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10th Stage あの日の約束! 叶えたかった夢!!

いつもご覧いただき、ありがとうございます!


一言いっておきますが、作者はキャンディーズが大好きです(世代ではないのですが(笑))

 ◆


「……何を、やっているんだ? 緋織の奴……」


 橙羽の隣で、木陰に潜みながら、翡翠が唖然とした声を上げた。


「何って、デートに決まってるでしょ~?」


 橙羽はさもありなんと告げる。


「いや、だって、あいつ女装――」


 そう言いかけて、翡翠はそれでも多い人通りを気にして小声で言い直した。


「あんな格好で、もしバレでもしたら……」


 朝、緋織が教室に忘れ物をしたとかで制服姿で出ていってから数時間後。


 やっと戻って来たかと思いきや、突然クローゼットの中にしまってあったいつかの翡翠が女装した時の衣装を引っ張り出し、あろうことか袖を通したというのだ。


 その時の小道具の日傘も一緒に持ち出し、化粧までして出掛けて行ったと翡翠から聞いて、橙羽は翡翠と共に好奇心から後を追って来ていた。


「こんな面白い光景、青ちゃんも一緒にくればよかったのに……」


 橙羽は、翡翠からことの顛末を聞いて青史郎も誘ったのだが。


「くだらないことに付き合っている暇はない」


 と断られてしまった。


(あのひおりんが〝デート〞ねぇ~)


 橙羽は先ほど自分で言った言葉を反芻していた。


 あの緋織が、特定の誰かを特別に扱うなど、今までになかった。

 それは、これまでの三年間の付き合いの中で知っている。


 緋織は、何より《Vision》のリーダーとして、いつもメンバーやファンに中立で平等だった。


 けれど、あの光景ではまるで――


「……まるで、紫苑になろうとしているみたいだよね」

「は? あいつの女装は、いくら何でも真似出来ないやつだろ」


 検討違いなことを述べる翡翠。


(……まあ、そうなんだけどね~)


