5050
世界消滅まで、あと1時間。
由貴達は、上間の部屋へと向かった。
俺は内ポケットを確認し、上間の元へ走り出す。
「おっ!」
タイミングよく、上間が近くに飛ばされてきた。
「………お主は馬鹿なのか?」
「バ神に言われたくない。
こんな状況でも、冗談を言うくらいには落ち着いているようだ。
「………止めるのは難しそうか?」
「………不可能ではないがのぅ」
「自分の言葉に責任を持てよ。
今から、葦牙を足止めしてくれ」
「具体的には?」
「俺が、葦牙の元へ着くまでのフォローと、葦牙の動きは一瞬封じてほしい」
「………勝率は?」
「50 50」
「なら、隙を見逃さず、やってみるがよい」
上間は立ち上がり、葦牙に接近する。
「合図はしてやるー!」
上間と葦牙の戦闘は苛烈を極めている。
地面は抉れ、木は倒れている。
復活してからの葦牙は意識がなく、ただ暴れ回る嵐そのもの。
そのため、最初は上間が優勢だったが、その戦いの経験故か、葦牙から隙が無くなっていっている。
俺は一旦距離をとり、上間の合図を待つ。
「………今じゃー!」
その声と同時に走り出す。
どうやら上間は、防戦一方になりながら、葦牙の動きを止めるように、策を練っていたようだ。
5つの光が葦牙を取り囲んでいる。
どうやら、葦牙を中心に五芒星を描き、それが動きを止めているようだ。
葦牙に近づき、高天から受け取ったペンダントを握り………殴る。
「お主、何しておる!」
「………手が滑った」
普通にペンダントを押しつけるつもりが、勢いあまって、殴ってしまった。
………ペンダント、壊れてないよね?
ゆっくり手を開き、確認する。
どうやら、破損はないようだ。
「葦牙! このペンダントが目に入らぬか!」
葦牙がこちらを向き、動きを止める。
「これは、お前が愛した女性のものだ!」
「………ガァーーー!!!」
動きが止まったかのように見えた葦牙は、突然大声を上げ、封じられた身体をガムシャラに動かす。
「早く、そこから離れろ!」
封じるものを取り払った葦牙を、さっきより濃く暗いモノが取り囲んでいる。
それに触れた地面はひび割れ、植物は枯れ、川は干上がっていく。
葦牙が近づいたと思ったら、俺はぶっ飛ばされていた。
………デジャブ?
さっきまでの実は夢? なわけないよな。
身体は動かせないが、息をしているくらいは分かる。
内ポケットを探ると、ペンダントが壊れている。
どうやら、ペンダントが致命傷を防いでくれたようだ。
葦牙であろう、近づく足音がする。
俺はペンダントを握り、謝る。
名も知らぬ女性よ、すまない。
どうやら、君の形見は返すことができなそうだ。
足音が俺の前で止まる。
………死んだな。
覚悟をして、ゆっくり意識を手放す。
「………謝る必要はありませんよ」
………その声。
葦牙の封印された場所で聞いた声だ。
「私は織愛。
そのペンダントの持主、と言えば分かるでしょう」
ゆっくり目を開けると、黒髪ロングの美女が俺を背に、葦牙との間に立っていた。
葦牙は困惑からか、動きを止めている。
「………葦牙、ごめんなさい。
あなたに迷惑をかけないつもりが、結局かけてしまいました」
「恭弥ー!」
「恭弥さーん!」
由貴達が大声を上げ、近づいてくる。
「あなたは、私が殺されと思っていたようですが、違います。
私が、自分で死を選んだのです」
「………やはり、そうか」
「どういうことだ?」
「神が織愛を殺したという記録も、織愛が殺されたという記録さえなかった」
「………それのどこがおかしいんだ?」
「おかしいんじゃな。
我らが世界を監視するようになってから、全ての事象は記憶、記録されるようになった。
だから、その事象が存在しないというのはおかしな話じゃ」
………また謎が増えてないか?
「………それは、私が天乃様に頼んだからです」
「なんじゃと!」
「天乃様は奔放な性格で、世界を飛び回っていたためか、私達の事も知っていました。
だから、頼んだのです。
子供が産まれたら、私の事象を消してくれるようにと。
残念ながら、神々の記憶までは消せなかったようですが」
「ちょっと待て!
だが、それならなんで、お前の子孫で次期高天の高木が、お前の話を知っていて、お前の形見であるペンダントを持っていたんだ?」
「それは、高天様だと思います」
高天が葦牙と織愛のことを悲しみ、地へ降り、織愛の子供も育て「高天」の名が継承されるようになった、と高木は言っていた。
さっきから、葦牙は静かに話を聞くように黙って動かない。
「葦牙や子孫達に何かあったらと、天乃様にお願いし、意識の一部を封印したこのペンダントを天乃様に渡しておりました。
そこからは推測ですが、葦牙を止められず封印することになったため、天乃様は自身ではなく、高天様にペンダントを渡したのでしょう」
それでも、高木の言った話と合わない。
なぜ高木は、織愛が殺されたと思い、なぜ葦牙を復活させようとしたのか。
「葦牙、もういいのです。
あなたが、怒ることは何もないのです」
「………バタッ」
なぜか、葦牙がうつ伏せに倒れる。
「………ご苦労さん」




