13th Stage これが私! 紫の初舞台!!
いつもご覧いただきありがとうございます!
そして予告通りに投稿できず、申し訳ございません!
8/17の26時台ということで、どうかご容赦くださいますよう、お願いいたします……
この情報社会、情報の流失にはくれぐれも気を付けましょう(←何様だという)
「……あ」
「……?」
おそらく、気まずいと思ったのは私だけだった。
藍は他のお客さんたちに囲まれていたから、私と目が合ったのは、ほんの一瞬のはず。
「……それじゃあ、雪子! 私、もう行くね」
「う、うん」
それでも私は、逃げるようにその場から立ち去っていた。
(あーっ! めっちゃ緊張した!!)
限定ライブが終わり、ライブが行われた講堂前。
三年一組の三十名うち、半数以上の二十名が参加するという大がかりなフラッシュモブ。
来場者へすぐに演出だとわかるように、音がかかる瞬間に全員が上着を脱ぎ、その下に来ているクラスTシャツを見せる演出。
そのお陰で、興味をもってくれた多くの来場者が止まり、私たちの躍りを見ていた。
「みんなー! フラッシュモブ、講堂の控え室から見てたけど、めっちゃ良かったよ!!」
その後、明日のクラス展示の最終配置をしていた時に、緋織が入ってきてみんなへと感想を述べた。
「緋織くんも、ライブ格好良かったよ!!」
「歌も躍りも、めっちゃ最高だった!」
「あとでバクテン教えてくれよ!」
などなど、クラスメイトも緋織への感想をそれぞれ述べていく。
相変わらず《Vision》人気はすごい。
「あっ、宮園さん。それ、明日の衣装だよね」
緋織は貞子さんの衣裳である白いワンピースを身体にあてがいながら、くるりと回って見せた。
「うん。既製品のフリーザイズだから、合うとは思うけど」
私は演技部同様、クラスの衣裳班に立候補し、それぞれの衣裳のデザインを担当していた。
なぜか役決め時に、〝屈強な男子が貞子さんを演じる〞という縛りが発生し、クラス一身長が高い鈴川くんと緋織が前後半で貞子さんをダブルキャストで演じるということになったのだ。
……二人の身体に合うサイズが見つかって、本当に良かった。
「……」
緋織のワンピース姿が、頭の中で先日の縁日の時の姿と重なる。
「宮園さん?」
緋織が首を傾げてこちらを見ていた。
「ううん。緋織くんも、ライブお疲れさま。とっても、良かったよ」
「ありがとう!」
初めて〝観客〞として観た《Vision》のライブ。
切れのあるダンス。
曲の魅せ方。
演出方法。
〝紫苑〞の経験から、どんな想いでライブを作っているのかを知っていたから、フラットな気持ちで観ることなんて出来なかったけれど。
それでも、ライブを通して〝楽しませる〞という想いは、変わらずに伝わってきていた。
「明日も、お互い頑張ろうね!」
その笑顔は、相変わらず眩しい。
「……うん」
もう目をそらすことはしないと思いつつ、私の心の奥では、いまだにその答えが出ていなかった。
(……羨ましい、なんて、思っちゃダメだよね)
彼らは、ただ自分たちを表現しているだけ。
その彼らから離れたのは、他ならない私自身なのだから。
一日目のフラッシュモブ効果か、三年一組のお化け屋敷は盛況で始まった。
お化け屋敷とは言っても、世界中にある恐怖スポットを巡り、そこにひそむ魔物や霊を鎮めながら進むというアトラクション型のお化け屋敷。
舞台は西洋東洋ごちゃ混ぜ。
ドラキュラあり、妖怪あり、幽霊あり、宇宙的恐怖あり……といった、まさに古今東西の怪異大集合なお化け屋敷だった。
規模も三つのクラスを暗幕で繋げた大迷路で中も入り組んだ作りにしている。
「きゃー!」
「うわあ!」
締め切った入り口からでも聞こえる悲鳴。
入場者は、さぞフルメイクで襲い来る妖怪怪物に驚いていることだろう。
全員の完璧なフルメイクは、私と同じ演劇部の菊地さんの手腕によるもので、配役のあるクラスメイトは全員、朝六時起きだったという。
「次、二名様でーす」
私は受付で、お化け屋敷の簡単な説明や中に施されたギミックの説明を行う係りだった。
「宮園さん。もうそろそろ時間でしょう?」
もう一人の受付担当である和久津さんが、交代の合図を告げる。
いけない。もうそんな時間か。
「そしたら、あとはお願いします!」
「まかせて。演劇、観に行けないけど、頑張って!」
「ありがとう!」
私はみんなに交代する旨を伝えて、演劇部の講演が行われる体育館へと向かった。
今年の演劇部の舞台は、『眠れる森の美女』。
様々なコンテンツで映像化、舞台化されている同作品は、この神原学園の演技部内でも人気作だった。