 橙羽は、もう少し縁日を回っている二人を、見ていることにした。


 ◆


 緋――花ちゃんが、片方の手に二つあるりんご飴のうちの一つを、私に差し出してきた。


「でも、私、お金……」


 まさか縁日に来るとは思っておらず、ただいまの私の所持金はゼロ円。


「いいわよ。お土産のお礼ってことで」


 ウインクをして微笑む花ちゃんは、さながらどこかの雑誌を飾れそうなアングルを度々披露していた。


 当然、そんな彼女(?)を縁日に来ていた男子連中が放っておく訳もなく。


「ねえ、君たち二人? よかったら、俺たちと見て回らない?」


 来ました。本日三組目のチャレンジャー。


 緋織は三度目ともなる台詞を、慣れた口調で発する。


「ごめんなさい。今私、この子とデート中なの。邪魔しないでくださる?」


 日傘を絶妙な角度で傾け、二人組の男子を一蹴する。


「……女優になれるね、花ちゃん」

「ほんと!? こんどオーディション受けて見ようかな」


 若干素が出てきそうなトーンだったけれど、花ちゃんはすぐさま咳払いして元に戻っていた。


「……そう言ってくれて嬉しいわ。宮園さん」


 ほんと、大物になりますよ、君は。


 少し歩いていた視線の先で、とある屋台が目に留まった。


 正確には、その屋台――引いたくじで景品が決まるくじ屋の景品のひとつに、目が留まった。


 多くのアイドルのブロマイドが置かれる中で、中央に置かれているアイドルチーム。


 今くじを引こうとしている浴衣姿の女子の狙いも、そのアイドルチームにあるというのが、聞こえてくる話で理解できた。


「もー! こんどこそ、緋織が出ますようにっ」


 彼女はボックスの中から引き当てた紙を、屋台のおじさんに渡す。


「はい。次はこの中から選んでね」


 望み通りの数字ではなかったのか、彼女は頭を抱えて叫んでいた。


「何で出ないかなっ!」


 その時、彼女がこれまで引いてきたであろう景品のブロマイドが、いくつか地面に散らばった。


「あ……っ」


 私が動くよりも先に、彼が動いていた。


「……はい。どうぞ」


 拾ってそれを彼女に渡す後ろ姿に、違和感があった。


 そして。


「……う、そ、緋、織……?」


 その違和感は、良くない方に的中した。


 彼女のがこぼした言葉に、どれだけの人が気付いたかはわからない。


 それでも私は、動くことにした。


「……花ちゃん! 走るよ!」


 私は彼の手を引いて、徐々に多くなる人混みを避けて走った。




「……ごめん、宮園さん」


 立ち止まって息をならす緋織から、謝罪の言葉が漏れた。


 何も考えずに走ってきたせいで、知らない道に出てしまった。


 たぶん裏参道か何か。

 獣道よりも人通りがありそうな脇道ではあったけれど、当分は人が来る気配はなかった。


 縁日は騒ぎになっているだろうか。


 もしくは、あの少女の勘違い、ということで終わっているのかもしれない。


 それでも、私は彼に聞かなければならないことがあった。


「さっき、彼女が落としたブロマイドを渡した時、〝緋織〞だったよね?」


 私は、思ったことを口にする。


「……っ!?」


 私が指摘したことが意外なのか、緋織は驚いていた。

 日傘を握る手に、力が入っている。


「さっきまでナンパをあしらうときは確かに〝花ちゃん〞だった。だけど、あの女の子には〝緋織〞で話していたよね?」


 疑問系で聞き返したけれど、確証があった。


 私にはわかる。


 口調や態度だけでなく、心を切り替える瞬間が。


「どうして? こんな人混みの中でバレたら、危ないのは緋織くんの方なんだよ?」


 普段の緋織らしくない。


 いつも《Vision》がどうすれば多くの人に知ってもらえるのか、好きになってもらえるのかを考えている彼なら、正体がバレる危険をおかしてまですることではない。


「……から」


 小さい言葉が落とされた。


「え?」


 聞き返した私に、緋織が告げる。


「俺は、アイドルだから、与えなきゃいけないんだよ」


 彼は、何を言っているのだろう。


 いや、そうじゃない。


「どうして、そんな辛そうな表情かおで、そんなことを言うの?」


 与えると言うのは、自分の身を割いてまで相手に分けるものではない。


 自分より溢れ出るものを、相手に分けるものなのだと、以前にどこかで聞いたことがあった。


「そんなことをしても、辛いのは、緋織くんでしょう?」


 どうして、緋織がそんなことをあんな表情で言ったのか。


 思い当たる節はないわけではなかったけれど、それを口にする資格は少なくとも今の私にはなかった。


 その時。


 緋織の持っていたスマホのバイブが鳴る。

 誰かからの着信のようだった。


「……ごめん」


 私に断って緋織が電話に出ると、辺りが静かなせいか、電話口の声がこちらにまで聞こえてきた。


『あ、緋織? お前、今どこにいるんだよ。もうすぐ捺花さんが迎えに来るぞ』


 どうやら翡翠の声らしい。

