15th Stage ピンチ再び!? 双子の直感!!
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
ズレズレですが、当初の予定通りの日程で終わらせられるよう、善処します。
急いで電話ブースへ入ってスマホから電話を掛けると、二回目のコールで目的の相手である朱里さんが出た。
『もしもし? 紫?』
「朱里さん! どういうことですか!?」
まだ早朝という時間帯にありつつも、すでに朱里さんは外に出ているようだった。
そして私の言いたいことを察したのか、朱里さんはしばしの沈黙のあと「ああ」と思い至った声で言葉を漏らす。
『そう言えば、今日解禁だったわね。《Vision》のライブ告知』
「私、聞いていません!!」
通常、観客動員数が多い会場でライブやイベントを行う場合、会場の予約は遅くて一年、早くてそれ以上前から行われ、公演のスケジュールが組まれることが多い。
そしてライブ開催場所は都内の某有名会館だと、先ほど食堂でいち早く調べたらしい女子生徒の声がそう言っていたのが聞こえていた。
《Vision》の単独ライブが行われるのは、来年の三月三日。
対して今は九月も後半。
告知開始が半年前から行われることはあるにしても、当然、私がこの学園へ編入した四月の時点で、《Vision》のライブ開催は決定していたはずだった。
それらから導き出されること。
『――ええ。だって、あなたには教えていないもの』
朱里さんの淡々んとした口調が耳に、それよりも、心に響いた。
「どうしてですか!?」
『だって、それを伝えても、学園へ編入していたでしょう? あなた』
自分で言っていても、もっともだと思った。
この学園へ編入すると決めたのは去年の暮れ。
そして捺花さんに願書などの用意をしてもらい、朱里さんにアイドルを辞めると伝えたのが今年の一月。
二月に編入試験が行われたけれど、朱里さんの口からライブのラの字すら聞いていなかった。
とはいえ、アイドルを辞めたいと告げる中途半端な私に伝える気など、最初から朱里さんにはなかったのだろう。
『どう? 少しは〝紫苑〞に戻る気になった?』
電話口の朱里さんから、軽い口調で、それでいて重い言葉が投げかけられた。
「……いいえ」
私は、唇を噛み締めて言葉を紡ぐ。
これは、私が決めたことで、朱里さんとも賭けをしていることだった。
「……絶対に、バレずに卒業してみせます!」
私の言葉を受けて、朱里さんがどんな表情をしたのか、それまではわからなかった。
けれど。
『……そう。精々頑張りなさい。紫』
電話が切れる前に聞こえた言葉は、それまでのどんな言葉よりも重く私の耳に残った。
学園祭から数週間が過ぎ、来週には前期の期末試験が迫っていた。
しかしその前にある、学園行事。
「ボール上げてくれれば、あとは私が繋ぐから!」
女子バレー部に所属している向井さんが、円陣を組む中で声を張って告げる。
そう。球技大会だった。
種目は、バレーボール、サッカー、バスケットボール、卓球、ドッチボールの計五競技。
その中で私はバレーボールに参加することになり、その一試合目から汗を流すことになったのだった。
第一試合の相手は、体育祭でも大健闘を見せた二組。
「……さすが二組、強かったね」
惜しくも、三セット目を二対一で取られてしまい、初戦を黒星で終えてしまう。
「ドンマイドンマイ! 次の試合で取り返してこ!!」
向井さんが、私たち一組クラスの女子の健闘を称える。
前回の体育祭同様、体育会系の部活に所属する生徒が多い二組の活躍は相変わらずで、どの種目でも初戦を白星で飾っているようだった。
「それにしても、さっきの橙羽の応援はすごかったねー」
「それ、私も思ってた」
時折、体育祭での雪辱を果たすべく〝打倒五組!〞の文字が書かれたハチマキを頭に巻き、声援を送る橙羽の姿が目に映っていた。
先ほどグラウンドで試合を終えた一組の男子たちの話では、外で行われているサッカーの応援にも橙羽は行っていたようだ。
普段の〝あざかわ〞な弟キャラを演じる彼からは、想像できない熱血っぷり。
