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Lost emotions  作者: PeDaLu
3/3

奉納の舞

感情を取り戻した伏見に起きたこととは

===3===


「あ……ああ……っ!!」


思い出されるあの日々。不快、悲しい、恐怖、、、ありとあらゆる「嫌」を味わったあの日々……。あんなことは二度とゴメンだ。怖い。感情はやっぱり怖いものだったんだ。そうだ。あの稲荷神社に行って氏神様にこんなものは再び奪い去ってもらおう。すぐにでも。とにかく早く。あの稲荷神社へ……!


「氏神様!私の感情を再び、、再び奪い去ってください!お願いします!」


頭を下げながら必死に願う。祈る。


「伏見くん」


突然、名前を呼ばれた。


「伏見くん。本当にそれでいいの?佐伯さんや栗山くん、そして私との思い出はそんなに消したいものなの?それでいいの?」


「伊奈利……さん?どうしてここに?」


「君は感情のすべてをまだ知らない。取り戻してない。私は感情はなく、機械的に善悪を捉えて思いの強い者の願いをかなえる存在。君が感情を捨てたいと強い意志で願い出た時、私はその感情を欲しいと思ってしまった。すまない。本当にすまない」


「伊奈利さん?一体何を……」


「この残りの感情、これは君のものだ。ここでそれを返そう……」


伊奈利さんは僕の胸に手を当ててそう言った。彼女はそれを返そうと言った。


「伊奈利さん?伊奈利さん……あなたは……」


僕は狼狽した。ここで感情を返してもらったとしたら、彼女はあの感情のない生活を続けることになるのか。ずっと一人になるのか。寂しい思いをさせるのか。そう思って僕は伊奈利さんから離れて走り去った。このまま彼女から感情を返してもらうわけにはいかない。奪い去ってはいけない……!


この出来事を佐伯さんと栗山くんに打ち明け相談することにした。信じてもらえるか分からないけど。


「伏見さぁ、お前、本気で言ってるのか?本当に伊奈利さんが氏神様とかいう神様だったって?」


「ああ。そうだ。僕はあの日、感情を捨てた。それを再び氏神様が返すと言った。信じてもらえるかわからないことだと思ったけども、相談できるのが伊奈利さんを知っている栗山くんと佐伯さんだけなんだ!お願いだ!彼女に……伊奈利さんにも感情を残す方法はないだろうか!?」


「伏見くん。なぜそんなに伊奈利さんのことが気になるの?」


「分からない。伊奈利さんは僕のために……僕にとって唯一無二の存在なんだ。消えてしまうなんて耐えられない!」


「伏見くん、それはきっと『好き』っていう感情だと思う。伊奈利さんを失うのが怖くて悲しくてたまらないんでしょう?」


「でも、ここで好きという感情を取り戻しても……!僕は……もう……彼女に触れられない……なぜこんなことを……なぜ僕は彼女に感情というものを見せてしまったのか……自分が嫌になる……なんで!僕は!!」


「伏見。それが怒りだ。自分が許せなくて怒っている。分かるか?あと、伊奈利はお前に感情を返そうって言ってたんだよな?だとしたらお前が感情を取り戻す度にあいつから感情が消えていったはずだぜ。入れ替えになるだろうからな。お前が好き放題やって俺たちが戸惑っているときに伊奈利は戸惑うことはなかった。あれはきっとお前にその感情を返したからだぜ?」


「僕が感情を取り戻せば彼女から感情が消えてなくなる……そうか。それじゃあ僕の中に返しても返しきれないほどの感情があれば、伊奈利さんは感情を僕に返せない……。伊奈利さん感情を失わない……!」


それから僕は佐伯さんと栗山くんだけではなくクラスのみんなにも協力してもらって沢山の感情を返してもらい、より大きなものへと育てていった。これで……これで彼女から感情を返してもらえば、返しきれない感情は彼女に残るはず。僕に渡してしまった感情はまだ少ない。僕と同じように彼女にその感情を教えさえすれば、全て上手く行くはずだ!


佐伯さんと栗山くんと一緒に僕は再び稲荷神社を訪れ、社に願った。


「僕の感情を返して欲しい。代わりに僕の感情をその心に残してくれ!」


必死の祈りの後に目を開くと目の前に伊奈利さんが立っていた。そして僕の胸に手を当ててこう言ったんだ


「君の願いを受け入れ、ここに叶えよう。君の残りの感情を返そう……」


これで……これで伊奈利さんにも感情は残るはず


「伊奈利さん!一緒に帰ろう!」


「…………。」


そこには無表情の伊奈利さんがいた。なにを言っても反応がない。身体が動かない。触れることも出来ない。伊奈利さんは社に消え、その後二度と出会うことは叶わなかった。どんなに強く願っても。僕は取り戻した感情の波に飲まれて深い哀しみに沈んだ……。


せめて……彼女に、伊奈利さんに僕のこの想いだけは伝えたい。そう思った僕は今年の神楽での奉納の舞を踊らせて欲しいと願い出てた。この想いは本物だ。そう思って必死に練習した。


「僕の舞は……声は聞こえますか?伊奈利さん。僕の想いは伝わってますか?」


ーー伏見くんーー


「伊奈利さん?」


ーー伏見くんの声、届いてますよ。あなたの気持ち、届いてますよ。ーー


ーー私は今、神楽に集まった人々の多くの願い、感情を貰って今、君と通じ合っているーー


「伊奈利さん!僕は、、、!」


ーーこれは一時的な想いの通じ合い。この舞が終われば消えてなくなる。私は君に出会えて、感情というかけがえのないものに触れることが出来て本当に嬉しかった。ありがとうーー


「伊奈利さん……!」


舞が終わると同時に伊奈利さんの声は聞こえなくなった


それから僕は伊奈利さんの居ない高校生活を終えて大学へ進学した。毎月、例の稲荷神社へお参りにいくものの、伊奈利さんの声を聞くことは出来なかった。


「伏見よぉ。お前まだ伊奈利のこと気にしてんのかぁ?もう何年経つよ。お前今年で27歳だぜ?」


「やめなよ。毎回毎回会う度に」


「お前は黙ってろよ。コイツは毎回言わねぇとわからねぇんだよ。このまま一生独身でいる気だぞ」


今は佐伯さんは栗山の姓を名乗っている。それをきっかけに会う度に毎度この話を聞かされる。僕は信じてる。また伊奈利さんに出会えると。


今月も稲荷神社へのお参りだ。いつものように社に話しかけて帰ろうとした時


「伏見くん」


やけに懐かしい声がする。振り向くと彼女が居た。伊奈利さんが居た。


「伊奈利さん……やっと会えた。やっと……」


「何年ぶりになるのかな。伏見くんが高校2年生、17歳の頃だから10年ぶりになるのかな」


「でもどうして……」


「10年前の君の舞、あれがきっかけで氏である私の見渡す者達が、再び私を頼ってくれるようになったの。おかげて私は一時的にではなく永遠の感情を手にいてることが出来たの。流石に10年かかっちゃったけどね。だから君と一緒にこの感情の世界で過ごすことが出来る」


しかし、彼女は神。永遠の命を持つ。自分が寿命を迎えれば彼女に深い悲しみを与えてしまう。


だが、彼女はそれでも構わないという。そしてこう言ったんだ。



ーーこの感情を通い合わせる時間を大切にし、私は永遠の思いにしようーー



End

いかがでしたでしょうか。本作品は失うこととと手に入れること、その代償について書いてみました。

手に入れると同時に失う大切な者があったとしたら、あなたならどうしますか?

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