第105話 よし。アイツらを狩ろう。
一方、タケトとカロンはタウロス山を登っていた。肩にはトン吉が乗ったままだが、火山と地震に怯えているのか肩の上でジッとしている。
「なぁ。カロンは、サラマンダーって見たことあるのか?」
息を弾ませながら、タケトは前をいくカロンに尋ねる。
いま彼らがいるのは山の六合目付近。一方、溶岩流は八合目付近を過ぎたあたりを下っている。もう、距離はだいぶ近づいていた。
カロンはなぜか即答せずに少し間を置いたあと応えた。
「……はい。以前に一度、見たことはあります。かなり前ではありますが」
「かなり前?」
「僕が子どもの頃です」
このあたりまえでくると木々はまばらになり、足下にはゴツゴツした黒っぽい小さな石ばかりになっていた。一つ摘まんで眺めてみると、普通の石ではなく小さな気泡が沢山空いているのがわかる。
これ、小学校の林間学校で行った富士山に落ちてたのと同じヤツだ。溶岩が冷えて固まってできる溶岩石ってやつ。きっと、前回の大噴火のときの溶岩が固まったものだろう。
「じゃあ、この仕事についてからは見てないんだ?」
「そうですね。サラマンダー自体、溶岩の中に住むという生態からして、かなり貴重な種ですし」
溶岩流は当然低いところを目指して流れるので、タケトたちは正面からぶつからないように尾根づたいに登っていく。
「溶岩の中に住むって、それ溶岩ごと保護しないとダメとかってことないよな?」
「……それに近いことはする必要があるかと思います。健康なサラマンダーは、とても高い体温をしています。身体を冷やしてしまうと死に繋がるといわれていて、とても飼育や管理の難しい魔獣です」
なるほど。溶岩の中に住んでいるだけあって、それ以外の環境では生存が難しいらしい。じゃあ、そんな生き物を一体どうやって保護すればいいんだろう?
そんなことを話しているうちに、溶岩流の先端まであと数十メートルという位置にまでたどり着いた。溶岩は少しでも低いところを求めて生き物のように迫ってくる。なんだか粘菌みたいだ。
冷えて赤黒くなった表面を、さらに中から突き破るようにして赤く光る高温の溶岩があふれ出して進んでくる。
溶岩と一緒に吹き出しているのだろう。火山性ガスのせいで腐った卵のような臭いがたちこめていた。ツンと鼻につく悪臭にタケトは腕で鼻を押えながら顔をしかめる。
「うわっ、凄い臭いだな。カロンは大丈夫なのか?」
「もうとっくに鼻は麻痺しましたから、大丈夫です」
なんて平気な顔をして言うカロン。獣人は普通の人間より嗅覚に優れているから、本当はタケト以上にキツいのかもしれない。
「トン吉も、大丈夫か?」
肩に乗っているので様子が見えないが、くぐもった声で「あい…」と聞こえた。どうやら臭いが嫌で鼻を押えているようだ。その背を一撫でしてやる。
「やること終わったらすぐに脱出するからさ。それまで我慢しててくれな」
できることならシャンテたちと一緒に港の方に向かわせてやりたかったが、トン吉は精霊銃と一体なのでそうもいかない。タケトが銃を持っている以上、こっちに同行してもらわざるをえなかった。
とにかく、サラマンダーとやらを早く見つけて港に向かわなければ。
「サラマンダー見つけても、どうするかなぁ。カロンがそのモコモコっとした身体で温めながら運ぶ?」
「それ、僕が燃えてしまうんですが」
「じゃあ、どうやって運べばいいんだろう。どうにか運べても、そのまま乗せたら船ごと燃えちゃうよな」
本来なら火気は木造の船には厳禁だ。それに体温が冷えれば死に直結するとなると、海水につからないようにする配慮も必要だろう。
「そのことを僕も考えていたんですが。ここに登ってくる前に密猟者らしき小舟をみかけましたよね」
「え? ああ、そういえば。シャンテがみつけたやつ?」
「あれって、誰か乗っていましたか?」
「いや、誰も」
「何か檻のようなものを乗せていたりは?」
「いや……」
記憶をたどってみるが、小舟には毛布みたいなのがぺらっと置いてあっただけで檻みたいなものなんてなかった。
「ですよね。それは僕も確認しました。あの船の持ち主は、こんな時にわざわざ島に上陸してきたやつらです。もし本当にサラマンダーを狙う密猟者だったとしたら、それなりの準備はしてきているはずなんですよね。危険を冒してまで捕まえても、売り渡す前に死んでしまっては、価値は相当下がってしまうでしょうから」
「そっか! そいつらがサラマンダーを捕獲できる檻なりなんなりもってるかもしれないんだ!」
カロンもコクンと頷く。
「ええ。ですから」
にやっとタケトは口端を上げて笑う。
「それを強奪すりゃいいんだな」
「思いっきり悪人の顔してますよ、タケト。強奪なんてそんな人聞きの悪い」
「じゃあどうすんの?」
「ちょっとお借りするだけです。もしくは、王法に基づいた強制徴収とでも言いましょうか」
「……言ってること、俺と全く同じじゃん」
「物事には建前というものが必要なんですよ」
なんて諭されてしまったが、やっぱり言ってることは強奪となんら変わりない。そんな軽口たたき合っている間も、二人は辺りに目を光らせている。低い木々しか生えていない荒涼とした山肌は、遠くまでよく見渡せた。
ここにくるまでに出会わなかったということは、ここより先にいるはずなのだ。
「あ、いた!!! あそこ!」
タケトがここより少し上の高度の、百メートルほど離れた地点を指さす。
そこを流れる一番太い溶岩流の先に、小さな黒い点がいくつか動いているのがかすかに見えた。
カロンはすぐに取り出した双眼鏡でそちらを確認する。
「間違いありません。三人……いや、四人いますね。一人が背中に何か大きなものを背負っているようです」
避難もせず、大噴火真っ最中のこのタウロス山にいるなんて、狂気の沙汰だ。
にもかかわらずわざわざ山を登ってきて溶岩流の傍にいるなら、サラマンダー目当てと見て間違いないだろう。
背負われた大きなものは、サラマンダー用の檻に違いない。
「よっしゃ、あいつらを狩ろうぜ」
「だから、タケト。言い方」
そんなことを言いながらも、カロンは密猟者らしき四人組の方へと向かっていく。タケトは精霊銃のトリガーに指をかけて銃を下に向けると、カロンの後ろからついていった。