自身の身長が平均よりも少し低めなことを気にしている彼は、その分何かと上昇思考を持ち合わせていた。
「次のバスケコート、うちの男子と三組の男子だって」
次のバレーの試合が始まるまでの間、私は体育館の二分されたもう一方で行われる、一組の男子のバスケットボールの試合を応援するため、クラスの女子と移動する。
体育館の壁に張られた模造紙のトーナメント表に記されている一組男子のバスケの初戦対戦相手は三組の男子だった。
「あっ! 《Vision》対決じゃん!」
誰かの声で、私もその事実に気付く。
ビブスを着る緋織の前に立っていたのは、黄架だった。
普段、兄の橙羽のその強烈なキャラクターの影に隠れてしまっている、弟の黄架。
けれど、その運動能力は《Vision》の中では運動部に所属していた翡翠に次ぐ実力の持ち主だった。
試合が始まると、それを見ていた全員がその実力を感じたことだろう。
兄の橙羽とほとんど変わらない身長と体格ながらも、その機動性は橙羽よりも高く、かつ素早かった。
繰り出すフェイントの数々に、対峙する相手の一組男子はことごとく翻弄される。
それは、緋織も同様だった。
言うなれば、橙羽が計算で相手を翻弄するなら、黄架は感覚でそれをやってのけている。
(そこは双子らしく似てるんだよね……)
性格は違えど、本質的はところで二人は似ていた。
辛くも三組に勝利した一組男子は、その後に当たった二組に惨敗することになる。
球技大会も終盤を迎え、我が三年一組の成績は現在、
クラスで競うのはバレーボールから卓球までの四種目で、最後のドッチボールはこの学園の恒例でもあるあの活動のもとに行われることになっていた。
そう。虹色活動だ。
全七チームがトーナメント制で競うという、クラス対抗と寸分違わぬ競技内容。
そしてなんと優勝チームには、男女各寮チームに百ポイントが与えられるという椀飯振舞な展開だった。
シード権は一番人数が少ない私たち〈紫〉チームに与えられことになっていた。
初戦は、〈赤〉チーム対〈青〉チーム。
人数は、事前に選抜された三十名対三十名。
内野と外野に別れて、二十分にも渡る死闘を制したのは〈青〉チームだった。
続く二戦目は〈橙〉チーム対〈黄〉チーム。
なんと、ここでは実の兄弟対決が実現した。
勝利したのは弟の黄架率いる〈黄〉チーム。
内心では熱血漢である橙羽が、無念の雄叫びを上げたのは言うまでもない。
続く三戦目は〈緑〉チーム対〈藍〉チーム。
ここでは大番狂わせが起こり、《Vision》一運動神経が抜群の翡翠が早々に外野へと渡ったことで形成は逆転、結果は〈藍〉チームの勝利となった。
そして迎えた四戦目。
シード権を得た私たち〈紫〉チームは〈青〉チームと対戦することになった。
こちらは二十四名。対する向こうは選抜の三十名。
不利かと思われた我が〈紫〉チームだったけれど、同じクラスの梶田くんがよさこい仕込みの運動能力を発揮し、次々に内野手へボールを当てていった。
そしてなんと見事勝利を納め、決勝へと進出したのである。
決勝は〈黄〉チームとだった。
決戦が始まると、ボールの押収が始まり、私は当たらぬようにずっと避け続けていた。
そんな決勝を見守る生徒の中から、ハチマキをつけた橙羽が大声で叫ぶ。
「おねーちゃん! 黄架なんか、ぶっとばせー!」
「橙羽、それいくらなんでも酷くない!?」
兄弟対決に負けたことが余程悔しかったのか、橙羽は〈紫〉チームの応援に加わっていた。
「……さっきから、宮園さんへのマーク、きつくない?」
オフェンスの要、梶田くんが隣で呟いた。
「ははは……ずっと逃げているから、かな……?」
「確かに。宮園さん、逃げるの上手いよね」
言われてみれば、梶田くんの言う通りかもしれない。
私はこれまでの試合では、ずっとボールから逃げてばかりで、一度もボールに当たっていなかった。
だからなのか、決勝戦であるこのタイミングで、相手チームから徹底的にマークされていたのだ。
「これまで、一度もボールに当たってないよね?」
「逃げたいことだってある」
梶田くんがフォローしてくれるというので、