 同室だったと話していたから、気になって電話をしたのかもしれない。


「あ、うん。ごめん。もうすぐ帰るから……」


 少し声を落としながら、緋織が告げる。


 その様子は、明らかに先ほどまでとは違っていた。


「……ごめん、宮園さん。俺……」

「うん。お仕事だよね。いってらっしゃい」


 今日はありがとうと伝えた先の緋織の表情は笑っていたけれど、それでもどこか固い。


「……」


 緋織が脇道を下る後ろ姿を眺めつつ、私は彼をああさせた原因について、しばらくその場で考えていた。




 木曜日。


 私は必要な荷物だけを持って、寮を後にした、


 学園の寮から、電車とバスで片道二時間。

 バス停から少し歩いたその先に、目的の場所がある。


「お父さん、お母さん、久しぶり」


 盆の入りを避けたつもりだったけれど、やはり時期だけあって霊園の駐車場には車が多く止まっていて、参拝客もそれなりに訪れていた。


 御影石で出来た墓石に桶で汲んできた水を掛けつつ、持参したタオルで丁寧に拭き取る。


 〝宮園家の墓〞。


 本当はお祖父ちゃんやお祖母ちゃんたちもこのお墓にはいるらしいけれど、私は会ったことがない。


 朱里さんと父も早くに両親を亡くし、それ以来二人で生活してきたそうだ。


「あのね。この前、十八歳になったよ。お母さんが、お父さんと出会った年齢だっけ」


 一段落して、私は両親に近況の報告をした。


 本当なら、お経の一つも読めればいいのだけれど、これが習慣化してしまっている以上、変えられなかった。


「……それでね。私、神原学園に入学したんだよ。お母さんの母校」


 私は、ずっと昔のことを思い出していた。


 まだ両親がなくなる前。

 自分たちのアルバムを見せてくれた両親が、それぞれの学生時代にやって来たことを話してくれたときがあった。


『私はね、ほんとは、演劇部で、衣装とか作ってみたかったんだよね』


 そう話す母は、アルバムを捲りながら、どこか寂しそうだった。


『……学生の時は、学生にしか出来ないこともいっぱいあった。今はモデルの仕事を選んだことに後悔はしてないけれど、もっとあの時を楽しめば良かったって、時々思っちゃうんだよね』


 そして記憶の中の母は、いつも私を抱き締めながら、最後にこう言うのだ。


『だから、紫は、思い出にずっと残るような素敵な学生生活を送ってね』


 私は我が儘だ。


 多くの人を振り回して、迷惑をかけて。


 それでやりたかったことは〝普通の女子高生生活〞を送ってみたいという、子供染みた願望。


 母の言葉は、私を縛るために言ったのではないと心のどこかでは気付いていた。

 けれどそう気付きつつも、そうしなければ、あの時の母のどこか寂しい横顔か私に教えてくれたこと自体が、なくなってしまいそうな気がしたのだ。


 だから、私は選んだ。


 彼らと一緒にいることよりも、幼い頃に母が口にした夢を叶えるために。




「それじゃあ、また来るね」


 桶を手に持ち立ち上がる。


 その時、歩いて来る参拝客の会話が聞こえてきた。


「さっきのあの外国の人さ、どこの国の人かな?」

「ねえ。とても綺麗で、すらりと背が高くて……」


 お人形さんみたいだったと口々に言う声。


(……お墓に外国人、ね……)


 偏見ではないけれど、外国式の墓石があるエリアはもっと先にあったから、道にでも迷ったのかと思ってしまう。


 その時。


「ユカリ!」


 懐かしい声。


「えっ?」


 数メートル先にある階段から登ってきたのは、日傘を指した外国人だった。


 スキニーのジーパンに、白いシャツという簡素なスタイルでも、その長い足と風に靡く金髪が彼女・・をモデルたらしめている。


「ジュ――」


 私が言い終える前に、彼女の腕の中にすっぽりと収まっていた。


 彼女の差していた日傘が、地面に落ちている。


「もう、会いたかったわー!」


 突然の包容に驚きを覚醒ない私は、ただただ彼女の名前を呼ぶことしか出来なかった。


「――ジュリエット!?」


 〝私〞のすべての始まりである彼女が、目の前にいた。


緋織(以下、緋):あれ、今日は宮園さんなんだね。

  紫:……う、うん。そうみたい。よろしく、緋織くん。

  緋:うん。よろしくね! そう言えば、宮園さんって、何月生まれ?

  紫:四月生まれだよ。

  緋:そうなんだ! 俺は九月生まれだから半年違うんだね! 誕生日はメンバーの中では真ん中の方なんだけど、十二月生まれの青史郎の方が兄貴的な感じに見られるんだよね。

  紫:五人兄弟の長男だもん。

  緋:よく知ってるね! 宮園さん! あ! 兄貴で言えば、あいつも四月生まれだって言ってたな!

  紫:そんなことより、緋織くん! 次回予告しよう! 次回予告!

緋&紫:次回、8/14更新予定『11th Stage 「ボンジュール!」すべての始まり! ジュリエット登場!!』お楽しみね!!

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