やってみよう
「………ついたな」
………あれ?
周りには、誰もいない。
隠世に行くのには成功したが、バラバラになってしまったようだ。
仕方ない。
1人で上間の元へ向かおう。
幸い、ここから城は見えるし、向かっていたら、どこかで会うだろう。
正直、ここで1人はマズイので、善は急げとばかりに城へ走る。
隠世も、雲はないのに暗く、今にも雨が降りそうだ。
運がいいのか、今の状況が影響しているかは分からないが、誰1人歩いていない。
これは好都合だ。
どこかのゲームみたいに、ゾンビが徘徊している、とかじゃなくてよかった。
今は拳銃どころか、武器になるような物を持ってないからな。
今の内に、進もう。
結局、誰に会うこともなく、城に着いた。
今日は門番の姿もない。
「おじゃましまーす」
言葉通りの意味で。
今回は不法進入だからね。
言質は大事って事ですね。
真っ直ぐ、上間の元へ向かう。
だが、途中で何故か道が途切れている。
………これも葦牙の影響なのか?
だが、よく見たらゴッソリ先がないのだ。
どうやら、表からは変化がないが、裏から見ると半壊しているようだ。
その裏の方で土煙が上がっている。
ということは、やはり葦牙の仕業か。
今すぐ向かいたいが、今の俺に何ができるだろうか。
カッコつけて、綺麗事を言っていたが、結局コレだ。
俺には、何もないのだ。
今も、輪や美奈はともかく、由貴を待たないと何もできない。
考える頭もなければ、腕っ節もない。
俺自身には、現状を打開する力はないのだ。
「………待つか」
せめて、由貴が来るまで待とう。
………仕方ない。
………本当に仕方ないのか?
力はなくても、99%の努力もなくても、
俺には、俺のできることがあるはずだ。
1秒でも時間を稼げれば、上間の体勢を整える時間くらいにはなるはずだ。
恐怖で手や足は震え、汗が流れて出てくる。
「………パチン」
顔を叩き、気合い入れる。
「………よし」
一旦下まで降りて、城の裏へ向かう。
遠目からじゃよくわからないが、上間が押されているようだ。
やはり、4VS1はキツイか。
戦う度に、土煙は上がり、周囲に影響を及ぼしている。
まず、注意を引きつけてみようか。
大きく息を吸い込み、
「上間ー!」
デカい声で叫ぶ。
たぶんだが、葦牙の注意逸れたようで、その隙に攻撃したようだ。
「お主は何しとるんじゃー!」
今度は、上間が戦いながら、大声を上げてきた。
葦牙が言葉を話さないから、会話は大丈夫のようだな。
「手助けにきたんだよー!」
「馬鹿かー!」
「馬鹿だよー!」
「さっさと帰れー!」
「嫌だー!」
俺が話す度に、葦牙の注意は逸れ、上間が上手く攻撃しているようだ。
葦牙が馬鹿だから、1秒どころか普通に役立っている。
「他の者はー!」
「知らねー!」
「ここじゃー!
「ここですよー!」
「………」
美奈、ここに来て沈黙とか止めようよ。
実は隠された力があるけど、映画版の方でしか見れないとか。
そういう詐欺はもういいよ。
もう最終回に向かってるんだから、沈黙キャラとか捨てて、普通に喋ってください!
以上、主人公からのお願いでした。
とにかく、皆が無事でよかった。
「どうやら、葦牙の影響のようでした」
やはり、それも葦牙の影響か。
「ここに来るまで問題はなかったか?」
「人がいませんでした」
「空気が淀んでおるな」
「ない」
そのいなくなった人というのは、どうなったんだろうな?
「上間ー!
倒せそうかー!」
「無理じゃー!」
「だってよ。
どうする?」
葦牙は馬鹿ではないようだ。
「会話で注意逸らして攻撃」にもいい加減慣れたようで、上間は押され始めている。
「………このままだとマズイな。
輪、もし上間の神格が葦牙に渡ればどうなる?」
「………わからぬ。
そんな事は1度もないからのぅ。
ただ、善くないことだけはわかる。
今の葦牙に渡れば、世界が滅びてもおかしくない」
「………何か手はないのか?」
「今の葦牙様は、大好き人を殺された負の情念に取り憑かれているんですよね?
なら、それをなんとかすれば」
葦牙は意識を取り戻し、元に戻るかもしれないか。
「でも、どうやって?」
「それは、私の時と一緒だと思います」
「その未練や後悔を無くせば………」
「だが、死んだ人間を生き返らせることはできないぞ」
「………そうですね」
「輪」
「なんじゃ?」
「葦牙の女を殺したのは、お前達じゃないと言ってたな?」
「そうじゃ」
「なら、誰が殺したんだ?」
「………それは、わからぬのじゃ」
「それが鍵になるんじゃないか?」
高木の話だと、葦牙と人間の女が恋に落ち、それをよく思わない神の1柱が女を殺したと言っていた。
それだけ聞くと、嫉妬に狂って、その女を殺したように聞こえる。
いや、高天の場合なら違うか。
腐っているなら、ともかく。
固定観念は捨てよう。
葦牙ー恋ー女
神→女ー殺
葦牙ー怒→封印
今わかってるのは、こんな所か。
「輪、女が殺された頃の記録や記憶とかないのか?」
「記録は探せばあると思うのじゃが、記憶はないのぅ。
あるとしたら、神格の中じゃ」
結局、神格を取り戻すしかないのか。
「とりあえず、3人は記録を探してくれ」
「お主はどうするのじゃ?」
「………ちょっと、考えがある」
そして、2手に分かれる。
上間は防戦一方だ。
あまり、時間は残されていない。
世界消滅まで、あと1時間。