徐々に、両チームとも内野の人数が減っていく。
気付けは、こちらのチームは内野に三人。
向こうのチームは四人だった。
向こうのチームには、黄架も残っている。
ボールが相手チームへと渡り、狙いが再び私へと向かう。
内野から外野へ。
外野から内野へ。
パスされ続けるボールの動きは、難なく目で追えていた。
けれど、ボールがその人の手に移った時、一瞬だけ反応が遅くなった。
ボールを持った黄架と、目が合ってしまったから。
黄架がフェイントをかけて外野へ渡すそぶりを見せたことは、頭ではわかっていた。
けれど、心に一瞬だけ浮かんだ言葉が、私の思考を白紙にしたのだ。
――〝逃げるの?〞
「宮園さん!!」
誰が私のことを読んだのか。
その声に気付いたときには、すでに遅かった。
目の前に、ボールが現れていた。
「……大丈夫、ですか?」
保健室のベッドの上でアイスバッグを顔に宛がう私の前に、ボールを当てた本人が現れた。
「黄架、くんっ!?」
危うくまた敬称をつけ忘れるところだった私は、言葉を飲んだふりをした。
起き上がろうとする私に、黄架が首を横に振る。
その様子は、見るからにとても申し訳なさそうである。
「ごめんなさい!」
二人きりの保健室に、黄架の謝罪の言葉が溶ける。
(謝るために、わざわざ来てくれたの……?)
黄架が今ここにいるということは、閉会式も終わっているのだろうか。
「ううん。避けきれなかった私が悪いんだし……」
「でも、女の子の顔面に、思いきりボールをぶつけるなんて……」
確かに、めちゃくちゃ痛かった。
「別に、わざとじゃないんだし、仕方ないよ」
私は、フォローをしたつもりだった。
けれど、黄架は首を横に振る。
「……ううん。それが、そうとも言い切れなくて……」
その言葉の真意がわからず、私は首を傾げた。
「とっても失礼な話だとは思うんですが……君を見て一瞬、男の子だって勘違いしちゃって……」
「えっ?」
「ほんとに、ごめんなさい! ほんとに君によく似てて……その子のこと考えたら、つい、加減を忘れちゃって……」
全力で挑んでしまったと続ける黄架。
まさか、その人物は……
「……その人とは、仲……悪かったの?」
あの時。
目があった黄架の眼差しは、確かに〝紫苑〞へと向けられていたのかもしれない。
だからこそ私も、それにつられて固まってしまったのだろう。
私は、あの時に自分へと向けられた視線の意味が知りたかった。
「えっ!?」
驚いたように声をあげる黄架。
それもそうか。いきなり、よく知りもしない女子からそんなことを聞かれて、そうそう答えられるわけ――
「……実はその子のこと、尊敬してたんだ」
(答えちゃうんだ!?)
内心驚く私をよそに、黄架は「でも」と言葉を続けた。
「でも、何も言わずにその子は、僕たちの前からいなくなっちゃったんだ」
話してくれなかったことが、悲しいし、悔しい。
理由を伝える価値もない、ただ一緒にいるだけの、付きき合いだったのかと。
そう、黄架の表情は告げていた。
「……ごめん、なさい」
私も黄架につられて、心の声を漏らしていた。
私が彼に謝っても、何の意味もないのに。
「僕の方こそ、ボール当てちゃってごめんね!」
私の謝罪は伝わらず、その言葉を残して、黄架は保健室から去っていった。
ボールが当たった目の奥が、また痛くなっていた。
青史郎:……。
翡翠:どうした? 青史郎。そんな真顔で……何か考え事か?
青史郎:最近、あいつらからの風当たりが強い気がするんだが……気のせいか?
翡翠:えっ?
青史郎:なんだよ、翡翠。驚いた表情して
翡翠:お前が、他人から言われたことで落ち込んでるなんて……
青史郎:俺は感情がないロボットじゃないんだが?
翡翠:でも、クール屋で売ってるお前が、
この前みたいに感情的になることなんて、滅多になかっただろう?
青史郎:あれは……
翡翠:おっと、もう時間だな!
次回8/20更新予定『16th Stage 芸術の秋! って、《Vision》が解散!?』
お楽しみに! って、解散!? どいうこと!?
青史郎:……本でも読むか。
翡翠:無視しないで! 青史郎ー!