突入開始
中には、なんとか入ることができた。
ただ、四つん這いで、非常に動きにくい。
服の擦れる音や皆が動いている音しかしない。
………中が薄暗くてよかった。
明るかったら、少しマズい事態になっていたかもしれない。
黙々と前に進んで行く。
「………どのくらい進んだ?」
「お主、大きな声を出すでない」
すまない。
だが、今の状態を考えると、輪までの距離が由貴と美奈の分あるからな。
たぶん、小声だと聞こえないだろう。
「まだ、半分も来ておらぬぞ」
確かに、家自体が離れていたからな。
結構な距離ありそうだ。
このままだと、匍匐前進を完全にマスターし、自衛隊員にもなれるんじゃないか?
………いや、無理か。
「無理ですね」
「無理じゃな」
「無理」
美奈お前もか!
お前達に自衛隊員のなにがわかるんだ!
屋根裏や家の隠し通路というのは、汚いイメージがあるが、ここはそれほどでもない。
強いて言えば、ホコリがあるくらいだ。
黙々とそして、前を見失わないように、進んで行く。
「………アッ」
なにやら、頭に柔らかいものが当たったぞ。
「押さないでください」
「………すまん」
どうやら止まったようで、頭で由貴のお尻を押していた。
「こんな狭い中でとは、さすがじゃなお主」
今のは事故だ!
狙ったわけじゃないぞ。
輪達はまた、進み始める。
目の前に、人1人通れるくらいのスペースが開いている。
そこを抜けると、さっきまでよりは少し明るい部屋に出た。
だが、高さがあったようで、真っ逆さまに落ちていく。
そして、そのまま地面に叩きつけられた。
「………ガハッ」
幸い、由貴達は離れており、つぶすことはなかった。
「………大丈夫ですか?」
「なんとかな。
それより輪、こういうことは先に言えよ」
「すまんのぅ、忘れておった」
そう言って、笑っている。
コイツ、絶対わざとだな。
「もう着いたのか?」
「ここは既に城の中じゃ」
当然、人目のつく所に隠し通路を作るわけないよな。
「この場所は、ワシが隠世で使っていた部屋じゃな」
すると、突然照明がつく。
目が慣れていないせいで、思わず目を瞑る。
そして、ゆっくり目を開ける。
「どうじゃ?」
「………広いですね」
今は誰も使ってないようで、ホコリっぽい。
そして無駄に広く、本棚には沢山の書物が並べられている。
「意外と綺麗にしてるんだな」
「意外とはなんじゃ!」
いや、言葉通り。
普段の家の生活を考えると、ゴミ屋敷になっていてもおかしくない。
「そこは、それをやってくれる者がおるからのぅ」
自信満々に言うことか!
結局、人任せじゃないか。
「今から、上間の元へ向かうぞ」
切り替え早いな。
今日は珍しく真面目モードだ。
「心当たりはあるのか?」
「ある」
「ここからは、正面突破で行くぞ」
輪が部屋を開け、飛び出す。
俺達は、その後ろをついて行く。
「上間の所までどのくらいだ?」
「さして、かからなぬ」
それが言葉通りならいいのだが。
「………着いたぞ」
輪の言った通り、誰とも会うことなく、すぐに神皇の元まで着いた。
ゆっくりと、扉を開く。
そこは、以前上間を殴ろうとした場所だった。
「よく来れたな」
「当たり前じゃろう」
「他の者も一緒のようであるな」
「お久しぶりです、上間様」
「挨拶は後だ。今はどんな状況なんだ?」
「現在、表の世界の代表者が行方不明。それに関連してか、表の世に影響が出ておる」
学校が隔離されたってやつか。
「それで、美奈を押し付けて、わかったことは?」
「押し付けたとは、酷い言い草じゃな」
言い方はともかく、実際押しつけたのと同意だからな。
「美奈が、お主の所へ行きたそうだったから、そちらを送っただけであるが?」
美奈に目を向けると、首を縦に振る。
………なんだと?
「妾がただ己の意思だけで、押しつけたと言うのか?」
「………すまない」
美奈には悪いが、なんか納得できない。
そもそも、美奈に懐かれる程のことをしたとは思えない。
由貴と輪はこちらを睨まないでいただきたい。
美奈も、こちらも見つめないでほしい。
美奈にそういう気はないかもしれないが、勘違いされかねないからな。
「まぁ、よい。
今はそれどころではないからな」
コイツ、絶対ワザとやりやがったな。
今度は、絶対1発当ててやる。
「もしかしたら、表の代表者がそちらの世界に行っておるかもしれぬ。
そちらに起こっている問題はなんとかしておくから、お主らは一旦戻ってほしい。
新しい者を送るより、慣れた者の方がよいであろう」
確かに、そこには同意する。
それに………いや、なんでもない。
「では、ワシらは戻るとしよう」
「選定者、これだけは伝えておこう」
………選定者って俺のこと?
神皇は首を縦に振る。
「表の代表者、その男の名は………高木 雅彦」




