架も首を縦に振って頷いていた。


「……迷惑をかけてすまない……」


 まだ若干の遠慮はあるものの、青史郎はいつも通りに見受けられた。


「なあ、青史郎……」


 緋織は口にしてから、言いたいことが自分の中で纏まっていないことに気付く。

 案の定、振り向いた青史郎に対して、緋織は掛ける言葉を失っていた。


「……?」

「い、いや……やっぱ、何でもない……」


 なぜだろう。どうしても確認しなければならないことがあるのだと、そう思っていたはずなのに。


 ◆


「よーしっ! これで大体の大掃除は終わったぁ!」


 雪子が雑巾をバケツに入れながら伸びをした。私もつられて箒を持ちながら伸びする。


 季節はあっという間に十二月も中旬。換気のために開けているとはいえ、窓からは冬の冷たい風が入ってきていた。


 寮も今週いっぱいまで。来週からは冬休みへと突入する。

 その前に、日頃世話になっている寮の大掃除をするのは、この学園での恒例行事となっていた。


 雪子と共に寮の食堂へと入ると、テレビが置いてある壁とは反対側に、その模造紙が貼られていた。


 その紙には聞いた覚えのない言葉が書かれていた。


 その名も、〝心残り一斉決済〞。


 私が首を傾げていると、雪子が説明をしてくれた。

 本年度最後の神原学園名物の虹色活動――〝心残り一斉決済〞のことを。


 〝心残り一斉決済〞とは。

 まず参加者を任意で募り、参加者全員がお題を引く。

 そしてお題に書かれている〝心残り〞の内容に関して、みんなの前で発表する……という企画イベントらしい。


 各お題に対する審査は、寮母の珠代たまよさんが務め、発表者の〝心残り〞に〝決済完了〞の札を挙げればプラス三十ポイント、〝決済持越〞の札ならプラス十ポイント、そして〝未決済〞の札ならばゼロポイント、といった具合に採点するのだそう。


 もとは心残りを無くした状態で新年を迎えようという仲間内だけでの試みだったはずが、いつのまにか寮全体に浸透し、最終的には虹色活動にまで加えられてしまったという色物な企画イベントだった。


 そのため参加は任意制。獲得ポイントも多い代わりに、引いたからには寮生全員の前で発表しなければならない。

 少々のエンターテイメント性が感じられるのは、発案当初は少人数で行っていたことの名残らしかった。


 珠代さんは、いつも美味しい寮のご飯を考えてくれたり、女子ならではの不安や悩みを聞いてくれたりしていた。親や保護者の許から離れている私たちにとっては、第二のお母さん、と言う存在だった。


 そのせいか、任意とはいえ毎年一定数は参加するのだと、雪子が教えてくれた。


 そして大事な、現状の順位はというと――


 第一位〈赤〉チーム、一二五六ポイント。

 第二位〈青〉チーム、一一七五ポイント。

 第三位〈黄〉チーム、一一二〇ポイント。

 第四位〈紫〉チーム、一一〇七ポイント。

 第五位〈橙〉チーム、一〇五六ポイント。

 第六位〈緑〉チーム、一〇二一ポイント。

 第七位〈藍〉チーム、九九八ポイント。


 食堂の模造紙に、大きく張り出されている順位表。

 結果は、なかなかの大差だった。


 ポイントの隣に書かれている内訳を見る限り、普段の美化活動での獲得ポイントの結果は、どこかのチームがずば抜けて良いというわけではなかった。

 大差を生んだのは、やはり学園行事での獲得ポイントの結果だ。


 先日の球技大会で準優勝で終わり、ポイントも大量獲得できたお陰で、私たちの〈紫〉チームは真ん中の第四位となっていた。



「まあ、〈紫〉チーム(うちら)にとっては、ボーナスポイントもらっても、ちょっと厳しいよね」

「そうかな? 五人が〝決済完了〞を貰えば追い付けるポイントだよ?」


 一位の〈赤〉チームとの差は一四九ポイント。

 女子寮の〈紫〉チームは全員で三十一人。全員が参加しないにしても、全員が〝決済完了〞か〝決済持越〞を出せば、越えられない壁ではない、と思うのだけれど。


「ゆっかって、ほんとに時々緋織みたいに超ポジティブになるよね。だって、みんなの前で発表するんだよ? 恥ずかしくない?」

「だっ、誰が――っ」


 いけない。全力で否定するところだった。

 私は話題をそらすために、毎年どんなお題が出てるのか雪子へ訊ねた。


 雪子から例年出されるお題を聞くと、確かに、知られたら恥ずかしい内容のものが多いような傾向にあった。


(〝クラスで気になる男子〞とか〝好きな人が所属している部活動〞とか……)


 もうこれでは女子会の内容と大差ない。……と言うか〝心残り〞関係なくない?