舞台袖の控え室に、王子の衣裳を着た六組の日向くんが現れる。
「日向くん。衣裳はどこも違和感ない?」
「うん、宮園さん。大丈夫そう。ありがとう」
良かった。
自分が担当した衣裳だったから出来映えや着心地が不安だったけれど、問題な無さそうだ。
私が胸を撫で下ろしていると、日向くんが笑って言った。
「初舞台なのに落ち着いてるね、宮園さん」
「えっ?」
中等部での経験も会わせて、今年で六年目というベテランの演劇部員である日向彰くんは、私の顔を覗くように見つめている。
「練習の時から思っていたんだけどさ。他人の心配が出来るくらい周りが見えてるなんて芸当、初心者はそうそう出来ないと思うよ。
それも主役を演じるっていうのにさ」
――鋭いところをついてきますな、日向くん。
「……たくさん、練習したからね」
私は、自分が袖を通してる衣裳に目をやった。
私の役割は、衣裳班とキャスト。
そしてその役はなんと、ヒロインのオーロラ姫だ。
部員が複数の役割を担うのは、神原学園の演劇部に存在する独特のルールがあったからだった。
それは、〝一人一役一ライト〞というもの。
何代か前の監督の意向が残っているらしく、必ず全員、一度は舞台に立ってスポットライトを浴びること、という決まりが続いていた。
二十七人いる演劇部のうち、三年生は五人。
けれど配役は年功序列で与えられるのはなく、完全なる実力で選ばれていた。
私も、やるからには本気を出したのだけれど。
「開幕まで、あと三分です」
進行役の部員が時間を知らせる。
衣装を着た部員たちが、部長の日向くんの許へと集まった。
「今日の舞台が今までの集大成だ。俺たちの舞台で魅せるぞっ!」
「おーっ!」
開幕のブザーが鳴る。
「次、一幕。オーロラ姫登場、お願いします」
私は呼び掛けに応えて舞台袖に移動した。
本当は、緊張していないわけじゃない。
ただ、それよりも強い想いがあるだけ。
――〝彼〞よりも来てくれた観客を楽しませる。
そうすることで、私が私であることを証明することが出来ると思うから。
「〝今年で姫も齢十六歳。ついにこの時が来てしまうとは――〞」
王役の声が聞こえた。
私は袖から足を踏み出して、台詞を告げる。
「〝私をお呼びになりましたか? お父様〞」
これが〝宮園紫〞の初めての舞台。
「ゆっかちゃん! お疲れさま!! 良かったよー」
「ありがとう! 真由ちゃん」
カーテンコールを終えて舞台袖に戻った私に、真由ちゃんが抱きついてきた。
「それじゃあ、今年も恒例のあれをやりますか!」
「……あれ?」
首を傾げる私に、真由ちゃんはとんでもないことを口にした。
「それじゃあ、ゆっかちゃん。その衣装を脱いで!」
「……はいっ!?」
全身全霊をかけて首を横に振る私に、今度は日向くんが言った。
「諦めて、宮園さん。〝衣裳替え〞は部の恒例行事なんだ」
「衣裳替えって、これ……」
真由ちゃんから差し出されたのは、なんと王子の友人役の衣裳だった。
「元々は、なりたかった役の衣裳を、せめて公演が終わった後だけでも着たいっていう、ある先輩の一言から始まったことらしいんだけど……」
それが異性役の衣裳だった、と。
それ以降、公演が終わると全員で衣裳を交換し合い、時には撮影会も行うという伝統行事に発展してしまったそうだ。
いつの間にか真由ちゃんの手には、ご丁寧にも短髪のウィッグが乗せられてた。
「私は、いいよ! 男装なんて、したことないしっ!」
「なに遠慮してるの! ものは試しよ! ゆっかちゃん、絶対に男装似合うから」
笑顔の真由ちゃん。いやにテンションが高かった。
それは今日の早朝からクラスメイトたちにメイクを施していたせいなのか、それとも元々はこんな性格なのか。
(それはある意味知ってるんですけど! 今まで女だってバレてませんでしたし!!)
〝紫苑〞の時は、捺花さんの知り合いのメイクさんの協力のもと、完全なる〝男装メイク〞ですべての現場に挑んでいた。
けれど、男装することに代わりなはない。
いつもの〝紫苑〞のウィッグではないとは言え、『似ている』以上の感情を抱かれたらアウトだ。
「僕も見てみたいな。宮園さんの男装姿」
すると、思わぬところから掩護射撃がきた。
その発言をしたのは、他ならぬ日向くん。
「そうだ! どうせなら、王子役にする!?」
――はいっ!?
「それいいね。宮園さんが自分で作った衣裳だし、感慨深いでしょ」
何を言い出すの、日向くん。
(なにも感慨深くなんてないよ!)
確かに、自分でデザインしてミシンかけて愛着湧きまくりではあるけれども!
