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第101話 説得


「なぁ。この魔獣って、言葉、通じるんだよな?」


 ちょいちょいとカロンの服の袖を引っ張って、タケトは確認する。

 洞窟内はぼんやりとした魔石の光と、松明やランタンの灯りで薄暗い。


 そして、ほとんど間髪ないほどに地面が揺れていた。ときおり襲ってくる大きな揺れの合間にも小さな揺れが続く。まるで、胎内にでもいるかのようだ。

 カロンがこちらを向くと、獣化した黒豹の瞳がキラリと光った。


「そのはずです。ここに来るときに見せて貰った資料にも、そう記載されていましたし」


 その資料ならタケトも読んだが、こんな洞窟と一体化してしまっているかのような巨大な魔獣に自分たちの言葉が通じるのか不安があった。

 でも、通じるというなら、説得も可能なはずである。


「我々も、これまで何度となく説得を繰り返してきたのですが、まったく動いていただけなくて……」


 松明を持った水軍兵の男が、申し訳なさそうに頭を垂れた。

 自分たちじゃ手に余るから説得はお前らに任せる、ということのようだ。

 一抹の不安を感じながらも、やるしかないよなぁとタケトは心を決める。


 最初にやったことは自分の手にあるランタンの火を消すことだった。カロンたち魔獣密猟取締官の面々も、タケトの行動の意味を察して同様に明りを消す。


「すみません。最小限のものを残して、極力明りは消して貰えませんか」


 タケトの言葉に、水軍兵の男たちは一瞬戸惑った空気を漂わせる。

 しかし、タケトが再度同様の言葉を繰り返すと、最小限の松明を残して他は消してくれた。


 炎による強い光が消えたことで、洞窟の中はぼんやりとした薄青い光に包まれる。

 タケトがそうしたのには理由わけがあった。レイキはずっとこの洞窟の中にいる。だから、この薄明かりに目が慣れているはずだ。ほの暗さに順応した目には、ランタンや松明の明りは強すぎるに違いない。


 生き物にはそれぞれ、適した明るさのレベルがある。人にとって快適な明るさは、他の動物にとっても心地よいとは限らない。

 思った通り、レイキの瞳が少し大きくなった。さっきまで眩しくて目をすがめていたのだ。


 人を説得するのに一番大事なのは、相手に信頼感を与えること。それは刑事時代に先輩から教えられたことだったが、人じゃないものに対しても基本は同じだろうとタケトは考えている。


 信頼できない相手の話なんて、誰も耳を傾けない。

 だから、こちらが譲れる部分は最大限譲ることにして、明りを消したのだ。


 この島が危ないことは、ずっとこの島に住み続けているレイキも重々わかっているはず。それにもかかわらず、逃げようとしない。ということは、きっと何か譲れない事情があるのだろうとタケトは考えた。


 それを聞き出さないことには、説得なんてできない。まして相手は、巨大な質量を持った亀だ。人間がむりやり船に乗せることもできやしない。自分の足でこの場から移動してもらわなきゃ話にならないのだ。

 魔石の放つ淡く青白い光に浸る洞窟の中。誰も声を発さない。


「希少魔獣レイキ」


 その静けさの中、タケトの声だけが響く。


「ご存じの通り、この山はいつ大噴火してもおかしくない危険な状況にあります」


 レイキは微動だにせず、ただ静かに目の前のタケトを眺めていた。


「俺は王都で魔獣密猟取締官をしているタケト・ヒムカイです。アナタをこの島から避難させるために来ました。そのための船も用意してあります。どうか俺たちと一緒にきてくれないでしょうか」


 レイキからの返事はない。その代わり、足下深くから地鳴りが迫って来たかと思うと、大きな揺れとなってタケトたちを襲った。立っているのすら難しいほどの揺れ。


「きゃっ」


 シャンテが倒れそうになるのを、カロンが支える。

 ブリジッタにいたっては、もう立っていることを諦めてペタンとその場に座っている。


 タケトは倒れそうになるのをなんとか足で踏ん張った。そして、揺れが収まるとすぐに言葉を続ける。もう一刻の猶予もない。


「いまならまだアナタを逃がすことができるんです! どうか俺たちと来てください! もし何か事情があって逃げられないなら、俺たちにできることなら協力しますから」


 地の底から響くような不気味な地鳴りはまだ続いている。

 レイキはただジッとタケトを見つめていたが、動いてくれる気配はなかった。タケトたちだっていつまでもここにいるわけにもいかない。


 このままレイキを置いて、任務を達することもできないまま避難するしかないのだろうか。

 バラバラと天井から砂や砕けた岩の破片が降ってくる。洞窟全体がギシギシと嫌な音を立てて歪みはじめていた。


「もう、これ以上は危険です!」


 水軍兵の男が叫んだ。

 洞窟が崩れれば、タケトたちも生き埋めになってしまう。

 そろそろ逃げ出さないと、本気でやばい。これ以上の交渉は無理なのか。

 タケトが最後の言葉を発しようと息を吸い込んだところで、


『イケヌ』


 不思議な声が聞こえた。とても重く、静かな声。

 それも耳から聞こえたのではなく、頭の中にトンと置かれたような、そんな声だった。


「え?」


 聞こえたのはタケトだけではなかったようだ。

 洞窟の外へ逃げだそうとしていた水軍兵たちも足を止める。

 すると、絶え間なく降り始めていた洞窟の天井からの落石が止まる。

 まるでその場の時間が止まったかのように、地面からの震動も止まっていた。


『ワレハ イケヌ』


 もう一度、声が聞こえた。

 タケトは目の前のレイキを見つめる。間違いない、これはレイキの声だ。

 言葉が通じた。

 タケトはすぐに、次の言葉を続ける。


「なぜですか? ここにいたら、最悪、アナタも溶岩に飲まれてしまう!」


 返答してくれるかどうか半信半疑だったが、今度はすぐに言葉が返ってきた。


『ワレハ コノチヲ マモルモノ 

 ヨッテ コノチヲ ハナレルワケニハ イカヌ』


 テコでも動いてくれそうになかった。




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