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第149話 禁書庫のアイツ

ピッコマさんなどでコミカライズ更新中!

 馬車の中で、タケトは膝の上で丸まって眠っているトン吉の背をゆっくりとした手つきで撫でていた。そうしながらも、頭の中にはシャンテが言っていた『またすぐあの人のところに行っちゃうなら、もう、戻ってこなきゃ良かったのに』という言葉が何度もちらつく。


(あの人って、誰のことだ……)


 状況を考えると、いまタケトが呼ばれた相手。ジェン王のことだろう。ということは、シャンテはタケトが朝までジェンの元で過ごしたことを知っているに違いない。そして、おそらくだがジェンとの関係を誤解されている。


 なんでそんなことになったんだろう。たしかに、ジェンの元に報告書を持っていくと言って別れたけれど、そのまま朝まで上司のところにいるとは普通は思わないよな。


 そのときふと、タケトの脳裏に昨日の情景が思い浮かんできた。

 酔っ払ったジェンを介抱してソファに寝かせたあと、王の間に通じる扉を閉めようとしたときのことだ。


 あのとき、扉の向こう側で魔獣オークションのリストを拾った。あれは元々シャンテが持っていたものだ。ということはあそこに彼女がいたのかもしれない、ということにようやくタケトは思い至る。


(そっか……よりにもよって、ジェンに抱きつかれたのを見られてたのか)


 だとすると、誤解するのも無理はない。

 これはもう、あとで土下座してでもちゃんと謝るしかないだろう。

 でも。


(それだけじゃ、たぶんもう、だめなんだよな……)


 仕事でも生活でもずっと一緒にいたから、なんとなくこれからもずっと一緒にいるんだと信じて疑いもしなかった。

 このままでもいいとすら思って、どこか現状に甘えてしまっていた。


 けれど、自分からは彼女に一度だって自分の気持ちを伝えたことがない。彼女に自分のことをどう思っているのかを尋ねたこともない。

 曖昧なまま、ずっと過ごしてきた。

 そこに確かなものは、何もなかった。タケトの立場は初めて会ったあの日。寝る場所を貸して貰ったというその関係から、なんら変わっていないのだ。


(そろそろちゃんと向き合わないとな)


 自分の気持ちに。

 それと、彼女の気持ちに。





 そんなことを考えていたら、馬車は大通りを南下して王都の中央広場へとやってきた。王立図書館の前で馬車が止まる。

 馬車から降りると、御者が恭しく頭を下げながら、


「禁書庫でお待ちです」


 と告げた。

 図書館に入ると、奥の書記机のところにクラリスの姿を見つける。彼女に禁書庫へ行きたい旨を告げると、「ええ、お聞きしています」とすぐに鍵を渡してくれた。


 その鍵で地下へと続く階段の入り口にある鉄格子のような扉を開けると、地下へと続く螺旋階段を下っていく。トン吉も短い脚でトントンと器用に階段を降りていた。


 途中にもいくつか扉を抜け、その度に鍵で開けながら、ランタンを片手にヒンヤリとした階段をさらに下る。すると、ぽっかりと空いた空間にたどり着いた。その奥の扉の前にも数人の騎士団員が警備をしているのが見える。彼らと挨拶を交わすと禁書庫へと通してもらった。彼らともすっかり顔見知りだ。


 もう何度訪れたのか分からないくらいしょっちゅう来ている禁書庫。ここで司書のクラリスや館長のサマンサと出くわすことはあったが、ジェンと会うのは初めてだった。


 扉をあけて禁書庫の中に入ると、そこは地下とは思えないほどの明るさに満たされていた。建物三階分はありそうな高い天井の真ん中に大きな魔石が嵌まっていて、そこから穏やかな光が室内の隅々まで降り注いでいる。


 円形の部屋の壁を覆い尽くすように置かれた本棚は天井付近まで伸び、その棚全てがぎっしりと本で埋め尽くされていた。床にも背の低い棚が所狭しと並んでいる。

 書庫の中を歩いて行くと、棚の間を縫って緑色のものがタケトに飛びついてきた。タケトはその緑のものを両手を広げて抱きかかえる。


「よぉ。久しぶり。元気してたか? っていっても、先週も会ったけどな」


『アッタ アッタ』


 茎や葉っぱがぴょんぴょん飛び出ている長く薄緑色の髪と、同じ色の口ひげに覆われた植物なんだか動物なんだかよくわからない生き物は、タケトに抱かれたまま元気そうに根っこのようなシワシワの手を挙げた。


 以前、タケトがこの禁書庫に司書手伝い兼警備員として連れてきたマンドラゴラだ。

 もう、すっかりここでの生活も慣れたようだった。

 それとともに、


「やぁ。やっと来たな」


 キャットウォークに置かれたハシゴの上で本を読みふけっていたジェンが、顔を上げてタケトを見るとニッコリと微笑むのが見えた。


「強制召還しないでください。ひと言、来いって手紙でもくれればすぐに自分の足で来ますから」


 無理矢理呼び出されたことに、ちょっと不満げな感情を滲ませながらタケトが言う。


「おや? そうかい? わざわざ来て貰うのは申し訳ないから、迎えをよこしたんだが」


「それで。なんの用事ですか?」


 タケトに問われて、ジェンは「そうだった。そうだった」とタケトを呼んだ目的を今思い出したというようにパタンと本を閉じる。


「前に、共同研究者を紹介するって言っただろ?」


「あ、はい」


 そういえばジェンの執務室で話したときにそんなことを言われたなとタケトは思い出す。


「それが、その子だよ」


 ジェンはタケトの傍まで歩いてくると、タケトの腕に抱かれてくつろいでいたマンドラゴラを抱き上げた。


「……え」


「キミは、よくここに来てるのに気付いてなかったのかい? まぁ、僕も気付いたの

は最近なんだけどね。彼はね。ここにある書物全てを読んで頭にたたき込んでしまったんだよ」


 ジェンに抱かれたマンドラゴラは、ご機嫌にシワシワの両手をパタパタさせる。


『ヨンダ ゼンブ ヨンダ』


「え……えええっ!? ここにある本全部!?」


 タケトは禁書庫の中をぐるっと指さした。三階分ほどの高さがある円形の部屋の、壁という壁が天井まで本棚で覆い尽くされている。その棚全てにぎっしりと本が詰まっていた。さらに床の低い棚にも巻物など様々な文献が保管されているのだ。

 この本をすべて、マンドラゴラは読んでしまったのだという。

 ここならしばらくこいつの暇つぶしにうってつけだと思ったのに。


「またどっかから本を調達してこなきゃ……」


  タケトはがっくりと項垂れるのだった。


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