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第53話 タケトが不審ですの(ブリジッタ談)


 その日の昼下がり。

 ブリジッタは王宮での用事を済ませると、郊外にある自宅へ帰るために『王宮の森』を貫く『王の道』を市街地の方へと歩いていた。


 本当はいつものように乗合馬車で帰るつもりだったのだが、今日に限って事務所を出るのが遅れてしまって、乗合馬車の乗り場についたときには馬車が出た後だった。


 近くにいた別の御者に次の乗合馬車はいつ出るのか聞いてみたが、客が集まり次第なのでいつ出れるかわからないと言われて、仕方なく歩いて帰ることにしたのだ。


(たまには、徒歩もいいものですわね。運動にもなりますし)


 夕暮れの道をすれ違う人や馬を眺めながら歩いていたら、道の先によく知っている姿を見かけて、ブリジッタは「あら?」と足を止める。


(あれは……シャンテではなくって? あんなところで、何をしているのかしら?)


 シャンテは『王の道』の端で、何やら横道の方を見つつソワソワうろうろしている。


 『王の道』は『王宮の森』の中にある王宮と、森の外にある市街地を繋ぐ太い道だ。しかし一本道ではなく、この道を幹とするならば枝のような細い横道が何本か延びている。

 それら横道は『王宮の森』の中にある他の王立施設と繋がっていた。騎士団の本部や関係施設、商業会館、中央銀行などだ。

 シャンテが覗いているその横道は、たしか騎士団の寮と練習場がある一帯へと続く道のはずだ。


「何をしているのでして?」


 シャンテのそばへと寄ってそう声をかけると、シャンテは飛び上がらんばかりに驚いた。しかし、声をかけたのがブリジッタだと分かった途端、表情がホッと安堵に緩む。


「なんだ。ブリジッタかぁ。びっくりしちゃった」


「そこは騎士団の寮へと続く道だけれど。なにかご用事?」


 ブリジッタがそう尋ねると、シャンテは長い銀髪を左右に揺らして首を横に振る。


「うんとね。さっきね。タケトが、この道を行っちゃったの。それで……その……私、タケトを追いかけて……」


 そこまで言うと、シャンテは整った目元に涙を湛えて、ブリジッタの手をぎゅっと握ってきた。


「タケトね。タケトね。《《いい人》》がいるみたいなんだ……それで、その相手を突き止めたくて」


 そう必死な様子で訴えてきた。


「《《いい人》》って……え、ええ!? あのタケトに、女の影があるっていうんですの!?」


 驚いてそう尋ねると、シャンテはブリジッタの手を握ったままウンウンと何度も頷いた。


「最近ね。よくこっそり家を抜け出してどこかへ行くの。でも、どこに行くのか教えてくれないし。それで、今日は後をつけてみたんだけど。そしたら、この道を入っていっちゃったの」


「え……でも、この道を行ったって騎士団の寮があるだけで。ああ、でも……そうね。騎士団の女性寮もあるわね」


 そういうブリジッタの言葉に、シャンテはますますショックを受けた顔をして項垂うなだれる。


「やっぱり……」


「でも、タケトが騎士団の女性陣の誰かと付き合ってるなんて話は聞いたことがないですわよ?」


 たしかに王宮で仕事をしていれば、騎士団の連中と廊下ですれ違ったりすることはある。しかしタケトが来てからというもの魔獣密猟取締官事務所と騎士団と合同で密猟者を追うような仕事はした記憶がない。だとすると、一体どこで親しくなるような接点があったのかと疑問に思う。


 そもそも、タケトはシャンテに気があるとばかりブリジッタは思っていた。いつも仲よさそうだったし、何より一緒に暮らしているのだから。


 それにもかかわらず、なかなかくっつこうとしない二人にヤキモキしてすらいたというのに。 


「と、とにかく。これは確かめてみるしかありませんわね」


 てっきり恋愛に臆病すぎてシャンテに手を出せないでいるとばかり思っていたタケトが、ちゃっかり外に女性をつくっていただなんて。いまいち信じられなかったが、確かめないではシャンテの気持ちの落としどころがないのだろう。そう思って協力することにした。


「タケトは確かにこの道を行ったんですのね」


 ブリジッタの言葉に、シャンテは頷く。たしかこの道は一本道で、騎士団の敷地にしか通じていないはず。二人はタケトの姿を捜して、横道へと入っていった。


 しかし、女性寮の付近まで来てみてもタケトの姿はいっこうに見つからない。


「もう、どこかの部屋に入っちゃったのかな」


「かもしれませんわね。でも、この辺りを騎士団員ではない男性が一人で歩いていれば目立つはず。見かけた人がいないか聞いてみましょう」


 なんて二人で話しながら歩いていたら、聞き覚えのある声に呼び止められた。


「お前たちは、そこで何をしているんだ?」


 そう声をかけてきたのは、ベリーショートの真っ赤な髪をした女性、ヴァルヴァラ官長だった。


 そういえば、官長も騎士団の寮に自室を持っていると聞いたことがある。どこか別の場所に本宅もあるらしいのだが、王都にいる間はほとんどをこの騎士団寮で過ごしているようだった。


 といっても幹部職なので、一般の団員が住む簡素な寮とは違い、官長が暮らしているのは豪華な設備が自慢の幹部棟らしい。


「あ、官長。ちょっと人を探してまして……タケト、見かけませんでしたこと?」


「タケト……? ああ、そういや、さっき見かけたな。男性寮の方だったと思うが」


「「男性寮……!?」」


 思わず、ブリジッタとシャンテの声が重なる。


 てっきり女性のところに行くのだとばかり思っていたので、タケトの行き先は女性寮だと考えていた。しかし、そのタケトが男性寮にいたということは……。


「え……それって、もしかして。相手は男性……???」


 そう言ってから、しまったと慌てて口を閉じる。シャンテの様子をうかがうと、彼女はあまりのショックからか元々色白の顔面がさらに蒼白になっていた。


「タケト……に、彼氏……?」


 呆然とした呟きが、ヒューと吹き抜けた風と共に森へと消えていった。

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