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第38話 古の研究者


 なぜ。

 なぜ、なんだ。

 なぜ、私が……殺されなければならない。

 私が、何をしたというのだ。

 私には、まだやらなければならないことがあるんだ。

 どうしても、やりたいことが。




「ほら。歩け!」


 兵士に背中を蹴られ、男は地面に倒れこんだ。手で支えようにも、両手を後ろで縛られている。顔に泥がつき、口にも入り込んだ。


 しかしぐずぐずしていると、また手ひどく殴られてしまうだろう。

 男は折れそうなほどに痩せ細った両足へと最後の力を込め、立ちあがった。


 そしてボロ布のようになった服をまとう枯れ木のような身体で、夢遊病者のようにフラフラと歩き出す。


 その目の前にあるのは、絞首台。

 男は一歩一歩、その階段を上った。


 組まれた木枠から垂らされた縄が、目前に迫ってくる。

 目の前に、死が現実として突きつけられ、男は目を剥いた。


「うわああああああああ」


 恐怖で叫び、固まった。

 座り込んで動けなくなったところを、怒った兵士によって無理矢理立たされ、引きずられる。そして、台の上へと引きあげられると、縄の下まで連れてこられた。


 縄の先端は輪になっていて、それに首を入れろと兵士にせっつかれる。

 腰が抜けたように動けなくなった男は、しこたま兵士に蹴られた。背骨が折れるかと思うほどだった。


「なぜ……なぜなんだ! なぜ、私がこんな目に……。私が、何をしたというんだ!!!」


 男は落ちくぼんだ目を見開き血を吐きながら、兵士に訴えた。


 絞首台の回りでは、人々が今か今かと期待に満ちた目で待ち構えている。狂喜に満ちた目で、早くやれと迫ってくる。


 兵士は男の胸ぐらを掴むと、顔に唾を吐きかけて下衆な笑みを浮かべた。


「まだわかんねぇのかよ。『知ること』こそが、罪なんだ。お前は禁じられていることを調べようとした。その罪は死に値する。違うか?」


 禁じられていることは、当然知っていた。だから、研究していた内容は誰にも知られないようにしていた。それでも、嗅ぎつかれた。裏切られた。騙された。


「さあ。わかっただろ。ほら、立て!」


 男は縄の下に立った。その首に縄がかけられる。ぞっとするほどの、冷たさだった。

 観衆の視線を一身に浴びる中、兵士が男の罪状とこれから死罪に処すことを高らかと宣言する。


 次の瞬間、背中を大きく押された。


「あっ……」


 前のめりになり、足が台から離れた。

 空に放たれた足。首に、男の全体重がかかる。

 目に涙が浮かんだが、もう言葉を出すことも叶わなかった。


(私は、ただ……知りたかった……。知りたかっただけなんだ!!!)


 食い込む縄が苦しくて爪でしきりに掻いてもがくが、皮膚が削られるだけで縄は一層強く食い込んでくる。


 笑い声が聞こえた。民衆の歓喜の声の中、男は虚空を睨む。

 それが、最後に見た景色だった。

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