逃げ腰になって、さっさと制服に着替えようとしている私の腕を、先ほどから真由ちゃんの意見に賛同していた他の女子部員に、ガッツリ捕まれてしまった。
「ちょっ!?」
「宮園先輩! 私たちも、オーロラの衣裳が来たいんです!」
「うん。そっか」
――その気持ちはわかる。
「だから、脱いでもらわないと」
「うんっ!?」
――待て待て。
「そのついでに、ちょっと他の衣裳を着て、ウィッグ被るだけですから」
「絶対についで以上の労力いるよね!? それっ!!」
しまいには、真由ちゃんに背中を押され、私は更衣室へと連れて行かれてしまった。
「……」
ここは、部室棟にある演劇部の部室。
その部屋の中、なす術もなく、私は他の演劇部員の前に立ち尽くしていた。
纏っているのは、日向くんが先ほどまで着ていた王子の衣裳。
「……もしかして、紫苑?」
ついに、恐れていた言葉が、どこからともなく投げられた。
(どうしよう……っ!!)
何も考えが浮かばない私をよそに、この状況を作り出した張本人である真由ちゃんが、一歩ずつ近づいてくる。
俯いているから、その表情まではわからない。
けれど目の前に来たかと思うと、勢いよく私の両手を握り、その瞳と目が合った。合ってしまった。
「……っ!?」
けれど動転し過ぎて固まる私ではない〝私〞を、真由ちゃんの瞳は映していた。
「ゆっかちゃん! 〝君のことが好きだ〞って、ちょっと低めの、紫苑よりの声で言ってみてくれない!?」
「……」
私は、言葉を失う。
赤い腕章をつける真由ちゃんは、なおも、私がその言葉を口にすることを待っている。
それは周りの雰囲気も同じだった。
(――ええい! 演劇部員の前で、下手な演技は見せられないでしょうが!)
一度やって解放されるなら、長引かせない方がいい。
私はそう判断して、これまでの学園生活で何度か入りかけていた〝紫苑〞のスイッチを入れた。
「――〝真由、君のことが好きだ〞」
視線。
声色。
口調。
すべて〝紫苑〞に変える。
その途端。
「……真由ちゃんっ!? 大丈夫!?」
顔を真っ赤にした真由ちゃんが私の手を離したかと思うと、その場にしゃがみこんだ。
「……私、紫苑に告白されちゃった!」
「うんっ!? 違うよっ!?」
(その台詞を言ってと言ったのは真由ちゃんでしょう!?)
「……緋織くん、ごめん! 私、紫苑に一瞬ふらついちゃった!」
(やっぱり、真由ちゃん。テンションおかしいよね?)
周りからも歓喜の声が上がっていた。
「すっごい! 宮園先輩、紫苑に激似じゃないですか!」
後輩の一人が、手を広げて喜んでいる。
「宮園先輩! こっち向いてください!!」
私は、瞬間的に危険だと直感し、自分の顔を手で隠していた。
「えー!? 先輩! 顔隠さないでくださいよー!」
(――そんなこと言っても、写真はほんとにヤバいから!)
もしネットに流失までしようものなら、それこそアウトだ。
現代はネット社会。
一旦流れてしまった映像や画像は、削除することは出来ても、拡散までは防げない。
「――ごめん! 私、ちょっとお手洗いに行ってくるね!!」
私は、大勢の部員の目から逃げるように、部室から外へ飛び出した。
「宮園さん!?」
後ろで日向くんたちの声が聞こえたけれど、私は振り替えることも、立ち止まることもしなかった。
人目を避けて辿り着いたのは、高等部校舎と男子寮の間の茂み。
茂みに隠れるようにしゃがみながら、私は今後について考えていた。
(……どうしよう。制服は部室だし、女子寮は反対側だし……)
部室棟から近い男子寮側へと逃げてきてしまったことに今さら後悔を覚えたけれど、もうどうすることも出来なかった。
(このまま部室に戻る? でも、またさっきみたいなことになったら――)
私が考えあぐねていると。
「……紫苑?」
最悪のタイミングだった。
その声は――
「……藍っ!?」
藍藍だった。
雪子(以下、雪):あ、緋織。良いとこにいた!
ねえ、こっちにゆっか、来なかった?
緋織(以下、緋):ん? 君は確か、宮園さんと一緒にいる……
雪:古上雪子だよー。よろしく。
緋:古上さんか。よろしくね。
で、宮園さんだっけ? ううん。こっちには来ていないよ?
確か、演劇部の公演に行ったって聞いたけど……。
雪:うん。私も公演を観て、感想伝えようと思ったんだけど、ゆっか、どこにもいないんだよねー。
緋:衣裳を来ているだろうし、着替えでもしているんじゃないのかな?
雪:そっか。じゃあ、もう一回探してくるわー。ありがとねー!
緋:あれ……古上さん!? 行っちゃった……。
ん? ということは、今日は俺一人で予告するってこと?
次回8/18更新予定『14th Stage まさかの発表!? 告げられる知らせ!!』
お楽しみにね!!