 それでも私は抱いてしまった計画をチーム全員と共有した。

 結果的に〈紫〉チームに所属する全三十一人のうち、私の呼び掛けに応じてくれたのは八人だった。


 そのほとんどが三年生。なかには、しぶしぶとはいえ、雪子の姿もある。


『〝心残り〞を無くして、気持ちよく新年を迎えよう』


 大きくは、そんな意味でみんなに声をかけた。




 やがて食堂で行われた〝心残り一斉決済〞。


「……え?」


 私がボックスから引いた紙に書いてあったのは、雪子から聞いていたお題とはだいぶ異なっていた。


 〝あなたが今、一番謝りたい相手とその理由は?〞。


 予想外の内容だった。

 このお題こそ〝心残り〞に相応しいとも言える内容ではあるのだけれど。


 参加者全員がお題を引いたところで、〝心残り一斉決済〞が始まった。

 お題に沿った〝心残り〞を思い付いた人から挙手し、珠代さんに当ててもらい食堂に特設された台に乗って発表する。


 一番始めに手を挙げたのは、寮長の若崎さんだった。


「どうぞ、双葉さん」


 珠代さんが指名する。

 若崎さんが台に乗って、自分の引いたお題の内容を開示しながら告げる。


「私の引いたお題は〝今年一番悔しかったことと、その理由は?〞です。

 悔しかったのは、ただひとつ……緋織くんと同じクラスになれなかったこと!! 理由は緋織くんが大好きだからです!!」


(ぶれないね、若崎さん……)


 内心、そんな回答あり? と思ったけれど、珠代さんは〝決済完了〞の札を挙げた。


「双葉さん、よい思いきりです。次はどなたですか?」


 フィールドバッグつきの採点。


 若崎さんが降壇する。

 次は誰か、という空気が参加者の間に流れた。


(私がやらなくちゃ!)


 私は手を挙げ、珠代さんと目が合う。


「はい。紫さん、どうぞ」


 私は台に登り、深呼吸をした。


「私が引いたお題は〝今、一番謝りたい相手とその理由は?〞です。

 私が今、一番謝りたい相手は……私の両親です。前に一度約束、というかお願いをされていたのですが、そのお願いを私は中途半端な形で破ってしまいました。自分で決めたことのはずなのに、曲げてしまいました……」


 尻すぼみな声になってしまった私の名前を珠代さんが呼んだ。その手には、〝決済持越〞の札が挙げられている。


「紫さん、自分の意見や意思が途中で変わることは、悪いことではありません。大事なことは、あなた自身が〝何を大事だと思って行動したか〞です。迷っているのなら、悩んでいるのなら、周りを頼ることも視野にいれてはいかがですか? とは言え、とても悩まれたのですね。

 それを来年は引きずらないように。……では、次の方は?」


 その言葉を聞いて、雪子の言っていた意味がわかった気がした。

 珠代さんは、みんなのお母さんのようだ。


 私が降壇した時、スマホのバイブが鳴った。

 その表示は、よく知る人物からだった。


藍藍:お帰り、青史郎。

青史郎:なんだ? 藍。いきなり……

 藍藍:言えない子に代わって言ってみたよ。

青史郎:? どういう意味だ?

 藍藍:あ! それより……

青史郎:まだ何かあるのか?

 藍藍:青史郎って、あれから〝紫苑〞にあった?

青史郎:!? (だが紫苑あいつ〝自分に会ったことは言わないでほしい〞って

    帰り際に言っていたしな……)いいや。

 藍藍:……そっか。次回8/25更新予定

    『19th Stage 出会ってた!? いつかのクリスマスイブ!!』

    そういえば、クリスマスは青史郎の誕生日だね。

    みんなでお祝いしようよ!

青史郎:話を脱線させるな! でもまあ、次回も楽しみにしていてほしい。

 藍藍:青史郎、もしかして照れてる? もっと笑顔スマイル笑顔スマイル

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